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対症療法だった


孤独だった。


私の生まれは側室系王妃である娘…その更に序列が低い地位の王女だった。お母様は元メイドという立場上、私も自動的に庶子という扱い。


当然周りの風当たりは強い。


しかしそんな中でも幾らかの使用人や護衛達をはじめ、お母様、そして王位継承の位が高いにも関わらず優しく接してくれる一人の兄のお陰で、辛くも楽しい日々を過ごせていた。


しかしそれも突如として終わりが訪れる。


お父様…皇帝の体調が優れずに、王宮内では派閥争いが勃発。そこでは片親とはいえ血のつながった兄弟姉妹達が政戦を繰り広げる日々。


もとより地位に興味のないのと、継承権が低い私には関係のない話だと思っていた。


だがある日の午後、いきなり私の部屋に唯一敬愛する兄の私兵が私を拘束するといってなだれ込んできた。しかしその私兵たちは明らかに殺気立っており、明らかにその目的は私の排除。


そしてその私兵の後ろから現れた兄は私に一言だけ『すまない…』とだけ言い残し、その場から姿を消した。


そのときの私は「ああ、どんなに取り繕っても私達は王族なんだな…」と達観したように、他人事のようにその事実を受け止めようとしたが、偶々部屋にいた二人の護衛が私を城の外、いや、国外へと逃がしてくれる事となった。


それからは激動の日々を過ごした。


当てもなく国外脱出を図った私達は連日の追っ手からの追跡を逃れ、初めての野宿をし、危険と分かりつつも夜間に街道をひた走り、危険な森に逃げ込んだ。


しかしほぼ着の身着のまま城を出た私達にそんなに長く逃亡できる手立てもなく、更にお荷物と化した私を連れ出した護衛達の負担は大きい。


森の中で遂に追っ手に追い付かれてしまった。だがそこに現れたのは驚異的な力を持つ少年たち。


後に私たちのみる世界を変えてくれたタクミさん達一族だった。


それからは初めて畑を耕したり、魔物のお肉を食べたり、皆で騒いだり、ヒスイやマフユ達と女子会なるものをしたりと充実した日々。


そんな時、帝国で不穏な動きありということでタクミさんが帝都に潜入する事になり、私は同行することとなった。


タクミさんは私がなるべく仕事に関わらないように留守番や買い物を頼んでくれたけど、帝都に魔物が現れた為、シェルターに避難する事となる。




「あんた、大丈夫かい?さっきから顔色が悪いようだけど…」


声をかけてきてくれたのは私達が宿泊していた宿の女将。タクミさんが事態の収拾に動いた際にも一緒にいたため心配してくれたのだ。


「あ…は、はい。大丈……」


「大丈夫です」そう私が言おうとした瞬間。


ピチャ…私の顔に何か生暖かい液体が掛かった。シェルターの中は薄暗くてその液体が何色なのかは分からなかった。


しかしその鉄臭い匂いで、色が分からなくても何なのかは理解できた。


「き、きゃぁぁぁぁぁ!!」

「な!?なにしてるんだお前!」


「え?」


漸く暗闇に目が慣れた私の目の前には首から上が無くなった女将。ソレ(・・)が音を立てて倒れる。


「え!?わ、私は……」


「きゃぁぁぁ…ぐふっ!?」

「がっ!?」


意識と身体が乖離していた。私は流れるように叫んでいた男女の前へ素早く移動すると男の首をねじ切り、女の腹部へ拳で風穴を空ける。


…そこからは地獄絵図だ。


そして。



「あっ…タクミさん…無事だったんですね?」


「あぁ、心配かけたな…エリシア。」



私の討伐者(ヒーロー)がそこに立っていた。















「ガァァァァァッ!!」


完全に意識を手放したエリシアはタクミに対して、その全身が凶器と化した猛攻で命を刈り取ろうと仕掛ける。身体の全てを炭素繊維のような硬質化させたエリシアの攻撃は、掠るだけでも骨の一つや二つは軽くへし折る驚異がある。


そんな明らかな殺意を持ったエリシアに対してタクミは全て完全にいなし、時には関節を決め拘束しようとする古流柔術。


タクミは…いや、懐刀家の人間は、基本的に殺意を向けられればそれに習って殺意で返すのが家訓である。殺される覚悟があるからこそ相手を殺す。その信念を持って仕事に携わっている。


