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急転直下だった


中佐という協力者。そして新たにもたらされた詳細な情報をもとに、タクミ達のダトウ家とアリサ達の元帝国情報組は作戦の練り直しに追われることとなった。


というのも中佐の不穏な一言が原因だ。





「事はあまり悠長にしてられん状況だ。宰相とゴールド商会の会頭は頭こそお粗末だが、たちの悪い事に行動力だけはある。俺が離反したと分かれば多少の尚早と分かっていても次の段階に移るだろう。」


「なんだ?その次の段階って。」


「……王国と帝国の全面戦争だ。以前から魔獣が国境付近で散見されたのもその前準備だからな。」




その一言により事態は最早ダトウのみで扱える範疇ではないと判断したタクミとジュウゲンは、高速鷲で王都にいるマルクへと連絡。こちらもまた直様高速鷲による返答を寄越してきた。


『王都でもその兆候は掴んでいます。が、確定情報が無く手をこまねいている状態でした。ジュウゲン殿とタクミ殿がそう仰られるのであればかなり確度の高い情報とお見受けします。であるならば、こちらでも軍の再編を始めますのでダトウ家及び衛星村の住民の皆さんはガランへの避難を始めてください』


内容は避難を勧めるもの。確かにダトウ家と王家は魂上契約により戦争などの際でも徴兵や接収は行わないとの取り決めがある為、何もおかしな事ではない。


しかしこと今回に関しては、指揮系統の一切をジュウゲンから任されているタクミがそれに反対した。


作戦会議室と銘打たれた部屋に、ダトウ家一同が揃い踏み、タクミの言葉を待つ。


「みんな、今回のエリシアを始め、血花石改めシュビツライ鉱石の件、どうやら現場判断を誤った俺に原因の一因がある事がわかった。」


「タクミにぃ…でもそれはジュウゲン達もあまり関係ないないって…」


マフユはそう困惑した顔で促す。事前にこの事はジュウゲンに話してあるし、ジュウゲンからマフユ達にも話がしてある。そして皆が総じて出した結論は、タクミには非がないということ。


あまりにも情報不足、そして数十年単位で進められてきた計画に、この世界に来て数ヶ月しか経っていないタクミにそんな断片だらけの情報で真実を導き出せという方が酷であると誰もが思った。


しかしタクミの考えは180度違い。問題の根絶…とまでは行かずとも、早期発見の糸口を逃した自身の判断ミスを重く受け止めている。


それはタクミの仕事(・・)に対する考え方の気質によるもの。


「俺はこの戦争に関して、王家に逆指名(・・・)をかけようと思う。」


「え、それってつまり…」


「ああ、ダトウ家はこの戦争に関して積極的に介入する。」


逆指名とは、主従契約を結んだ相手に対してこちら側から仕事を申し出るというダトウ家特有の言葉。ダトウ家は基本的にはエージェントとして依頼を受け、それを遂行するのが原則である。所謂受け身のスタイルである。


しかしこの逆指名とは自分から主へ自分を売り込む形をとることになる。つまり…


『この仕事を俺たちにさせてくれ。』


と言うのだ。これはダトウ家にはメリットよりもデメリットが多い。まず正式な依頼ではない為、達成後の報酬の不確かがあげられ、情報の入手経路や確度、十分なバックアップが見込めないなど様々。


故にこの逆指名は滅多に行われることはない。行われるとすればそれは、報酬以上にダトウ家の尊厳を守るため、だ。


そしてタクミはこのダトウ家の中で、一際家族や家の尊厳というものにかなり重きを置いていた。それはタクミ自身の過去にも関係することであるがここでは割愛する。


「…ふむ。タクミよ、いや…『腰刀』雷鬼(らいき)よ。それは例えダトウ家の尊厳のためか?そしてその尊厳に他の者の命を掛ける価値はあるのかの?」


ジュウゲンが漸く重い口を開き、タクミを名前でなくダトウ家の仕事銘で呼び、問う。この場は同じ『腰刀』であるジュウゲンでも指揮を取っているタクミには逆らうことは許されない。


が、それでも家長としての発言ならばそれに抵触しないため、タクミの真意を問うたのだ。


「…もちろんこれはダトウの尊厳を守るため…しかしそれと同時に俺の失敗の尻ぬぐいとなる。その為今回は参加不参加による通例の罰則は適応しない。」


『腰刀』による決定は絶対だ。しかしだからといってただ(こうべ)を垂れて命令を遂行するだけならただの殺人マシーンと変わらない。


そこでダトウ家には、ペナルティを自らが被ることにより命令に対して拒否権を有するという制度がある。そして今回タクミはそのペナルティは課さないというのだ。それ即ち参加するか否かは各々に裁量を委ねるということ。


