悪魔の双子だった
双子の悪魔…比喩ではないその風貌を内包する少女達は、記憶がない。
勿論だが記憶喪失だとか、心的ショックによる健忘等ではなく、最初から存在しない。
あるのは生み出されてから御方と二人が呼ぶ人物に話し掛けられ、命令された記憶と、この帝国での遊んだ記憶のみ。
二人に感情はない…いや、あるにはあるが、それは喜と楽だけ。怒るという感情もなければ誰かを、人間を哀れむといった基礎感情など不要なものは全て排除されている。
そう、今も目の前のタクミという人間をいたぶるのが楽しくて楽しくて仕方がなかった。
「あははは!こんなに遊んでも壊れない人間なんて中佐以来だわ!」
「ふふ、そうですねお姉様。でも人間という括りなら彼が初めてですよ?」
「あは!そうだったわね!」
双子の少女達はそう楽しそうな口調だが、実際はタクミに対する執拗で粘着質な攻撃を楽しんでいるようだった。
「くっ!」
細い腕のどこからそんなパワーがという凄まじい打撃の嵐。それをタクミは【千鳥足】で何とか回避し、時に間に合わなければ打撃をいなすことで致命傷だけは避ける。
そう現在タクミは防戦を強いられていた。
「(ちっ!【最適解】へのレスポンスはほんの僅かなのにその暇さえない!)」
タクミの天能である【最適解】は思考型の能力。ジュウゲンの【狩人】やハヤテの【疲れない体】は所謂、常時展開型といわれる常にその能力が発動している状態だ。
反対に思考型天能と言われるタクミの【最適解】、ヒスイの【並列演算】は能力にオンオフが存在する。これは能力による脳の負荷が影響するためで、そのせいで思考型は僅かながら能力行使においてタイムラグが存在する。
しかし通常そのタイムラグは、ゼロコンマ以下の世界。さして問題もないレベルだが、こと現在においてはタクミにとって致命的な欠点となりえている。
「くそっ!化け物どもがっ!」
「あははは、ひどいですね!」
「その化け物の攻撃を回避し続ける貴方も十分異常ですわよ?」
タクミ自身は否定するが、懐刀家の実力はジュウゲンとハヤテに次ぐ三席だ。その代々受け継がれた暗殺技術+etc、それにこの世界に転成した際に神様がひっそりと与えた高水準の身体能力…それだけで天能を抜きにしてもこの世界の水準からいえば上から数えた方が早い。
だが今タクミが相手にしているのはそんな枠にはまらないまさに埒外の存在だ。能力の補助がない今、身体能力だけでこの二人を相手にするのは如何にタクミと言えども無理があった。
「本当に身体能力だけで私達の攻撃をかいくぐってるのね。確か中佐の報告では何か特殊な魔法も使うと聞いてたのだけど?」
「そうね、なぜ使わないのかしら?」
「……。」
そんな会話を交わしながらも双子の怒涛の攻撃は収まらない。
正確には使わないのではない、使えないだ。タクミは【太陽風撃】や【弱点必中】などの魔法を使用できるが、それは【最適解】の補助ありきの魔法だ。タクミ自身、その魔法の発動行程を説明しろと言われても出来ない自信がある。
似たような能力ならヒスイの【並列演算】だが、あれはあくまでも複雑な魔法を発動するためにその処理工程を早める効果しかない。
詰まるところ、ヒスイはその発動行程を全て頭で理解した上で魔法を放っているのだ。【並列演算】が使えなければ使えないで、時間は掛かるものの魔法自体は放つことが可能なのである…そこは流石物理オタクと言うしかない。
この世界の人間の使用する【炎矢】や【氷槍】も、衛星村の住人から手解きを受けたことがあるタクミだが、正直そんなものを使う余裕があればとっくに【最適解】を使えている。
「ぐぁっ!?」
「あら?当たったわ?」
双子の片割れが無造作に放った拳がタクミの脇腹を捉え、捻りもいだ。まさか当たると思ってなかった片割れがキョトンとしている隙に、鮮血を撒き散らしながらタクミはこれ幸いと距離をとる。
が、そうはさせないとばかりにもう一人がタクミの後ろに瞬間移動と見間違うようなスピードで回り込む。
「ふふ、逃がしませんよ?」
「ちっ!(無理やり時間を作るしかない…なら!)…がはっ!?」
「あら?」
タクミは細い腕から繰り出される必殺の一撃を敢えて受けたのだ。タクミの腹部に深々と刺さった自分の腕を眺めながら、双子の悪魔は首を傾げる。