だが今回の仕事は帝国の内部調査。エリシアの殺害などどんな事情があってもその範疇にない……というのは詭弁だ。


「(…やれやれ、精神は肉体に付随するとは言うけど、俺も丸くなったのかねぇ)」


タクミはエリシアを殺す気はない。エリシア自身は殺す気で向かってきているが、それはあくまでも自分の意志ではないのだ。エリシアに殺された帝都民には同情するがそれはあくまで他人事。宿屋の女将も一緒にいたが、タイミングが悪かったと諦めてもらうしかない。





人間とは利己的で自分勝手で排他的な生き物である。


自分以外は他人、百パーセントの血縁なんて存在はしない…親兄弟でさえ、どんなに濃くても半分なのだから。




仕事柄、懐刀家の人間はこの考え方が根強い。その中でもタクミは特にその考えが深かった。


任務遂行の為、コウイチやカオリを見捨てるのが合理的と判断すれば息を吐くようにそれを実行できるし、コウイチやカオリもそれに文句は言わない。


だが、この世界に転生して、タクミは心境の変化…考え方に変化が現れていた。それは人間としては正しい方向に、暗殺者としては間違った方向に。


「…懐刀流流体発剄"クシナダ"」


エリシアの右ストレートを紙一重で交わし、人体で骨の隙間といわれる脇腹へと掌から発剄を打ち込む。常人ならばこれで内臓がシェイクされ、少なくとも半日は立ち上がれないのだが…


「ガァァァァァッ!!」


「っと!(効果、無しと)」


タクミの攻撃をものともせずに反撃に転じるエリシアに、タクミは今、エリシアの身体がどんな状況なのかを把握した。


「あの硬質化…まさか内臓系まで炭素化してるんじゃないだろうな。」


"クシナダ"は腹腔と内臓の隙間を利用して振動を打ち込み揺らす技だ。そこに表面上の硬さは関係ない。つまりこれが効かないということは、エリシアのアレは表面上の変化ではなく体組織全体の炭素化ということになる。


「不味いな…」


タクミはそこでようやく合点がいった。先程から少しずつ薄れゆくエリシアの生気、その理由が。恐らくあの炭素化は憤怒という因子によるものに間違いはない。


そしてその効果は身体能力の飛躍的向上と炭素化。単純な見解ならば確かに最強の矛と盾と言えよう。だが矛と盾ならば当然そこに矛盾が生じる。


人間という生物学上においては切っても切り離せない生命維持機能を担う内臓。その全てを炭素化させればどうなるか?


弾性を失った心臓は血液を循環させれなくなり、脳は酸素を取り込めない。そのほかにも重要な器官の働きも停止する。


「早期決着が望ましい、が…意識を刈り取れないとなるとどうするか…『最適解(せんせい)』」


【解。対象の表層心理に関しては何らかのプロテクトによる効果で浸食不可。深層心理に対する魔法は現段階においては確立されておらず実行不可…最適解において対象を拘束するには仮死状態にするのが効果的と判断します】


「で?その方法は?」


【解。呪属性と時空属性の新規魔法構築により、対象の心臓部に魔力杭を打ち込み時間の流れを停める呪いを付与します。その後に対応策を検討、構築できます…暫定解析完了…対象の不確定因子を媒体とし、魔力へと補完、生命維持に必要な要素を再補填…それを永久循環させます…魔法構築完了】


「ガァァァァァッ!!」


エリシアがその凶器と化した脚で踵落としを繰り出し、タクミはそれを敢えて両腕で受けることにより威力を殺し、エリシアに接近する。


バギ…と両腕の骨が砕ける感触に眉一つ動かさず、魔法の照準を意識だけでエリシア心臓部へ定めた。


「…“身喰らう蛇(ウロボロス)”」


【呪時空魔法“身喰らう蛇”発動します】


エリシアの心臓部に禍々しい幾何学的模様が現れたかと思えば、それがそこから三本の杭が現れエリシアの頭、心臓、腹に突き刺ささり、エリシアが後方へ吹き飛ぶ。


「ガァ!?」

 

周りの瓦礫を巻き込みながらエリシアは短い悲鳴と共に沈黙。煙の晴れた頃には身体の炭素化も身体の一部を残すのみとなっていた。


「…ふぅ。これで取り合えずは、なんとか…な、るな。」


ドサッ。そういい終わるとタクミは倒れ込む。中佐と戦い、大量の魔物と戦い、キメラの姉妹と戦い、エリシアと戦ったタクミ。ここに来て流石に体力の限界を迎えたようだ。


「…ま、コウイチ辺りが回収してくれる、だろ。」


そう言いながらタクミは瓦礫が散乱する帝都の真ん中で、夕日を浴びながら気を失うのであった。





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