集大成だった(中)
大規模な戦闘跡。
砲撃系魔法や爆撃系魔法が炸裂した為か元は平原のはずだが辺の地形が荒野のそれに成り果てた戦場。
そこには二人分の人影がポツンと佇んていた。
方や独特な装束に身を包み刀を携えたタクミ。
方や腰に布一枚を服のように巻いた一人の男。日光を全く受けずに育ったかのような病的なまでに白い肌。瞳は赤く、髪の毛は真っ白。地球風の言い方をするならばアルビノといったところだ。
その瞳以外の純白さは逆にこの場においては異質さを覚えない。
「やぁタクミくん、転移魔法とは…君には驚かされるばかりだよ。」
「何、俺はお前の姿に驚いた。合成獣というからにはもっと毒々しい姿を想像してたんだが、それが生来の姿か?」
数十万の魔獣兵と人工天使を儀式魔法を用いて創り上げた合成獣。その姿はアルビノという事を除けば普通の人間のようにしか見えない。
「まぁこの白い肌と髪、あと多分瞳もかな?それを除けば姿形は前と同じに設定してある。だからはじめまして、かな?」
「ああ、はじめまして…そしてさようなら。」
火蓋は劇的に切られない。それは静かに脈絡なく始まった。
- 懐刀流縮地術+懐刀流抜刀術+原子結合強化魔法 -
無動作からダンクの背後に音もなく移動し、無音の抜刀から魔法による強化された刀の一撃。それは正しく一撃必殺と呼ぶに相応しい暗殺剣。懐刀 匠という暗殺者の無慈悲なる一撃…
「速いね…まぁ見えてるんだけど。」
それを何気ない動作かのように刃を摘むように受け止めるダンク。その掴まれた刃はどれだけ力を入れようともピクリとも動かない。
- 懐刀流軍用合気柔術+質量変化魔法+ベクトル操作魔法 -
ジュウゲンから託された刀だが、この回の攻撃では役に立たないと見や、タクミは直に近接戦闘に切り替えた。放つのはハヤテが得意とする軍用合気柔術…螺旋回転を加えた掌底にベクトル操作魔法による重加速、そして掌底が触れた瞬間に威力に加重を加えることで人間が放って良い威力を優に超える衝撃が生み出される。
「っ!」
「…【物質送還】。」
トラックに跳ね飛ばされたかのように吹き飛ぶダンク。それをしり目に【物質送還】で共に吹き飛んだ刀を手元に戻して再び納刀する。
油断はしない。それはダンクがこの程度で倒れるとは微塵も思っていないのもあるが、掌底を叩き込んだ際に手応えがまったくなかったからだ。
「いやぁ…魔法と戦闘技能の合わせ技か。確かに人間や魔物に対してなら有効、いや、必殺なんだろうけどね。僕には効かないかな。」
布に着いた砂をパンパンと叩くながら何事もなかったかのようにタクミの方へと散歩するように歩いてくるダンク。確かに布に多少の汚れは見られるが、あれだけ派手に吹き飛ばされたはずにも関わらず、どこにも怪我を負った様子はない。
【報。魔法構築が完了、対象に向け【五稜星熾円城】を発動します】
ダンクの足元に五芒星の魔法陣が出現し、その中に幾何学模様の複写魔法陣が所狭しと現れ、青白い業火が天へと駆け昇る。摂氏10000万℃を超えるその焔は、骨をも一瞬で塵へと変えるものだ。
「…びっくりしたな、まさか設置型魔法陣学にも精通してるのかい?いや、これは…そうか、タクミくんも【天能】持ちか。」
しかしダンクは何事もなかったかのように燃え上がる火柱からひょっこりと出てくる。
「駄目か。」
予想はしていたのがダンクには物理も魔法も効果が見受けられない。物理も駄目、魔法も駄目、魔法陣も駄目、とどれもダンクにかすり傷さえ与えられない。
「…無視とは酷いなぁ?」
「はぁ、お前とは話をするだけ無駄だと分かっているからな。疲れるだけだ。」
「そうかな?僕は楽しいけど…ね!」
「っ!」
軽く一歩、そうたった一歩でタクミの眼前へ拳を引き絞ったダンクが現れる。それは縮地などの技術ではない、純粋な脚力による力技。その証拠にダンクの後方では地面が爆ぜた音がするが、今はそれどころではない。
