激闘だった タクミVSリカリール
片割れ…リカリールが細腕を振り上げてタクミへ最接近しそのまま腕を振り下ろした。見た目は(化け物の風貌に変容したとはいえ)細腕なのに振り下ろした拳速で鎌鼬が発生、続けて拳が叩き込まれた民家の屋根は爆散した。
「(なんつぅ馬鹿力…)」
「あら、逃げるのだけは達者みたいね?」
リカリールは動きこそは素人のそれにもかかわらず、その膂力と速度は、魔法による強化と動体視力のタクミがあって漸くとらえることが出来るというレベル。
下手をして一撃でも貰えばタクミとて瀕死の重傷は免れないだろう。更に連撃を加えようと飛び上がったリカリールにタクミは好機とみて次なる一手として魔法を発動した。
「…【雷天大葬】…【遅延解放】!【六面雷園】!」
速くて捉えられないのならば捕まえればいい…と、タクミは【雷天大葬】に内包されていた魔法の一つをリカリールに放つ。
【【雷天大葬】の内包魔法、【六面雷園】を【遅延解放】により対象へ発動します】
【六面雷園】は、【雷天大葬】によりタクミの身体へ蓄電された雷を、再び魔法として再変換、対象の左右前後上下へと雷球状態で召喚し、落雷させる魔法。
秒速320m、電圧1億ボルトという自然発生の雷と同威力・同速度の雷が六面からリカリールに落雷する。それは当然リカリールの知覚速度を優に上回り、リカリールの身体を走り抜ける。
リカリールの身体を巡る推定1億ボルトは…例え抵抗が掛かったとしても相当な電流がその身体を焼き尽くす。飛び上がった瞬間に魔法を放ったのは、直撃させた雷を他に逃がさないため。
広範囲殲滅級の魔法と比べるなら運用効果はあまり高くない魔法だが、リカリールのような存在と対峙するならば有効な攻撃手段と言えた。
そして目論見通り、全身を黒こげになったリカリールが黒煙を上げながら地面へと……
「…いったーい!!……レディに何て事をするのかしら?」
…しなかった。
リカリールは空中でクルンと一回転し、タクミとは離れた屋根の上へと着地。その獰猛な瞳を怒りに染めてタクミを睨みつけた。着ていた服は燃え尽きたようだが、その身体には傷跡所が火傷の後さえもない。既に人間からかけ離れた姿をしているリカリールは、唯一の文明であった服が無くなったことにより、最早魔物のそれにしか見えない。
【……想定を逸脱。対象の耐久値を超える電力を算出したはずですが、何かしらの想定外により力を逃がされた模様。再度、【六面雷園】を準備中……中断…【物魔曼荼羅多重障壁陣】…緊急展開】
「ほらほら、お返しだよっ!!」
リカリールの周囲には黒焔の塊が何個…何十個、何百個と滞空し不気味に漂っていたかと思うと、一気にタクミへと襲い来る。粘り気のある焔…と表現するのが正しいほど、禍々しい攻撃がタクミへと放たれたが【最適解】の張った障壁陣に阻まれた…が、黒焔は障壁陣に阻まれても消えることはなく、一枚、二枚と浸食するように障壁陣を破ってきた。
【警告…黒焔に【呪詛属性】が含まれている為、当該障壁陣では防ぐことは困難。直ちに回避を推奨します】
「ちっ!…がっ!?」
タクミの回避と黒焔が障壁陣を突き破ったのはほぼ同時。そして回避したタクミの顔面にリカリールの蹴りが迫ってきたのも同時だった。
瞬時に腕をクロスさせて防御を試みたが、リカリールの蹴りは容易にタクミの両腕を粉砕骨折させ、近くの民家へと吹き飛ばした。
【自動回復の許容限界を超えた為【魔素吸収】を併用し回復量を高めます】
「がはっ…痛ぅ…腕が両方ともイってるな(いや、寧ろよく腕二本で済んだな)」
あれほどの膂力を誇るリカリールの蹴りを喰らって、五体満足とは言わないが腕二本で済んだことは僥倖と言えた。
「(そもそもあれだけの攻撃を喰らって何故あんなにピンピンしてるんだ?)」
生物学的な常識が通用するとは思えないが、一応それに照らし合わせるならば、【六面雷園】による避雷しようがない状況での一億ボルトの電圧は明らかに致死量。例え全身絶縁体の様なものであったとしても、余分な電圧は熱によるダメージも生むはずだがその兆候さえなかった。
「…いや、待てよ?」
M1075計画…正式名称を人造魔獣兵計画というそれは、タクミの貰った情報には【人間に魔物の特性を与える実験】ともう一つ【一から魔物ベースの人間を作る実験】が行われているというものがあった。そしてその中にはこんな情報もあった。
【魔物ベースの人間擬きは皮こそ人間のそれだが、内臓などの位置や構造は魔物に近く、血液は無く、心臓の代わりに魔核が存在する】
