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露見したのだった (後)



某機密情報管理室…その更に最深部の隠し部屋


「…カオリ。僕は汚い言葉は嫌いだけど、今日はあえて言わせてもらうね?『胸くそ悪い』…だよ。」


「えぇ…そうね。そしてタクミが危ないわ。」


コウイチがその顔を苦渋に染め、カオリは目を細める。一枚のある家系図を睨み付けながら。


その手を赤に染めて…










「おい!重傷者はこっちだ!」

「誰か回復系の魔法が使える奴は来てくれ!」

「軽傷者は取り敢えずふつうの治療にしておけ!危険な奴から治療するんだ!」

「ダメだ!おいっ!意識を手放すな!おいっ!」


日も大分欠けた夕暮れ時、スラム街にほど近い広場ではまさに喧騒と言うよりも罵声に近い声が響きわたっていた。魔物の被害を受けた街中では死傷者が多数おり、冒険者ギルドから多数の回復系の魔法が使えるものを、緊急依頼として総動員していた。


街中と言っても魔物たちが暴れ回ったのは外れの方。俗にスラム街と呼ばれる場所だ。割合的にはスラム街出身のもの達が多かった。


基本的に帝国はスラム街という区画自体を、存在自体を認めていない。有るのは開発区・・・という場所に、迷い込んだ浮浪者というスタンスだ。


彼らは税金を納めていない。逆に帝国も彼らが税金を納めれるとも思ってないので徴収はしない。基本的に不干渉であるかわりに、そこで何があっても自己責任。衛兵も兵士もその場所の事案には例えどんな事があっても不干渉だし、それは公的機関も同じだ。


故にそれに近いギルドも本来ならば不干渉というスタンスのはずだった…が、今回は少なからず一般市民も巻き込まれており、たまたま・・・・スラム街の住人が混じってても問題ないという屁理屈の元にギルドマスターが独断で出した緊急依頼だった。


「ギルマス、いいのか?こんな事がお上にバレたら不味いぞ。」


「…緊急依頼を出す場合、ギルマスと副ギルマスの連名印が必要だ。その印を我先に押して俺のところに持ってきたのはどこのどいつだ、ニック。」


ギルドマスター専用の執務室から窓の外を眺めるスキンヘッドの男に、優男と表現するに相応しい赤毛の男がそう問い掛けたが、2人の表情は晴れやかだった。


バレれば良くて罷免の上国外追放。悪くて打ち首。そんなことが罷り通るこの帝国でギルドマスターと副ギルドマスターを務めるこの男達は、現場たたき上げでのし上がった元スラム街出身。


例え帝国という大きな慣例・・に表面上は従ったとしても、だからと言って同族を見捨てるという選択肢は彼らにはなかった。


そもそもこの緊急依頼自体に強制力はない。その実体を知ってもなお、スラム街出身以外の冒険者達でさえも人の命を救うという一点においては分別を弁えていた。


「あーあ、せっかくスラム街から抜け出してこの地位に就いたってのに、明日からは良くて国外生活とはとんだ貧乏くじだな。」


「それなら隣の王国にでも亡命してみます?運が良ければ心機一転、ここよりいい生活が出来るかもしれませんよ?」


「…ちっ、なに他人事みたいに言ってやがる。お前も同じだろうか。」


「ふふ、そうでしたね。」









「あらあら、姉様。あそこでゴミに慈悲をくべている帝国民が見えますよ?」


「あらあら、この国でそれは御法度タブーなのは知らないのかしら?」


「ゴミに手を差し伸べるのはまたゴミって事かしら、姉様。」


「そうみたいね。ならウサギ狩りから変更してゴミ掃除・・・・といきましょうか?」


「あらあら!それは名案だわ!」



闇夜に浮かぶ不気味なまでの、その場に似つかわしくない声と笑顔で悪魔が広場を見下ろす。




「おっと、そこのお嬢さん方…今、何をしようとしていた?」





そこに響いたのは若い少年の声。


悪魔の眼が4つ、その声の方へと注がれる。


「あらあら、あの子は確か中佐の報告にあった…王国の諜報員…にしては若すぎるわね、姉様。」


「ええ、そうね。でも…纏う雰囲気は中佐とにてる…いいえ、私達に近いかしら?」


「…おいおい、やめてくれよ。俺は人間・・はまだやめてないつもりだが?鏡で自分の顔、みたのか?」


少年…タクミの目の前にいたのは【奇怪】、そう表現するに相応しい異形の姿。人の形は辛うじて保っているものの、赤い体躯に棘が身体中からそそりでて、瞳は縦に割れている…そう、この世界の基準で言うのであれば魔物に近い存在がそこにいた。