タクミは後方へジャンプしながら腕をクロスし衝撃を逃がす体制に入った。【最適解】は使わない、それは漠然とした考えだったが、どこか確信めいたものだ。
ダンクに殴り飛ばされたタクミは、土煙を起こしながら吹き飛ばされる。
「おー、結構飛んだなぁ。生前の僕だったらこんな力は出せなかったけど、今は違う。」
そう言いながらダンクは身体の感覚を試す様に手を握ったり開いたりしていた。
「っ、とんだ馬鹿力だな、お前。」
何とか力を逃しダメージは軽減できたが、それでも中々に効いた様子でゆっくりと立ち上がった。そんなタクミの左腕は赤黒く腫れ上がり、少なくとも罅ははいっていそうな痛々しさがあった。
「タクミくん。君はなんで今、魔法を使って防御しなかったのかな?」
「…物事は複雑な程、単純な力がより際立つ。」
「…ほう?」
タクミの独白に近い呟き。しかしそれはしっかりとダンクの耳に届いており、その言葉を聞いたダンクは…
「やはり君は素晴らしいよ!僕の考えを理解してくれるなんて!そう!そうなんだよ!魔法による攻撃、魔法による防御、魔法による回復、魔法、魔法、魔法…この世界は全て魔法ありきで成り立っている!逆を言えば魔法がなければ剣聖だろうがSランク冒険者だろうが少し力の強い只人なんだ!」
それはタクミがこの世界に転生した時から感じていたことだ。この世界の生活水準は良くて中世ヨーロッパといったところだが、その生活の基盤を支えるものが魔法だ。より厳密に言えば戦闘用の魔法とは分野の違う【生活魔法】というのだが、一般的に広義の意味として魔法と称される。
水を、火を、洗濯を、狩りを、建築を、その全てに魔法が携わっている。そして魔法は戦闘面での有用が大きい。身体能力向上や五感の強化、近中遠距離レンジの攻撃魔法などアドバンテージは計り知れない。
しかしこの世界はそれに頼り切っている節があった。そのいい例がザックス王子の近衛兵や護衛だ。確かに要人警護をするにあたっての連携練度や基礎体力などはある。しかしタクミからすれば戦闘技能や戦闘能力という面で見ればお粗末…は言いすぎだが、それこそヒスイやマフユにも遠く及ばないレベルなのである。
何故なら鍛錬によって本来得るべき能力は全て魔法で補完出来てきまうから、それに尽きた。
「つまりは最高水準の肉体、そして魔法的要素を孕んだ攻撃、防御、回復、ありとあらゆる現象の解消…いや、無効化か?それが今のお前というわけか、ダンク。」
「素晴らしい!ほぼ満点だ!ただ補足するならば無効化ではない。僕は取り込んだ魔獣兵や人工天使の魔法特性を利用して、僕に触れた魔法現象を対消滅させてるんだ。副次効果としてそこに付け加えられたエネルギーの指向性も消滅するって寸法さ。最高の肉体と最強の特性、あらゆる素体があってこその最強の合成獣だろう?」
タクミは漸く合点がいった。何故、ダンクは統率も取れない魔獣兵を帝国全土を巻き込んで創ったのか?何故、タクミ達に簡単に屠れる程度の人工天使を大量に創ったのか?
自分の理論を確立させるために…全ては数多くの魔法特性を得るためだ。
【精神干渉魔法】?【唯一丿魔法】?【最強の矛】?【最強の盾】?その全てが伏線だった。伏線に伏線を張り、真実に辿り着かないように伏線の迷路に迷い込ませる。
その用意周到さには脱帽だった。
確かに最強であろう、この世界にとっては。
確かに無敵であろう、この世界にとっては。
だがタクミにとっては、いや、魔法の存在しない世界で魔法ではない力を持った懐刀家に、その理論は通用しない。
「なら簡単な話だな…魔法じゃなければいいんだろう?」
すっと細められたタクミの瞳。そして続くのは一言、
【 神 鳴 】
と。




