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陰湿だった (後)


場は静まる。今まさに戦闘が起こっていたなどとは思えぬほどにだ。


「だってそうだろう?この身体はこの世に生を受けた瞬間に僕が拝借したんだ。僕という自我があるのに新たな自我が生まれるわけがない。まぁおかげでロイとの親子ごっこに8年間も付き合わざる得なかったんだけど、それはそれで面白かったよ?…ねぇ?お父さん・・・・?」


リアンヌの言葉と中佐の行動の起こりはほぼ同時だった。


中佐は無表情のままホルスターに大口径拳銃が挿された状態で引き金を引く。するとリアンヌの周り180度全てから超極小の魔法陣が幾多も展開し、数多の魔力弾がリアンヌを襲った。


雷鬼はその直前に魔力の展開を間一髪で感知し離脱。


「おぉ、僕の考案した【次元庫】を用いた銃術だね?」


しかし先程と同様、魔力弾が全て見えざる壁に阻まれる。当のリアンヌはというと、驚いた素振りもなく余裕の表情だ。


「(物理だけじゃなく、魔力も通さない障壁?俺の【物魔曼荼羅多重障壁陣】と同系統?しかし魔法を展開している素振りはない。どういうことだ?)」


「そっちの彼、確かタクミといったかな?この不可視の何かが気になるようだね。これは僕の【唯一ノ魔法オンリーワン】だよ。」


「【唯一ノ魔法オンリーワン】?それが障壁を生み出してる正体か。」


「…違う。【唯一ノ魔法】は総称、俗に言われる【天能】の究極形態とでも思えばいい。そしてリアンヌ…いや、ダンク。貴様の目的はリアンヌが持って生まれた【天能】、そしてその先にある【唯一ノ魔法】か。」


「ご明察…と言いたいところだけど、惜しいね。僕が昔に帝都民を研究材料にしたのは、このリアンヌに乗り移るための【幽精神体】の魔法開発。じゃあこの帝国と王国を巻き込んだ魔獣兵騒ぎは何のためか?」


確かに、と雷鬼は眉を顰める。辻褄が合わないのだ。人工天使と呼ばれる操者、魔獣兵、ラフレシア…そのどれもがこの御方と呼ばれるダンクの利に繋がっていない。何のために魔獣兵を筆頭に人ならざるものを作ったのか?


「わからないようだねぇ…まぁ無理はない。ここで一つ講義をしてあげようか。【天能】や【唯一ノ魔法】は人間のどこに宿ると思う?」


「…突然何を言っている?」


ダンクは尚もリアンヌの幼い声色と姿で不敵な笑みを浮かべていた。


「正解は魂さ。そこに全てが記録され運用される。さて、ロイ。僕の生前の研究テーマは覚えているかい?」


「…【生物学的優勢生物キメラの作成】だ。」


「そう!僕は最強を創りたかった!何者にも負けない最強の人間を!でもね、研究を進めていくうちにある事実に突き当たってしまった。どうしてもね魔法の能力が劣化してしまうんだよ。魔物由来の魔法的能力は使えるが、人間のそれこそ宮廷魔法師なんかのレベルには届かない。【唯一ノ魔法】持ちなんかには簡単に負けるだろう。しかしキメラの肉体と魔法能力は有用だからそちらは並行して進めるしかない。ならば魔法能力は後付け・・・すればいい。」


「「……」」


余りの身勝手。それが雷鬼と中佐の大部分を占める思いだった。


「最強のキメラを創り、最強の魔法を手に入れ、最後に最強のキメラと魔法を融合させる。そこまでの理論を構築したらあとは実行するだけさ。ちまちまキメラを創っても埒が明かないから帝国には実験場になってもらい、一気に人工天使、魔獣兵、ラフレシア、様々なキメラを一気に創り上げる。その中である時かなり貴重な素体・・・・・が手に入ってね。ソレだけは量産型ではなく僕自ら手を施した。死にたてだったから施術後は宰相に小細工を打ってもらい人間社会に戻して経過観察してたんだけど、さっき・・・確認してたら思いの外良い具合になってたからね。実感不具合が起こってたようだけどそれも時間停止の魔法で応急処置されていたし、僕の身体にした上で調整すればいい。ならばと早速融合させようとしてたところ君達に邪魔に入られた……さぁ…ここまで言えば分かるだろう?」



ニャァァァァ






「最強の魔法リアンヌと最強の素体エリシアをありがとう。タクミくん、ロイ。」






「「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」


事この時だけは二人は冷静という言葉からは最も遠い感情に身を委ねた。


憤り、怒り、それらが綯交ぜになって憤怒という激情のままダンクに力の限り仕掛けた。


雷鬼は【太陽風撃】をダンクの周りをグルリと囲みこむように幾多も出現させ、中佐は先程の魔力弾とは比べるまでもない程の量をダンクへと向け…同時に放つ。


最早町の被害は度外視。幸い雷鬼は被害が最小限になるように魔法に指向性を持たせる程度には理性は残っていたが、中佐は最早激情に身を任せて魔力弾を放っている。一発一発に込められた魔力量は並の量ではなかった。


「全く、娘の身体リアンヌを消し炭にする気かい?」


すると再び2人の魔法は掻き消える。防がれるのではなく、掻き消えたのだ。その証拠に辺には2人の魔法の残留魔力が殆ど消費されずに漂っていた。


【報。意図せぬ介入により構築済みの魔法をキャンセルさせられました。尚、この介入に対してレジストを試みましたが失敗しました】


強制解除キャンセル…だと?」


「おや?どうやらタクミくんは【天能】系統の能力を持ってるのかな?普通は知覚どころか自覚も出来ないはずなんだけど。ご明察、このリアンヌの持っていた【唯一ノ魔法】は【調律者トトノエルモノ】、精神を掌握することのできる魔法体系的に言うならば精神干渉魔法だね。」


そうダンクはこれまで障壁なんてものは一つとして張っていない。雷鬼はダンクに当たる前に蹴りを自分で・・・止めた、中佐は魔力弾が当たる前に自分で・・・魔力を霧散させた、二人は自分で魔法を・・・・・・キャンセルした・・・・・・・


「でも君達と遊ぶのも飽きてしまったし、早めに融合させた最強のキメラも見てみたいからさ、そろそろ二人にはご退場願おうか?」


ダンクはそう言うと下卑た笑顔はそのままに、ここにきて初めて構えを取ったのだった。



シリアスパートはもう少し続きます。

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