その魔物達は人語を操り、なまじその声が少女の声なので、その奇怪さがより一層際立っている。


「ふふふ、この姿を見てそんな軽口が叩けるなんて…」


「なかなかの胆力…いえ、この場合は蛮勇かしら?でも頂けないわ?中佐はキチンと仕事をしなかったみたい。中佐には後でキチンとお仕置きするとして、先ずは…」



「「この無礼者を八つ裂きにしないとね!!」」



一拍の間、それだけで人型の魔物二人はタクミを左右から挟み撃ちの体制で殴りかかってきた。


「ちっ!(速いっ!)」


左右から繰り出されるパンチを寸でのところで身体を捩る事で回避したタクミは、魔物の片割れに回転の威力を上乗せした蹴りを放つが…


「!?(堅すぎだろうっ!)」


その蹴りは魔物の顔面を捉えた所でピクリとも動かなくなっていた。この世界にきて、不思議と身体能力が上がったブロブロを上空へ蹴り飛ばすほどのタクミの蹴りを、避けるでもなく、防ぐでもなくただ受けきった。


それはタクミの思考に、一瞬の空白を生む。そしてそれはこの場においては致命的だ。


「もーらい。」


横凪に繰り出される魔物の手刀。タイミングは完璧で最悪。そのままタクミの首を跳ねることの出来る絶妙なタイミングだった。


【告。生命の危機を感知…生命保持を優先し、強制回避を実行】


差し込まれる手刀とタクミの頭との間に、【最適解せんせい】により一時的に主導権を奪ったタクミ自身の左腕が割ってはいる。


ザンッ!


「ぐっ!?」


「あら?」


「あらあら?」


血飛沫を上げて宙を舞うタクミの頭…ではなく、肘から上の腕。そしてその一瞬で二人の魔物から距離を取ったタクミは苦悶の表情を僅かに浮かべている。


「(【最適解】の強制回避が間に合わなきゃ死んでたな…しかし、コイツら…相当ヤバい。)」


腕からの出血を無理やり魔力で押し留め、タクミはそんな考えを巡らせていた。


武術的強さではない。高速移動、強固な身体、凄まじい膂力…ただ其れだけだが、故に脅威。技術を上回る圧倒的暴力…タクミが最も苦手とする相手だった。


懐刀家は暗殺者の家系だ。闇夜に紛れ、一拍の間に知られずに屠る。勿論自己防衛のための武術は修めているが、本来暗殺者が戦闘に陥る時点でそれはもはや暗殺者ではない。


それでも懐刀家の人間は並みの武術家よりは普通に強いのだが、その反面、こういう圧倒的暴力の前には弱い側面があり、タクミはそれが顕著だった。


しかしこの世界に何の因果か招かれて、懐刀家は各々自身の望んだ能力を得て、知ってか知らずかその側面も補われつつあった。だが事この盤面において、タクミのもつ【最適解】と相手の相性は最悪だ。


「ふふ、さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」


轟音と共に繰り出される蹴りやパンチを紙一重で回避する…先にもう一体が上手く回り込み追撃を加えるコンビネーション。


「お前ら本当化け物だな。」


「ふふ、ほめ言葉として受け取っておくわ?」


話術や挑発にも反応しない。


「っ!(ちっ!【最適解】を発動する暇がないっ!)」


タクミの【最適解】は、あらゆる状況をシュミレートし、持てる最善手を導き出す思考型の能力。この世界のタクミの身体能力、魔力、そして懐刀家のあらゆる技術と組合せればそれは最強と言っても差し支えないだろう。


しかしそんな【最適解】にも唯一の欠点があった。


それは【最適解】に導きたい要素を事前にインプットしなければならないという点だ。


もっと現代的に【最適解】を表現するならば、それは【量子計算機スーパーコンピューター】というのが一番当てはまるだろう。本体自体は超高性能な演算機だが、何も入力しなければ只の粗大ゴミなのだから。


エミリアの従者を助けた際、無礼な騎士の武器を破壊した際、魔物進行を退ける魔法を放った際…そのどれも思考的余裕・・・・・があったが、現状はそのコンビネーションの前に僅かな思考の無駄も許されない状況に陥っていた。


「(さっきの強制回避は予め用意しておいた緊急用…同じ手は使えない。つまり、次捕まったらアウト。)」


怒涛の必殺とも言うべき攻撃のラッシュをかいくぐり、タクミは紙一重の攻防を繰り広げる。


【最適解】の補助が使えなければタクミは魔法も満足に行使できない。それどころか現状、懐刀家の暗殺技術と、常人よりは丈夫な身体一つでこの化け物二人と渡り合っているのだ。



「だんだん動きがにぶくなってきたわね?」


「そろそろおねむかしら?」




その暗闇に浮かぶ双眼はタクミをまっすぐ射抜いていた。






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