「どういうつもりかしら?」
「さぁ?」
「(がぁっ…くそっ、いってぇ!…だが!【最適解】!自動判断を実行!以降は戦闘終了まで自動案内状態を維持!)」
【自動判断を受託…最優先事項である生命維持を確保、独自判断により【自動回復】と【細胞硬化】を発動。同時に自動案内を開始…以降は情報のインプットは不要となり、逐次、取捨選択での案内を開始します】
息つく暇もない猛攻の中で天能が使えないならば、無理矢理にでも時間を創ればいい。例えそれが身を削る方法だとしてもタクミにそれらの恐怖はない。
「「っ!?」」
双子の悪魔は怪訝な表情で吐血しながら沈黙していたタクミを観察していたが、ふとあるものを見た瞬間襲い来る悪寒と共に勢いよく後退した。その際片割れの腕がタクミの腹から強引に引き抜かれるが、それも瞬く間に回復する。
「…ふぅ。よう待たせたな化け物ども。第二ラウンドといこうか?」
「「……。」」
顔を上げたタクミの見た目に劇的な変化はない。せいぜい双子が与えた傷がきれいさっぱり消えているぐらいだ。だが見た目以上の変化は目に見えない形で現れていた。
「ふふ…人間とは思えないほどの負の雰囲気…いえ、負のオーラかしら?」
「ええ、そうねお姉様…最早一種の化け物ね。」
双子の目が…いや、正確には感覚が捉えたのは、タクミから醸し出される重く深く纏わりつくような殺気。見た目は弱そうな少年の姿だが、決して油断など出来ないと思わせる重圧。
「「「………ふっ!」」」
三者三様。自然体な構えで佇んでいたが、一拍で瞬く間にトップスピードで戦闘を開始する。
「【最適解】」
【細胞硬化を派生進化…成功…【強制活性化】を発動します。並びに攻撃補助のため個体名:ヒスイ・ダトウの【超電磁砲】から分解解析した魔法を構築…並びに個体名:タクミ・ダトウの戦闘スタイルに統合…成功…雷系魔力装填魔法【雷天大葬】を発動…成功】
【最適解】による自動判断により今最もタクミが必要としている魔法を自動発動。因みに最後の【雷天大葬】は、【強制活性化】により強化した肉体に対して、雷と肉体を半融合させ、身体能力と攻撃力を飛躍的に上げる…という魔法だが、その魔法のコンセプトはタクミの記憶を読み取った【最適解】が、サブカルから引っ張ってきたものだ。
その事に途中で気付いたタクミは…
「(ヒスイが知ったらうるさそうだな…)」
と心の中で一人ゴチた。
「あははは!すごいすごい!」
双子の片割れが狂気的な笑みを浮かべながらタクミと拳と拳を打ち合う。片や純粋な化け物と魔法による超人的な攻撃力を有した攻防は、周りに衝撃波を発生させながら続いた。
その衝撃波は周りの家屋を巻き込み、それに気付いた住民達、更には救護活動を行っていた冒険者達の目にもとまってしまった。
「おい、なんだあれ?電気を纏った奴と化け物みたいな奴が屋根の上で戦ってるぞ!?」
「化け物?…おいおい、なんだありゃ?魔物…にしては動きが人間的すぎるし、人間にしちゃおぞまし過ぎるだろ。おい、兎に角このことをギルマスに伝えろ!あと周りの奴らも避難させるんだ!あんなのに巻き込まれたらひとたまりもないぞ!」
そんな怒号を含んだ号令で冒険者達は一斉に行動に移った。周りに注意を促し、逃げるように指示。怪我人はすぐさま移動させるために担架が用意される。
「あらあら、ゴミ屑が逃げようとしてるわね。リカリール姉様、あっちのゴミ屑は私がもらってもいいかしら?」
そんな冒険者達を一人眺めていた双子のもう片割れが、タクミと激しい戦闘を繰り広げる片割れ、リカリールにそう尋ねる。
「ふふ、私は構わないわ。今はこっちの方が美味しそうだもの。」
「ちっ!(向こうまでは流石に手が回らない!)」
「じゃあ遠慮なく。」
トンっと屋根から下で逃げまどう住民達目掛け、片割れが口角を吊り上げながらその外見に似合わない豪腕を振る……
「シャァァァァ!!」
「え?…なっ!?がぁ!?」
しかし突如として横から衝撃を受け、双子の片割れは水平に弾かれるように吹き飛ばされた。
「ふぅ…ありがとう、蛇一郎。」
「はぁ…カオリ、こんな街中で蛇一郎なんか出したらパニックに…いや、もうなってるか。」
そこには邪神蛇こと蛇一郎に乗るカオリと、呆れ顔ながら苦笑いをしているコウイチがいたのだった。