たとえタクミは自分以外が不参加を表明しても一人で仕事に当たるだろう…それはジュウゲン以下全員が分かっていた。


「まったく…タクミはもう少しダトウの仕事に対して不真面目でもいい気がするがのぉ。」


「確かにそうだな。タクミのそれは美徳であり欠点でもある。」


「そこまで言われたらもう皆の意思は決まったものよねぇ?」


ジュウゲン、ショウゲン、キクカがやれやれと首を振りながらそう言うと、他の者も苦笑いや微笑みで返す。


「…自分で言うのもなんだが今回の動機は尊厳を建前とした我儘だと思うんだが……じゃあ?」


そうタクミが苦笑いをしながら皆の顔を見ると、全員、笑顔で頷いたのだった。



「陛下…火急の報のようです。」


王城内の執務室ではサンザール3世とマルクが今後の打ち合わせを行っていると、そこに高速鷲が舞い込んでくる。それはダトウ家のみとの連絡で使われる専用の鷲。


その鷲が来たからにはその内容はダトウ家に関することだ。


「避難開始の報か?いや、衛星村の人数を考えれば移動に際する護衛の事かもしれんな。」


今回…に限らず、サンザール3世はもとよりマルクも、ダトウ家に支援要請を行うつもりはない。ダトウ家の力があれば明らかに戦争は優位に進むが、元はと言えば帝国との啀み合いは建国からの問題。主従の儀を交わしたとはいえ、(いたずら)に自国の事情に巻き込むつもりは毛頭なかった。


あくまで情報収集の依頼だけに留め、それが終われば避難してもらう…それが今後も憂いなくダトウ家と付き合うためなのだと自身を納得させながら。


良政を敷くことで有名な善王ではあるが、一国の王としては些か強かさに欠ける。しかしダトウ家の実力を鑑みればそれは最良だとマルク自身も考えは同じだ。


一騎当千…いや、一騎当万の力を各々が持つであろうダトウ家の者たち。その名を今まで聞かなかったことが不思議なくらいの強者。


味方となれば心強いが、敵に回った瞬間に御伽噺の一夜の落日が現実のものとなる。


依存するだけではだめなのだ。それにマルクはこうも考える。


自分たちからダトウ家に差し出せる対価があまりにも弱い、と。


大抵の物ならばあれだけの猛者達、苦もなく手に入れることは容易いだろう。また、裏の人間ならば表立った武勲や地位は嫌われる傾向にある。恐らくはそれらは対価として彼ら彼女らには石ころと同義。現状、国を上げた秘密裏のバックアップ程度しか対価を用意できていない現状で、これ以上を求めるのは危険だという認識だ。


しかしダトウ家から届いた書簡には驚くべきことが書かれていた。


「いえ、それが…」


「ん?一体どうしたと言うのだ?」


「…タクミ殿を筆頭に、以下ダトウ家が義勇軍として戦線を切り開く事に許可をいただきたい、と。」


「なっ!?」


まさかの申し出…青天の霹靂ともいうその書簡をサンザール3世はマルクから引ったくるように奪うと、自身で一字一句違えずに目を通す。


「…どういうことだ?」


「私にもよく分かりません、が…天は我らの味方やもしれません。」


申し出としてはありがたい…この上ない朗報だが、ダトウ家がここまでする意味が、現時点ではサンザール3世達には分かっていなかった。


しかも疑問点はもう一つ。


「…マルク、ジュウゲン殿やタクミ殿達のいる自治区は確か帝国と山を挟んで向かい合う形だった筈だな?」


「はい、その通りかと。」


「彼らはまさか正面から切り込むつもりか?」


「……。」


二人は知らない。ある意味(・・・・)ではその通りであるという事に。



王家への連絡も終え、ダトウ家としての意向も固まったところで、漸く元帝国組との作戦会議に移った一同。まずは中佐が口を開いた。


「まず現状だが、帝国とアルフェントスでは決定的にこの戦争目的に対する認識がズレている。」


「ん?ズレ?なんだそれ?」


現在、先程の作戦会議室にダトウ家と中佐、アリサ、ヨハイム、ユミル、ロイを加えた形で一同に介している。若干アリサ達は中佐に対しては一定の警戒心を解いていないのが見受けられたが、それは仕方ないこと。タクミも中佐も気にしていなかった。


