間話 中間管理職の苦悩
この村…町に赴任して早一ヶ月が経った…いや村だな。
何故か町と言ったらタクミ様が悲しい顔をなさるから村だ、うん。
……。
思えばスラムで元締めの真似事をしていたのが懐かしい。
最初はこの村でやっていけるか心配に…
目の前で手を振られた。
え?なに?
現実逃避してないで早く報告を受けろ?
良いじゃないか少しぐらい…
「はぁ…じゃあ最初は生産管理部門長から。」
「はい、では初めに申し上げますが…」
こいつは元はスラムで俺の右腕として働いていた男だ。それがこの村に来たら生産管理部門長なんて大役を任されている。
まぁ元から頭は良かったし、顔も悪くなかったからスラムではかなりの…
いかん、少しイラッときた。
「私どもが出来る仕事がありません。」
ん?
「どういうことだ?」
え?君等全員その道のプロに短期集中軍隊張りの教育受けて、合格判定出されたプロだよね?
「正確には生産に携わられているコウイチ様やショウゲン様、ユミカ様の仕事についていける者がおりません。」
「ついていけない?ますますもって分からん。確かコウイチ様がやっておられるのは生産加工、とりわけ鉱山から取れた宝石の加工だろう?プロの宝飾師から指導を受けていた者も居たはずだが?」
同じくショウゲン様がやっている酒造もプロに従事して村に来た者が居たはずだし、ユミカ様の料理も然り。
「それが宝飾師の者が言うには、宝石を加工するカメオやインタリオという技法があるそうなのですが、宝飾師の者たちはそれ専用の魔法を習得しております。」
うん、それは分かる。それは宝飾に限った話ではなく服飾や料理なんかも一緒だからだ。
「しかしコウイチ様は全て手作業で行います。」
「なるほど?しかしそれと出来る仕事がないという事とどう繋がるんだ?」
時間は掛かるが手作業だからこその味というものもあるだろう…詳しくは知らないが。
「問題は…魔法を使った宝飾師よりも作業時間、出来栄え、品質、どれをとっても優れているということです。更に加工が極めて難しいとされる宝石でさえも、コウイチ様は宝飾師の10分の1の時間で、出来栄えは最高のものを仕上げます…手作業で。」
おう…なんとなく分かった。
「ということはショウゲン様やユミカ様の所も?」
「ええ、魔法よりも旨く、そして魔法よりも速く作られます。私どもが出来るのは量産型劣化品を作るのが精々…といったところです。一応お三方からは『気にすることはない』とお言葉は戴いておりますが、既にお三方の仕事を手伝っている者たちは半ば心が折れかけております。」
まじか…いや、気持ちは分かるけど。
「し、精進してくれとしか俺からは言えんな…」
専門職の人間がそれなんだから、門外漢の俺が口を挟んだところで悪化はしても改善はしないだろう。
「代わりにそのもの達の精神ケアの手配を…そうだな、金一封を包んで交代で羽根を伸ばさせれば多少は違うだろう。」
根本的解決にはなってないけどな。
えぇい、分かっている!だから『いや、だからさ…』みたいな顔でこっちをみるな!
「…分かりました、取敢えずそのように手配いたします。」
「頼む。よし、次は生物管理部門長だな。」
「…はい。」
…元気なさすぎないか?スラムにいたときに見かけたことはあるが、前は元気ハツラツ系の美女だった気がするんだけど。
「先ず初めに…生物管理、要するに畜産ですが、本来は牛や豚、鶏なんかを飼育し産業として運用するものです。」
おう、それくらいは知っているぞ?領主様のところで基礎教養とか言ってあらゆる分野の基本を叩き込まれたからな。
あまりのスパルタ加減に「自分、辞職いいっすか?」が口癖になった程だ。流石に今は治ったが。
「しかしここでは特殊な立地上、豚や牛は飼えません。連れてきたとしてもストレスで2日と保たずに死にますし…。」
…まぁ人間でもこんな危険地帯に住めとか言われたら、安全と分かっていてもストレスでヤバいからな。
ここに俺らが赴任した当初一緒に大量の牛や豚を連れてきたんだけど、次の日には事切れていてすんごい焦った。
あのラムリス様だって口をあんぐりと開けて呆然としてたぐらいだ。
「しかし代案の仕事を貰ったはずだが?」
そうそう、確かカオリ様の…
「えぇ…確かに戴いておりますよ?生物管理部は実質カオリ様の専属みたいなものになりました。まぁ私達もプロと呼ばれるレベルで仕事は習いましたからね、どんな動物でも育てる自身はありましたとも、はい。」
ペット管理を…あれ?でも確かカオリ様のペットと呼ぶものって…
「確かに習いましたよ?動物飼育のいろはは…でも!でもですよ!?S級魔獣の飼育方法なんて知らないんですが!?」
デスヨネー。
カオリ様は邪神蛇や神賢狼、最近は老神古龍も従えさせたみたいだけど…ソレを、ペットと呼ぶ。
ペットの飼育というのはイコールで最上級危険生物の飼育ということだ。
幾らテイム状態とはいえ恐いものは恐いだろう…テイム状態だよな?
