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斬観操だった


「うーん…乱戦模様だけど、魔獣兵と王国兵の区別はつきやすいのが幸いだね。」


「そうだけど、コウイ…じゃなかった、観鬼?」


「分かってるさ…【鑑定:白黒】」


観鬼(コウイチ)がこの世界に来る際に授かった天能を発動させる。その天能とは【鑑定の眼】。この世界には鑑定魔法というものは存在するが、それ程重要視されておらず補助的考えが根強い。


それはこの世界の魔法体系があまり発展していないのもあるが、鑑定魔法で得ることのできる情報がほぼ目で見ればわかる範囲であるのが最大の要因だ。つまりは表面的な情報しか得られないのだ。


しかし観鬼の【鑑定の眼】は違う。神から直接与えられたこの天能は、現世(この場合は地球)の人間が思い描く監察して定める(・・・・・・・)事が可能な眼を得る。


そして【鑑定の眼】が見る事のできる世界は他の者が捉えることのできない情報さえも丸裸にするのだが。


「んー、魔獣兵たちは心臓の働きが弱いね。やはり情報通り核がその生物としての機能を維持してるみたいだね。僕が視界に入れれる範囲だけどマーキング(・・・・・)しておいたよ…『共覚:視覚』っと、じゃあ行こうか?」


そうのほほんとした口調に答えるのは、これまたのほほんとした口調の斬鬼(ユミカ)。その手には無骨ながらも明らかな業物とわかる日本刀によく似た得物。


前世にて愛用していた業物【撫堕捌(なでちさば)き】…をジュウゲンが似せて鍛えた大刃包丁。長さは五尺五寸(約1.65メートル)。斬鬼の身の丈程ある刀を、斬鬼自身はまるで棒切れを扱うように持ち上げた。


「じゃある行くわねぇ〜?」


トンッとまるで軽くジャンプするかのように飛び出した斬鬼。口元までを覆う布あて、全身を黒く纏う外套、長い髪の毛だけがその風の影響を受けなびく。


それに続くように操鬼(サオリ)と観鬼もあとに続いた。軍勢を見下ろしていた丘を滑るように駆け下りる三人は、斬鬼を筆頭に三角形のフォーメーション。


「取敢えず手前からでいいかしらぁ?『見分捌き(チェックカット)』!」


撫堕捌を大きく横に振り切る斬鬼だが、その軌道には王国兵も含まれていた。普通ならば諸共両断…となるはずだが、「よいしょっと」というこれまた軽い掛け声と共に振り切った。


「「「がっっっ!?」」」


「「「は?」」」


その結果もたらされたのは方や断末魔、方や戸惑いの声。見事に胴体と核を両断された魔獣兵(・・・)は地に伏せ、王国兵は何が起こったのかわからないような顔で突如現れた斬鬼を警戒していた。


「ふふっ」


しかし斬鬼はそんな視線には目もくれず、次なる混戦の場へと躍りだすと、同じように敵味方関係なく薙ぎ払い、魔獣兵のみが倒れるという不可思議現象。次第に斬鬼は現状敵ではないと判断されたのか、王国兵からの誤射(・・)も無くなっていた。


「…相変わらずの刀さばき…まぁ本人は包丁(・・)さばきって言い張るんだろうけどね。」


「本人は料理人の方に重きを置いていたからね。元々暗殺者は副業だったみたいだし。」


斬鬼の傍から見れば神業的所業を眺めていた観鬼と操鬼は苦笑いを含みながらそう話す。


斬鬼のあの御業は実はほぼ(・・)地力による技術だ。ハヤテと結婚する前のユミカは、懐刀家の家業と同じく裏の職。とりわけ毒を主体とした仕事のやり方だったが、それと同時に刃物…とりわけ刀による戦闘技術は、一時敵対していたハヤテでさえも舌を巻く程の腕前だった。


まぁそこから紆余曲折あり二人は結ばれたのだが、それはまた別の話。


ユミカのやっている事は至極簡単。観鬼の『鑑定︰白黒』による王国兵と魔獣兵の区別。そして『見分捌き』による魔獣兵の捌き方(・・・)を見極め、あとは混戦だろうがなんだろうが、刀の神業的操刀能力でのゴリ押しで斬殺…それだけである。


懐刀家が転生の際、神のような存在から望んだものは本来戦闘用の天能ではなく、生活能力を向上させたり、学術的に価値のある部類のものばかりだ。


斬鬼の『料理人』も本来なら料理の腕が神懸的なものになるというものだが…何事も使い方次第、それを暗殺技術と融合させた斬鬼…いや、懐刀家は、地球にいた頃とは別次元の凄みに達している。


もとより素の身体能力と知識、暗殺技術だけで日本の裏社会に君臨していた懐刀家なのだ。魔法や超常的な現象、若返った肉体、更に神から与えられた戦闘向きではないとはいえ、所持していることのほうが珍しい天能という異能。


これだけ合わされば最早言葉にする必要もないだろう。


「ん?…どうやら敵は撤退を選んだようだね。というより逃げかな?魔獣兵自体には最早自我はないって言ってたから、操者のほうだろうね。でももう遅い(・・)かな?操鬼。」


「はいはい、あの子達もお腹を好かせて我慢してたからね。少しお行儀は悪いわよ。」


そう言うと操鬼は体から純粋な魔力を様々なパターンで何回も波状に放出する。純粋な魔力な為これ自体にはなんの殺傷能力は無い。これは信号、いや号令なのだ。


帝国方面に敗走を開始しようとする一団。その四方の地面が突如地割れを起こし、その割れ目からある生物が這い出でてきた。


「あ、あれは…邪神蛇!?」


それは誰だったか、王国兵が叫んだ。


「何だってこんな所に…ん?」


王国兵の一人がそう独白すると、不意に自分の影が黒く塗りつぶされた事に気が付き、そして見た。


「なぁっ!?蒼空竜(ブルースカイドラゴン)だと!?」


エメラルドブルーの鱗に覆われた綺羅びやかな竜。それは一匹でも遭遇すれば命はない。街に現れれば街を捨ててでもすぐ逃げろと言われる邪神蛇と同等の脅威度の存在。


それが上空に五匹も旋回していれば驚愕を通り越して絶望してしまうだろう。


「あぁ、囲ったのはいいけど今度は散り散りになったね。撃ち漏らしは許されないよ?」


「大丈夫よ。散り散りになった餌は狼次郎達が処理するから。」


邪神蛇の隙間を抜けて後方に逃げ延びた魔獣兵の上半身が一瞬にして消える。


否、神速の速さ…まるで瞬間移動のような移動により、敵を捕食する伝説級の狼に食い千切られただけの話だ。


「フィ、フィンリルまで…なんだ、ここは地獄か?」


戦場というものは元々地獄の様な場所だが、抗いようのない魔物の群れなど本当の地獄でしかないだろう。ただし、今回はその牙が自分たちに向くことがない事を知らない王国兵は不憫でしかないが。


そこから始まったのは魔獣兵(操者含む)VS伝説級の魔物の群れという、勝敗の分かりきったラグナロク。


それを終わるまで口を開け呆けた顔で見ていた上級王国兵の一人はこう語る。


「敵に本気で同情したのはこれが最初で最後だ」、と。



こうして自称鑑定士、料理人、ブリーダーにより、南方戦線は帝国側の敗北(完全殲滅)により幕を閉じた。




遅くなりました。

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