「アルフェントスは帝国からの侵略という脅威から国を守るという認識だろうが、そもそも帝国は侵略など最早考えてなどおらん。したがって領土やそこにある特産品、利権、人財などは度外視していると言ってもいいな。奴らの目的はただ一点、人工天使や魔獣兵の性能テスト…これに尽きる。」


「なるほどのぉ…つまりアルフェントスは最初から軍団規模の死兵を相手にするということかの。」


戦争とは何かを得る為の戦いである。その為大小違いはあれど互いに制限が生じる。その制限は補給問題であったり、戦後処理であったりと様々だが、帝国の目的は性能テスト。


つまりアルフェントスの何かを求めての戦いではない。ただの蹂躙が目的なのだ。しかも人工天使や魔獣兵は中佐曰く、死を恐れるという思考回路を持ち合わせていないらしい。


つまり文字通りの死兵なのである。


「奴さんの戦力は?」


「…帝国帝都の人口、その凡そ8割…80万ほどか。」


「「「「は、80万!?」」」」


そう驚いたのは中佐を除く元帝国組だ。言い換えれば総人口の8割は既に御方とやらの餌食となっている事を指す。


「なぁ中佐、その魔獣兵に置き換えるってのはそんなに早くできるもんなのか?所謂、人体改造なんだろ?」


「あぁ、タクミには話していなかったが、血花石の使用方法は何もソレをそのまま身体に埋め込む訳じゃない。粉末状にして奴らが秘匿する何かしらの物質と掛け合わせることで出来る薬。これを体内に長期的に摂取することにより体を徐々に作り変えていくのだ。例えば流通する食物の中とかにな、そして最終的に核が体内に出来上がった瞬間…操り人形の完成というわけだな。」


「待って!それじゃ中佐も意識や体の所有権はその御方が握ってるってことじゃない!」


そうアリサが椅子を蹴飛ばしながら立ち上がり、中佐に自身の手刀を向け警戒心を最大限全面に出す。


「俺は別枠というやつだな。体内蓄積で徐々に体を作り変えたわけではない。プロトタイプとして別アプローチ…タクミの言った人体改造型の魔獣兵という奴だ。身体は弄られたが脳味噌までは引っ掻き回されておらん。」


「そんなの分からないじゃない!!」


尚も中佐に食って掛かるアリサ。


「アリサ…そこまでだ。気持ちはわかるが、今はそんな事を議論している暇はない。」


「っ!?…わかったわ。」


タクミの静かな一言。しかし刀を幻視する程の重圧(プレッシャー)が乗せられたその言葉にアリサは不承不承ながらも矛を収める。


「え、でもそれならアリサさん達は大丈夫なの?だってその侵食型?ってのは食物とかに混ぜてたんでしょ?」


「それならば心配はない。俺自身、別に手を拱いていた訳ではない。こちらも独自で抵抗物質を作り出し、帝国情報部の一部や将来的に戦力になりそうな近衛兵辺にはそれとなく投与済みだ。もちろんアリサやヨハイム、そこの元近衛にもな。」


「「………。」」


これにはアリサもヨハイムも押し黙るしかない。その思惑はどうあれ、人知れず中佐に守ってもらっていたのだから。


「認識のズレからくる相違は理解した。それで?具体的に帝国が動くとしたら最短でいつ頃になる?」


場が漸く沈静化してきた所で、タクミは先を促した。帝国の動き次第では取れる手段と方法が変わってくるためだ。それはもちろん準備期間が長いに越したことはないことから来るのだが。


「ふむ、あの宰相の決断力と行動力から考えるにあと一ヶ月以上の……む?…少し外す。」


中佐が説明し始めたと同時に、腰に携えていた大型トランシーバーの様なものが鳴った。中佐は一言入れ、席を立つ。


「「ふぅ…」」


そこで漸くアリサとヨハイムが肩の力を抜いた。ダトウ家の面々は(マフユやヒスイでさえも)気にしていなかったが、終始ピリピリとした雰囲気が漂っていた作戦会議室。アリサとヨハイムは兎も角、ユミルとロイなどは最早借りてきた猫のように大人しかった。


しかしそんな安息の時間はものの数十秒で破られる。


特大の爆弾を添えて……




「タクミ、どうやら俺は宰相を甘く見すぎていたようだ。帝国が兵を既に動かしていた…あと半刻もしない内に国境付近を通過するぞ。」




開戦までの時間は残り30分を切っていた。






改めて俺にシリアスの才能をおくれ……

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