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激闘終了、そして事後処理だった


「何とかなったな…」


そう地面へと大の字に倒れ込むタクミに、カオリとコウイチの影が覆い被さる。


「いやぁ…あれがこの世界で言う所の魔物って奴なんだね。うん、あれは確かに脅威だね。」


「なにいってるんだか…アレ(・・)のせいで余計な攻撃を受けただけじゃない。」


そうカオリが呆れ顔で呟くと、コウイチは少しバツの悪そうな顔で明後日の方向へ目線を逸らした。


「アレって…また悪い癖?」


「そうよ、全く。」


コウイチの例のアレは懐刀家の人間ならば周知の悪癖である。これに関してはジュウゲンやショウゲンから散々注意を受けているのにも関わらず改善の余地が全くないため、半ば黙認の形を取られているのだった。


「…まぁ、仕事に差し支えなければ俺がとやかく言うことでもないし、コウイチ兄さんも弁えてはいるから大丈夫でしょ…それより、何か重大な情報を掴んだんだよね?2人とも。」


「…えぇ。はっきり言って悪趣味極まりないとしか言いようのない事実がね。」


「そうだね…そしておそらくだが本人(・・)にその自覚はない。」


その言葉でタクミは自分が立てていた推測が間違いないことを確信した。


「…なる程。【無自覚な爆弾】、か。どこの世界でもあるもんだな。」


そうタクミは眉間にしわを寄せ、忌々しそうな口調で呟く。


【無自覚な爆弾】とはある種の隠語。現代的に例えを言うならば、全く無関係な人物(この場合は子供が多い)に駄賃などを掴ませて「これをどこどこに届けてくれ」とプレゼント(爆弾など)を渡してターゲットを爆殺する…他人を使った無差別テロのこと。


方法や状況によって意味合いは変わるが、今回の状況ではこの表現が適切である。


「なぁ2人とも…あとは俺に任せてくれない?」


「…タクミくんがそう言うなら構わないけど大丈夫かい?もしもの場合は消さなきゃいけないよ?」


そうコウイチは心配そうに声をかける。コウイチ自身は懐刀家の宿命と閉心術さえ使わなければ、素は近所の優しいお兄さんなのだ。


「ああ、もしもの時は分かってる。それに何とかするあてはあるさ。」


「分かったよ…じゃあコレが僕達が知り得た情報の写しだ。簡単に纏めてあるから行き際に読むと良い。僕達は一足先に戻ってるから。」


コウイチは懐から一枚の用紙を取り出すとタクミに渡し、その場から人目に付かないよう離脱した。2人は密入国という形で帝国入りしていた為、下手に人と関わるわけにはいかなかった。


コウイチとカオリの気配が消えると、タクミは渡された用紙に目を落とす。そこにはこう書かれていた。





【被験体番号e8623 人工天使計画(・・・・・・) 適合因子"憤怒" 適合被験個体名ーーーーーーーーーーーー】




タクミはそれを読み終わると写しを灰へと還えし、足早に屋根伝いで目的地へと向かった。


未だ城下町は喧騒と混乱に満ち溢れていたが、潜在的脅威が去った今、あとはこの国の住民で対処するべきことであり、非情なようだがタクミ自身が預かり知るところではない。


そう…潜在的な脅威は去った。しかし、表面的な脅威は今から対応せねばならなかった。


「行くか…。」


タクミはいつもとは違う鋭い眼光で霞ゆく空を一瞥し、住宅街の屋根伝いで目的地へと向かう。


向かう先は……









  



「あっ…タクミさん…無事だったんですね?」


「あぁ、心配かけたな…エリシア(・・・・)。」









街の人間が避難の為に使っていたシェルター…だった場所に、エリシアは身体を真っ赤な液体(・・・・・・)で染め、佇んでいた。周りは瓦礫だらけ…シェルターというからには強固な建物が建っていたはずだが、今は見る影もなくなっていた。


エリシアはポタポタと腕から滴る赤い液体を不思議そうに見つめ、タクミへその真っ赤な瞳(・・・・・)を向けた。


「タクミさん、私…どうしちゃったんでしょうね。」


「………エリシア、今自分がどういう状況なのかは、理解できるか?」


「いえ…でもこの惨状を私が引き起こしたことは理解しています。そして、私が人ではないということも。」


「…そうか」


コウイチ達が入手したしタクミへともたらされた情報。それは大きく二つあった。


まずは帝国における王族の家系図。


そして人工天使計画の概要資料。



エリシア・ルノワール・ロッソ…出自はここロッソ帝国の第七側室系王妃の息女として情報は登録されていた。これは帝国の戸籍上も問題なく、一般的な世間体としてはエリシアという人間が存在していることとなる。


しかし王族のみに、さらに言えばさらに限られた者にしか提示されない家系図には、第七側室系王女の息女であるエリシア・ルノワール・ロッソという人間は存在していなかった。


いや、正確にはその人物は産後直ぐに亡くなっていた。その証拠にエリシアの名前には赤い×印が上から書き加えてあった。


ならば目の前のエリシアは何者なのか?


「エリシア…心して聞いてくれ。君は…半人工生命体(ハーフキメラ)というものらしい。」


「……。」


「産後直ぐ息を引き取った君は、極秘な王令のもと延命…いや、蘇生措置が取られた。その折り、恐らく皇帝さえも知らない内に君はある実験の被験体にされたんだ。人工天使計画という計画の元、君にある因子を埋め込み仮初めの命を宿した。」



タクミにはその憤怒という因子がどういうものなのかは分からない。コウイチ達が取ってきた情報は概要程度しか記載しておらず、肝心の因子とやらには言及されてなかったのだ。


「…そうだったんですか。でも漸く合点がいきました。私を殺そうとした兄上の行動…あれもそういうことだったんですね。あんなに優しかった兄上が何故急に私を避け始め、兵を向けるに至ったのか…何故私が最後に叫んだ声に対してあんなに苦しそうに、泣きそうに『すまない』とだけ呟いたのか…」


おそらくだがエリシアの兄は王位継承権の高い地位にいたのだろう。そして何かしらの理由で真の家系図に目を通してしまった。そして調べてゆく内に人工天使計画まで辿り着いた…ついてしまった。


兵を向けたのが、化け物に成った嘗ての妹に対する討伐なのか、それとも仮にも可愛がってきた妹を逃がす方便なのかは定かではないが。


「…ありがとうございます、タクミさん。これで心置きなく殺されることが出来ます。」


「エリシア…なにも死ぬという選択肢しかとれないわけじゃない。俺らの村で名を変えて過ごすことだって…」


「いえ、それは出来ません。私がこのシェルターにいる人たちを殺めた瞬間…いえ、恐らく私が再び帝国に足を踏み入れた瞬間にトリガーは引かれたみたいです…だから…に…逃げ…逃げてください!!タクミさん!もう!抑えられない!!」


エリシアがそう叫ぶと同時に、10メートル以上離れていた距離が詰められ、エリシアの鋭い爪と共に手刀がタクミの頬を掠めた。


「…時間はなさそうだな。」


「は、やく…逃げ…」


エリシアのからだが赤黒く、まるで炭素繊維(カーボン)のような風貌へと変貌を遂げていく。それと同時にエリシアの自我も薄れていっているようだった。


「が…ガァァァァァァァ!!!」


「はぁ…事後処理ってのは楽なのが相場なんだがな。」




完全に人型を模した炭素繊維の塊へとなり果てたエリシアに、タクミは「さて、どうしたものか…」と腕を引き絞り構えをとるのであった。










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