間話 浪漫を詰めた魔法議論
時間は少し巻き戻ります。
「つまり!魔法学ってのは取捨選択の末にとことん手数と速度を追い求めた合理性の塊ってことだよ!そこになんのロマンがあるの!?」
ダンッとそう言いながら机を叩き付けたのはヒスイ。御年15歳にもなる胸に頭に行く栄養が奪われたんじゃないか?(マフユ談)と言われる少女である。
たとえ奪われていたとしても物理学ならば大学院生レベルで理解しているため馬鹿という訳ではない、所謂オタクと呼ばれる部類。
そして同時にアニメオタクという二足の草鞋を履く、見た目だけなら大和撫子、中身は物理とアニメオタクと外見と中身が完全乖離した残念美少女…それがヒスイだった。
「そう言われてもな…それがこの世界の魔法というならそれが正解なんだろう?俺らの世界の科学をこの世界の人が理解できないのと同じだ。」
そう答えたのはタクミだ。この世界に転生した際にヒスイ達若年層に年齢が引っ張られた為、その見た目は高校生位まで若返っている。
「私が言いたいのはそういう事じゃありません!最効率化に最適化、大変結構!でもファンタジーの代名詞たる魔法がそれじゃ味気がなさ過ぎる!オサレな詠唱や呪文もなし、大気に浮かび上がる幾何学模様の魔法陣もなし、イメージだけで発動できるから傍から見たらただの砲撃戦…ファ○ク!!」
「こら、女の子がそんな言葉を使っちゃいけません。だから俺らに取ってはファンタジーでも、この世界の人にとっては現実の道具なんだから何を言っても……」
「そこで!」
「無意味だっ……お、おう?」
ヅイっとタクミに顔を近づけたヒスイは、その瞳をキラキラと輝かせこう放つ。
「私達なりのオリジナル魔法学を考えればいいという結論に至りました!効率化を図りつつ、浪漫もふんだんに盛り込んだ私達だけの魔法を!」
タクミがここに呼ばれた理由。それは別にこのヒスイの高説を聞くためだけではない。
同志として呼ばれたのだ。
「はぁ……何を言い出すかと思えば。」
心躍らない…と言えば嘘になる。タクミもその道を齧ってきたからには勿論ファンタジーに夢を抱いていた時期もある。勿論、某病も発症した経験もある。
だが今は衛星村や自治特区の開発などで多忙な時期。王子なども頻繁に村…いや既に町と言えるレベル…に顔を見せるのでその警護にも時間を割かねばならない。
つまりはそんな事に付き合っている時間はないのだ。
「タクミにぃならそう言うと思って、そこは私が既に土台の理論を構築済です!それがこれ!」
と、ヒスイは机の上に大量の紙(この世界ではまだ紙は高級品)を乗せる。
「はぁ…また無駄遣いを…で?これがお前の提唱する魔法理論?何何…?」
タクミはやれやれと思いながらその中から一つの紙束を手に取った。ここまでの熱意でやっているのならば少し位付き合ってやろうとの心積もり。
『オサレ的拘束魔法の効果と検証及び考察』
そう銘打たれた内容で、図らずも同志たるタクミには内容まで予想できてしまった。
「あー、これはつまりあれか?縛○的なアプローチの魔法ってことか?」
「それに目をつけるとは流石はタクミにぃだね!そう、それは某オサレ漫画の『後述詠唱』をもとに考えたヤツ。速度、範囲重視の拘束魔法はどうしてもその強度に限界がある。だからそこに後付けで言霊をケーブルとして魔力を追加する、ってのがその魔法の肝。これはこの世界の詠唱学的アプローチと私達のサブカル的アプローチの両方のいいとこ取りの魔法なんだ!」
この世界の魔法は、魔法学という性質上、手数と連射性に富んでいるものの、その魔法自体の強度に難がある。と言っても、学問として成立している以上は実用的な強度はあるのだが。
「で?要するにこのアプローチの魔法の根幹は相手を簡易式の拘束魔法で足止め、そしてその魔法に付随させていたなんの効果も持たない魔法陣を展開させ、『後述詠唱』により任意の効果を後付けしていくと…なるほど。因みに効果はあるのか?」
なんだかんだ言ってもタクミも興味深い内容だった。それは今後の有用性にしても、オタクとしても。
「ユミルさんとロイさんに手伝ってもらって効果を実証、あとマルクさんが何か王都にある有名学院からその道の第一って人を寄越してくれてお墨付きを貰えました!あと王様がこれは国家機密指定魔法にするって言ってた。」
と言ってVサインするヒスイ。だがそれを聞いたタクミは反対に頭を抱えた。
「お前…ユミルさんとロイさん…は、まぁ帰化して村の住人だから良いとしても、マルクさんや陛下まで巻き込んだのかよ…」
自分の知らない所で大事になっていた…そう確信したタクミは、今度手土産を持ってマルクの所に謝りに行くべきか本気で悩んだ。
だが、逆を言えば有用性は確実とも言える。なんせお国のお偉方が揃って太鼓判を押しているのだから。
「はぁ…で?これが議題に挙がってるって事は、ヒスイ自身は納得いってないんだろ?」
「うん、魔法としては既に完成されてるんだけどその技術の転用…もとい流用がどうも難しくて…」
「ほう?例えば?」
「縛○は出来ても破○はムリ。」
「オケ、把握。」
悲しきかな。それだけの会話のやり取りで分かってしまうレベルなオタク、不祥タクミ・ダトウ。
「また違う魔法にはなるけど○棺に似た魔法や、某忍者の螺旋回転する手裏剣何かもやってみたかったけど、流石に再現できなかった。」
「某英雄王の魔術は?」
「あれ再現して楽しい?土魔法で模擬剣作って風魔法で飛ばせば事足りるよ?やっぱり複雑怪奇、この世界の人が真似できない物を作ってこそと私は思う。」
「むぅ、一理あるな。じゃあ…」
「でもコレは…」
「なら…」
「それはあの魔法で…」
「俺の【最適解】を使えば…」
「でもそれじゃ…」
こうしてオタクの粋(笑)を集めに集めた新魔法が生み出されていったが、その試運転のために近場の山がまた一つ消え去り、ジュウゲンに窘められたのはまた別の話。