「【最適解】、あの少女の外見特徴と堅い外皮、雷を無効とする魔物の情報を検索。」
【検索…該当…個体名:雷鬼山人…特徴として堅い外皮、高い膂力、魔物自体が雷属性を有しているため雷無効…討伐ランクA】
「予想通りか…」
雷が効かない筈である。そして同時に高い身体機能と膂力にも合点がいった。そして魔物の弱点と言えば人間の心臓にあたる魔核だ。
この仮説が正しければ、リカリールの魔核さえ破壊してしまえばいいのだが、問題があった。
「(あの外皮の硬さ…並みの魔法や攻撃じゃ通らないな)」
【個体名:タクミ・ダトウの仮説を元に討伐プランを計画…該当一件…多段階的な物理攻撃魔法を立案…成功率は五割と推定、実行しますか?】
「ああ(やってくれ)、行くぞ化け物!」
「全く、とことん不遜な少年だこと…今楽にしてあげる!」
そんな言葉を皮切りに、リカリールはタクミに襲い掛かる。
【…計画のイメージを個体名:タクミ・ダトウの脳内にインプット…第一段階魔法…【剣帝の墓場】を発動します】
タクミの周りに、周囲の鉄分を再錬成させて作った大小様々な刀剣が浮遊しタクミはその一つを手にし、リカリールに応戦する。
「あら?無機物を創る魔法?珍しいけど…それで私が倒せると思って!?」
その一撃必殺の膂力を持ってタクミへと振り出される連撃をタクミは刀剣をもって対応する。しかし正面から対峙すれば勿論刀剣の耐久値は耐えられない為、全て側面から剣撃を与え上手くその全てを捌く。
しかしそれでも尚、リカリールの攻撃を捌き続ける刀剣は一本また一本と砕け、その度に新たな刀剣を生み出し応戦するタクミ。
「あははは!脆い棒切れねぇ!」
「ちっ!【最適解】!重量剣の精製だ!」
何本目かの刀剣が砕けたと同時にタクミは振り上げた姿勢のまま新たな刀剣を精製し、リカリールに振り下ろす。
それは俊敏性を重視した刀剣ではなく、叩き斬る事を重視した無骨な大剣…しかもタイミングは完璧だ。
「ふふ、斬れないと思って次は骨太な大剣かしら?でも…」
が、リカリールはその大剣の柄を蹴り上げて上空に吹き飛ばした。
「嘗められたものだわ?」
そしてそのまま蹴り上げた姿勢からのかかと落としを繰り出した。リカリールの膂力から繰り出されるかかと落としを喰らえば、どれだけタクミの身体能力が高かろうと明らかにその結果は見えている。
【第二段階…【重軽域反転】を発動】
「…あら?」
しかしリカリールの必殺の踵落としは見事にタクミのクロスした腕に止められていた。
【重軽域反転】…任意で指定した範囲の重力を変更できる魔法。それによりリカリールの踵に掛かる重力をほぼ0に落とし、威力を殺しきったのだ。
「ゼロ距離からならコレも結構利くぞ?【太陽風撃】!」
そしてそのままリカリールにゼロ距離で【太陽風撃】を発動した。
「ぐっ!?」
魔物進行の際にも圧倒的な威力で魔物を蹴散らした【太陽風撃】をゼロ距離で浴びるリカリール。並みの魔物ならば決定打となる程の魔法だが…
「…いっ…たいですわ!!…いい加減死になさい!!」
「ちっ…」
なんとリカリールはその場から数メートル後退するだけで【太陽風撃】を耐えきった。流石に無傷とはいかず、漸くダメージらしいダメージはあるようだが、それでも【太陽風撃】を至近距離で喰らったことを考えれば無傷に等しいだろう。
波状的な魔法の連続にタクミの集中力は切れる寸前…そこに怒りを露わにしたリカリールの手刀がタクミの腹部を貫いた。
「が…はっ…」
「あら?てっきり避けるなり、瞬時に回復するなりすると思ってましたが。どうやら限界のようですね?」
リカリールの腕が貫いたままの腹部は真っ赤に染まり、【自動回復】が発動する素振りもない。リカリールは下品た笑みを浮かべた。
しかしリカリールは気付くべきだった。これまでタクミが無意味に攻撃を受けたことは無かったことを。
「まぁそこそこ楽しめたし、これで終わりにして差し上げます…死になさい。」
そう言いながらリカリールはもう一つの腕を振りかぶり…
「ああ、終わりにしよう…お前がな…」
【最終段階の魔法を発動…大気圏上空に待機している大剣を起点に【点と点を結ぶ死】を【遅延解放】します】
ヒュン!!
余りにも軽々しい音を立て何かがリカリールを縦に通過した。
「え?なに…これ…」
そしてリカリールの視界は左右に分かれ、その中心には一本の大剣…それがリカリールごと魔核を両断していた。それはリカリールが先程、リカリール自身が蹴り上げたタクミの大剣だった。
「俺の勝ちだ…化け物。」