「最初は全員股の下を濡らしながら気絶しました。二日目は泡を吹きながら気絶しました…一週間してようやく直視出来て…気絶しました。二週間掛けて半径十メートルに近づくことができるようになり、約半数が気絶しました。」
気絶しかしてないね…うん、ごめん…だから睨まないで。
「未だにお世話どころか遠目から見るだけで精一杯なんです。しかも気絶した私達を運んだのが邪神蛇と知った数名が気絶から目覚めてまた気絶しました。」
現状、迷惑しか掛けてねぇ…いや状態を考えれば責められないんだけど。
俺?かなり遠目から見ただけで膝が笑ったよ。
「現在は邪神蛇たちも気を遣ってか、私達が餌を運び終わってから姿を表し、残飯を引き取りに来る頃に姿を隠してくれます…情けない限りですが。」
ペット(S級魔獣)に気を遣われる飼育師…
「カオリ様からは『慣れたら可愛いんだけどねぇ、まぁゆっくりでいいから!』とお言葉は戴いておりますが…」
が、頑張ってくれとしか言い様がない。
「せ、生産管理と同じく手配しておくから精神ケアを頼んだ。」
「…はい。」
生物管理部門長はすごすごと後ろに下がった。そして交代で前へ歩み出たのは、村の守備や警ら等を行う警備部門の長…だが。
「何でそんな包帯だらけなんだ?大きな戦闘があったと報告は受けてないんだが…」
この警備部門長はスラムでも相当の腕っぷしだったが、ラムリス様の手配で従事した師が相当の実力者だったようで、この村に来たときは一般警備員がギルドランクC+相当、各警備部隊長がB−相当、そして部門長がB+相当というどこの近衛騎士隊だよ、と突っ込みたくなるレベルになっていた。
その部門長が全身ミイラになっていればそれ自体が異常事態だ。
「これは訓練と警備上での怪我だから問題ない。」
いや、日常的な訓練と警備でそんな怪我してたら大問題なんだが?
「因みに理由は?」
「ハヤテ様…本人が様付けは嫌うから敢えてハヤテ殿と呼ぶが。村に来た初日に実力を測るという事で模擬戦を行ったんだ…一対全部隊で。」
…普通はツッコむ所だが、ハヤテ様の性格はタクミ様から聞き及んでいるのでまだ耐える。
「結果、五分で半壊し九分で全滅だった。そのためハヤテ殿から『このままでは近いうちに死人が出る』ということで毎日訓練のあとにハヤテ殿と一対全部隊の模擬戦が日課となり、俺はここ半月ずっとこの姿だ…因みにハヤテ殿に傷をつけられた者は今の所居らん。」
バケモンかよ…全部隊ってことは推定A+程度の戦力だぞ?それも無傷単身撃破って。
「…ハヤテ様からの警備部門の評価って聞いているか?」
「あぁ、ハヤテ殿曰く『ある程度練られているが俺から言わせるならば弱すぎる。今後も精進するように!』だそうだ。」
…はぁ。
「……頭痛くなってきた。警備部門には後で回復薬と包帯の追加を送っておく。」
「助かる。」
その後も設備管理、食料管理、施設管理などからも報告を受けたが、どれもこの特殊な立地故の弊害やダトウ家の方のハイスペックに心が折られかけるなど凄惨たる内容だった。
不幸中の幸いなのは、何れもダトウ家の方々から温かい言葉を戴いているということか。
しかし現状だけ見るならば状況は最悪と言って過言ではない。
…全員、普通の市場なら最高レベルのプロのハズなんだけどなぁ。
「以上が、全部門の初回報告となります。」
報告を聞いただけで耳を塞ぎたくなる内容だったけど、内容を聞くだけでいいなら俺の存在は要らない。
俺の最大の仕事は
「「「「「ではラムリス様への報告、よろしくお願いします、ゾクザムさん」」」」」
自分、辞職いいっすか?
このあと滅茶苦茶ラムリス様に威圧された。




