誤認だった
東組、西組と別れて出発したタクミ達遊撃組。その中から更にタクミ、中佐とジュウゲン、ハヤテに別れて最も近くで既に激突している戦場へ到着したタクミと中佐。
何とそこは自治特区から僅か走って1時間というかなり近場で戦闘が繰り広げられていた。しかも地理的にはガランと自治特区の間、つまり帝国勢にかなり自国への侵入を許している形だった。
「中佐の言った通り乱戦だな。しかし…何だ?帝国側の構成が…」
小丘の茂みから戦況を観察していたタクミは大きな違和感を覚えた。王国側の兵士は皆、ある程度統一された装備なのに対し、帝国側は鎧どころか武器を持っている人間もごく少数。そして何より、老若男女入り乱れた構成なのだ。
「言ったはずだ。便宜上、侵食型と呼ぶが、それは帝国の総人口8割に及ぶと。そこに老若男女の区別はない。」
普段着のまま王国兵士の喉元に噛みつき喰い裂く老人。腹部に大きく風穴を開けながら兵士の首を圧し折る女性…特徴的なのは帝国兵、いや、魔獣兵たちの目には理性的な光は宿っておらず、その深紅な縦に割れた瞳孔が明らかに異常を示している。
タクミ達から見ればウィルス型の某パンデミックパニックに近い状態だ。
「不快極まりないとはこの事だな。で?その操者もとい人工天使は何処だ?」
が、タクミも裏に生きていた人間。そこに私情な感情は挟まない。
「見つけるのだけならば簡単だ。理性的な動き、この乱戦でも動かずに見ているか、人間の動きに近い動きをしている者…ほら一匹目がいたぞ。」
中佐は両者衝突している軍勢から少し離れた所に、周りを魔獣兵で囲まれて鎮座する一人の男を指した。しかも周りを囲んでる魔獣兵は深紅の縦割れの瞳こそ同じだが他の者と明らかに違い、辺を警戒するような素振りを見せている。
「あれか…でも周りの魔獣兵は他と違うが…」
「恐らくは俺と同じ方式だろうが、彼奴等は脳までやられてるな。帝国情報部第九課、俺の部署とは別だが彼奴等を手元に置いているのはお前対策だろうよ。」
「俺対策?」
「ああ、どうやら御方とやらは随分お前を警戒しているらしい。」
中佐から自分対策だと言われても何に対しての対策なのか検討がつかない。帝国で戦ったのは全部で3度、中佐との遭遇戦、帝国の魔物進行、人工天使姉妹だけだ。となると
「何か魔法に関する特殊部隊か?」
「そう。奴らの得意とするのは“魔法無効化の魔法陣”を活用した要人警護だ。」
この世界の魔法体系は3つから成り立っている。一つは魔法学、2つ目は詠唱学、3つ目が方陣学。歴史成り立ち的には方陣学→詠唱学→魔法学となり、簡単に言うなら魔法陣→詠唱魔法→無詠唱魔法という感じだ。魔法陣はかなり強力だが準備や手間、発動速度に難があり、反対に無詠唱魔法は発動速度がダントツで早く、連射性に優れている代わりに出力が魔法陣のものに比べるとかなり劣る。
しかし有用性や戦略性という点から考えれば魔法学の方が優れている為、ここ150年ほどは魔法学が世の主流になっていた。
「恐らくはお前が使った上空からの質量物の落下の魔法だな、警戒されているのは。」
中佐の言うそれとはタクミの多段階攻撃魔法『点と点を結ぶ死』の事を指していた。
「って、やっぱり何処かで見てやがったな?」
「ふっ…あの時はまだどちら付かずの立場だったからな、悪いが上には報告済だ。しかしどうする?あの魔法陣は名の通り範囲内に侵入した魔法効果の一切を無効化するものだ。」
悪びれる様子もなく中佐はそう宣うが、タクミはニヤリと笑みをこぼした。
確かに魔法陣の効果により『点と点を結ぶ死』の効果は範囲内においては失効するだろう。しかし相手は一つ勘違いをしている。
『点と点を結ぶ死』は別に攻撃魔法ではない。『点と点を結ぶ死』はあくまで大気圏ギリギリに留めおいた物質を、目的座標まで誤差なく結ぶための魔法だ。
多段階攻撃魔法というのは実情であり、中身はただの質量物による物理攻撃なのである。それを中佐が分かっていないはずはない。つまり…
タクミは『剣帝の墓場』により重量剣を敵の人数分、精製し、『重軽域反転』により9本全てを上空へと投げ飛ばす。
「座標間近まで接近した物体なら、最早魔法が無力化されようがなんだろうが、関係ないってことだよ…『点と点を結ぶ死』」
…ヒュンッ
そんな言葉を発したタクミからチラッと視線を外し、先程の人工天使達を見るとそこには綺麗に正中線から剣により切断された9人の物体。
それを見た中佐は一言。
「ふっ…だろうな。」
そう確信犯的な言葉だけを残し、拳銃を構えたのだった。




