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エリシア・ルノワール・アレクシア



第1王子である兄から放たれた私への刺客。


命からがら隣国の国境を超え逃げたのにも関わらず、国境侵犯も辞さないとはそこまでして私を消したいのでしょうか。


私を守っていた兵士たちはも1人また1人と討たれ、残るは私に幼少の頃から仕える近衛騎士のユミルとロイだけ。


危険は承知で“深淵の森”と呼ばれる危険地帯に入り込みましたが、それでも尚追手は諦めません。遂に追い詰められてしまいました。


ユミルとロイも既に満身創痍…ここまでですか…ならばせめて最後まで忠臣であった2人と共に…


「え?」


私達を追いかけていた兵士たちが何者かに襲われています…あれは少年?年は私と同じくらいでしょうか?



「っ…誰…何方様、でしょう、か…?」


「…味方、で…いいの、か?」


一瞬意識を外したら近くに別の少年が立っていました。


ユミルとロイが私を庇うように立ちはだかりますが、少年は温和な笑みでこう言いました。


「えぇ、その認識で合ってますよ?お怪我は大丈夫ですか?」


どうやら私たちの敵ではないようです。でもこんな場所で何をしてたのでしょうか?私たちが言うのもなんですけど、ここは深淵の森ですよ?


「我々、は…もう、持ちそうも、ない、な…」


「そう、ですね…あま、りにも攻撃を、貰いすぎました…」


あっ!?


既に体力の限界だったユミルとロイが地面に崩れ落ちてしまいました!


そんな!?駄目ですっ!


「っ!ユミル!ロイ!許しませんよ!?私より先に死ぬことなんて絶対に許しません!!」


着ていたドレスが血で染まることも気にせず、私は2人の手を握ります。


「姫さま…面目ありません…」


「願わくば、来世でも姫さまのお側に…」


「ユミル!ロイ!気をしっかり持って!!いや!目を瞑ってはダメ!!!」


そんな弱気なことを言うなんて2人らしくないじゃないですか!私を1人にしないでください!


しかし私の願いも虚しく2人の瞼はゆっくりと閉じていってしまいます。


「おっと、それよりも…お姫様、手をお出しください。」



少年が私を見ながらそう言いました。反射的に両手を差し出すと、1滴ずつ赤い液体を乗せられます…これは何でしょうか?


「その赤い液体を2人に飲ませてあげてください。そうすれば治りますから。」


「え?…え、えぇ。」


俄かには信じがたいですが今はそれどころではありません!手に乗っている雫を急いで2人の口に運びます。


するとあれほど深かった裂傷が見る見る内に癒えていきました…顔色も徐々に良くなって…


霊薬や秘薬の類でしょうか?


何はともあれこれで一安心です。


「ひっ!?」


また意識を少し外した瞬間に今度は兵士たちと戦っていた少年が近くにいました。


その身体には恐らく返り血であろう血糊がベッタリと付いていて思わず悲鳴を上げてしまいました…私ったら命に恩人になんて態度を。


しかし少年は気にも留めない様子でユミルとロイを抱えて走り去って行きます。


あ…今更ですが私の名前はエミリアと申します。


「タクミだ。それで、ジュウゲンが2人を担いで行っちゃったから俺たちも村に行こうか?」


「え?近くに村があるんですか?」


確か深淵の森周辺の村落や街道は全て封鎖若しくは破棄されたと聞きましたが…


「うん、ここから歩いて20分くらいかな。」


え…それは殆ど深淵の森の中では?


「え…そんな近くに?」


「うん…うん?」


助けてくれた少年…タクミさんが首を捻ります。


「取り敢えず村に戻ろう。エリシアも2人が心配だろ?」


「え、えぇ…よろしくお願いします。」


傷が塞がったとはいえまだユミルとロイはまだ予断を許さない状態。


信じられないことですが、あのジュウゲンと呼ばれた少年がその例の村まで運んでくれているはずです。


ならば早くその村に行かなくてはなりませんね。この際そこがどこでも関係ありません。2人を休ませることができるのであれば、例え竜の巣でもお邪魔いたしましょう。


あら?タクミさんがしまった…という顔をしていますがどうされたのでしょうか?


