集大成だった(後)
「魔法でない?はっ…何を」
ダンクは呆れた表情で掌を振り上げる。今のこの体は軽く手を振るだけでもそこに真空を作り出し、鎌鼬さえも発生させる。
しかしふと、自分の腕が軽いことに違和感を覚える。そして頭から降り注ぐ赤い液体。
「なぁっ!?」
そう手首から先が無くなっていた。
幾多の魔獣兵や人工天使の素体を基礎とした理論上最強の肉体。矛先も刃も砲弾でさえも傷をつけることは敵わないはずの肉体の一部が、無い。
「どうした?ご自慢の腕が無くなってるぞ?」
そして背後から聞こえるのはタクミの冷たい這い寄るような声。
「っ!」
しかしダンクもすぐに立ち直る。その場で半回転し、真後ろに居るであろうタクミに向け文字通り音速を越える蹴り。
肉眼で捉えることなど不可能。更に魔法によって防御なり回避なりしようものなら、ダンクの魔法特性による無効化。ソニックブームさえ発生させる一撃。
「単調だな。」
「!?」
しかし結果はまたもや膝から下の切断という結果に終わる…しかしダンクは解せなかった。
それは自分が何もされたのか分からないということ。切断された断面は明らかに刀による痕跡が残っている。しかしタクミがその納められた刀を振ったようには見えなかったのだ。
分からない。
しかし分からいならばそれ以上のチカラを持ってひねり潰せばいい話だ…そう思考を切り替えたダンク。
切断された手首と足を高速再生させ、蹴りや突きを縦横無尽に絶え間なく繰り出した。それどれもが必殺の一撃故の確殺足る攻撃。
だが結果はその拳が、蹴りが、タクミに届く前に斬り飛ばされる。
「っぅ!?何故だぁぁぁ!!」
高速再生、切断、高速再生、切断…いつの間にか辺はダンクの血飛沫で真っ赤に染まっていた。猛攻を仕掛け続けるダンクに対してタクミは自然体の構えのままダンクを見据えるだけだ。
「(くそっ!種は分かっている!僕が攻撃するたびに僅かにぶれる奴の輪郭…恐らく圧倒的速度による抜刀術!だが…僕の反応速度を上回り視認できない程の斬術だと!?)魔法の兆候はない!ならソレはなんだ!?」
「…言ったろう…【神鳴】…と。」
「がっ!?」
タクミの言葉と同時に四肢が斬り飛ばされた。しかし身体は即時再生し、斬り飛ばされる。最早その再生能力はただタクミに的を提供する役割しか持たなかった。
最高硬度の皮膚も、魔法を対消滅させる特殊性も、魔法知識も…タクミに対して有効性が見いだせない。
「(ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない……どうして僕の動体視力を越える斬撃を放てる?どうして最高硬度の皮膚を簡単に斬り飛ばせる?どうして魔法の兆候を感じない?どうして、どうして、どうして、どうして………ア リ エ ナ イ )ぐ…ギィャァ%#=*¥$<%♪%%!?」
ダンクが突然の悲鳴…奇声を上げると、その肉体が急膨張し体積を何倍にも増した。その姿は獣の姿や人間、はたまた魔獣や人工天使と思しき姿で多種多様な種族が混じり合った異形。最初は何かしらの悪あがきと考えたタクミだったが、辛うじて残されたダンクの顔と思しき部位…その表情を見た瞬間、それを否定した。
何故ならその表情には何も宿っておらず、ただ虚空を見つめながらだらし無く唾液を垂らすダンクの顔。
「…壊れたか…無様だな…ダンク。」
自身の想定を大きく越える事象に対して、ダンクは防衛本能として思考を放棄した。それは自我崩壊という形で果たされたが、精神による統制を外れた合成獣は小さな器から溢れ出そうとしていた。
なおもゴキッバキッと不快な音を立てながら膨張を続けるキメラ。
「さて…どうするか。」
この意志なき獣の成れの果てが此後、人里に現れればどうなるかは自明の理。ならばここで屠る以外の選択肢は無いだろう。
タクミは今まで抜手さえ見せなかった刀の柄にゆっくりと手を掛け、前傾姿勢で構えを取る。
「これで終わりだ…ダンク…【 神鳴 -百日手 無畏の型- 斬域葬群 】」
その瞬間、王国と帝国を巻き込んだ一人の陰謀がキメラと共に無に帰り、王国と帝国の戦争に幕を下ろしたのだった。