「今更なんだけど…アレどうする?エリシアに関係する人達だよね?ジュウゲンが殺しちゃったけど…」


タクミさんは気まずそうな顔をしていますが…なんだそんなことですか。


「捨て置いてください。命令とは言え私たちを殺そうとした者達ですから。」


良くも悪くも職業軍人とはそういうものです。命令に対する善悪は関係ないので上からやれと言われればやるしかありません。特にうちの国ではそこら辺は少し特殊な体制なので。


なので少しばかり同情はしても情けはかけません。


そう言うとタクミさんの顔は引き攣っていました。酷いことを言っている自覚はありますが仕方がないことなのです。


その後、私はタクミさん案内の元その村へ付いて行ったのですが…





確かにありました…村。


しかも森の出入り口と思しき場所のすぐ近くに。この距離ならば確実に破棄するよう領主などから言われるはずなのですが…


しかも村には同じ年頃の少年少女しか居ません。


言い方は悪いですが孤児なのでしょうか?いえ、そうは見えませんね。何人かの少年少女と会話してみましたが、受け答えに気品というか、妙な貫禄がありました。


マフユ、ヒスイという少女は年相応のものでしたが、やはり受け答えは孤児のそれではありません。


何か特殊な事情がおありのようですが、私は部外者。無闇矢鱈と踏み込んでよい問題ではなさそうです。


そして一番驚いたこと、それは私が村に着くとユミルとロイが出迎えてくれたことです。


あなた達、先ほどまで瀕死の重傷ではありませんでしたか?


「10分もするとあれほどの激痛が嘘のように消えまして。」

「まだフラフラとはしますが、この村で手当てをしてくれたキクカという少女によるとキチンとご飯を食べて2、3日安静にすれば大丈夫との事でした。」


…やはりあの赤い雫は秘薬だったのでしょう。それを見ず知らずの私たちに譲ってくださったんだわ。


どうしましょう…今の私たちに対価として差し出せるものが1つもない。


それを素直にこの村の代表者…あのジュウゲンという少年…に包み隠さず話すと、爽快に笑いながらこう言われた。


「かっかっか!そのような事は気にせずともよい。あれはタクミがどうせ片手間で作ったものだからな。タクミもそれでよかろう?」


「問題ない。むしろこちらが謝りたいくら…いや、何でもない。兎も角気にする必要はないよ。」



何と心の広い方達なんでしょう。しかし施しを受けているばかりではアレクシア帝国第9王女の名が廃ります。先ほどジュウゲンさんから2人の体調が全快するまではお世話になるお話を頂いたばかりです。

…できる限りの対価を払わなければ。


「ならばエリシアさんや。おぬしは情勢には詳しいかい?」


「情勢ですか?はい、王族の教養として一通りは習いましたが…」


「ならば滞在中はそれをワシらに教えてくれんかのぉ?なにぶんここは閉鎖的な村での、その類の情報が入ってこんなじゃよ。」


成る程、確かに街道も封鎖された村じゃ情勢を知るのも一苦労ですね。…ジュウゲンさん、えらくお年寄りのような話し方ですがお爺様やお祖母様の喋り方が移ったのでしょうか?


でも聞くところによると村には定期的に随分と酔狂な…ゴホンッ、仕事熱心な商人の方が来られるとの事ですが?その方から情報を仕入れればよかったのでは?


「そうなんじゃがな…何故か取引が終わると足早にこの地を去ろうとするのでの…引き止めるのも悪いのであまり話は聞かんのじゃよ。」



……そうでした。普通は重大な問題じゃないですか。


ここは深淵の森の入り口…つまり危険極まりない魔物が沢山いる場所…それはその商人も直ぐに帰りたくなるのも頷けます。


え?じゃあ何で私はここに滞在することを決めたのかですか?


それはユミルとロイの休養というのもありますが…


先程、この村の倉庫を見せていただきました。そこにはAランク級の魔物の素材がこれでもかという程積み上がっていたんです。


特に凶化石鶏コカトリスの素材が大量でした。


どうやらここでは凶化石鶏を食用肉として扱っているようです。素材はどちらかというとゴミに近いと、マフユさんから聞きました。


つまりそういう村なのです。逆にここにいた方が私とユミル、ロイで森を突っ切るより安全です。


国外なのでそこまで多くはないと思いますが、ここにいると兄姉達から刺客や追手が差し向けられ、迷惑をかける可能性があります。


その事も正直にジュウゲンさんに話しました。


またもや爽快に笑い飛ばされました。


あの程度なら準備運動にもならない…と、そうですか。


命令に従ってるだけの彼らの名誉の為に申しますけど…彼らは一応我が国の精鋭だったのですが。





そうこう話しているうちに村に馬車がやって来ました。どつやら件の商人のようです…って!


ラムリス・ホルハイムじゃないですか!


アルフェントス王国のみならず、各国を股にかける大商会の会頭ですよ!?

確かこの国の王家御用商人だった筈ですが…


「姫様…」


「どうしたの?ロイ。」


「ラムリス殿の背後に控えてる騎士は、私の記憶が正しければ“雷撃らくげき”のモリスと“冷刹れいせつ”のアナなのですが…」


「…サマリア平野の戦いの?」


「…はい」



アルフェントス王国は多くの土地を有する国ですが、5年前に更にボルクナンという小国と戦争を行い、見事勝利を収め国土を増やしました。

統治上の関係でボルクナンは国から領地という扱いになり、書類上は属国という形です。


その戦争の終結地がサマリア平野。ボルクナンは小国ならではのフットワークを生かしてアルフェントスの横っ腹を突く作戦に出ました。


当時その平野に展開していたのは“森羅”という異名を持つオルベルク将軍率いる約5000名、対するボルクナン軍は総勢20000名という4倍の兵力差。


大国のアルフェントスは元々30万の軍を率いる強国ですが、あまりの多さに命令伝達の速度が遅く、それをボルクナンに突かれた形でした。


結果はボルクナン軍の敗退。

ボルクナン軍の作戦が悪かったわけではありません。寧ろ作戦としては自軍の優位性を活かした適切なものだったでしょう。


直接の敗因はオルベルク将軍の兵が強すぎた事。一騎当千という言葉をよく聞きますが、それはあくまでも比喩表現です。

しかし、事その戦いにおいては本当の意味においての一騎当千の働きをしたのが、オルベルク将軍、そしてモリス、アナという騎士と言われています。


もはや生ける伝説とも言えますね。


そんな有名人3人がこの村に来る理由…やはり、この村の住人たちは何か特殊な事情を持っているようですね。


いや、私はそれを話のネタがいこうざいりょうになんかしませんよ?


この村は恩人の住まう村。恩を仇で返すような真似はしません。


…願わくば私の身分がバレないように隅に身を潜めましょう。


あっ、ちょっと待ってタクミさん!私を紹介しようとしなくていいですから!


今の私の格好は見る人が見れば、いや、見ただけで身バレするレベルですから!


だからお願いスルーして!ユミル、ロイ助けて…


って、何サインを貰いに行ってるんですか!?


今の私たちの状況分かってます!?






…なんとか直接対峙は免れましたが、かなり変な目で見られました。


かなり不審に思っていそうな顔でしたが、どうやら向こうもあまり深くは言及してこない様子。


何か事情があるのでしょうか?


ならば私たちもこの村の人にラムリス殿達の素性を勝手に教えるべきではありませんね。


時が来たら自分たちの方から仰るでしょうから…。


…所でユミル、アナ殿のサインはもちろん私の分もあるんですよね?




お姫様、素が出てますよ…

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