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魔物襲来だった


「女将さん、どんな魔物が入り込んだかわかります?」


「え?えぇ…何でも闘牛みたいな魔物と団子虫みたいな魔物らしいけど…ってそんな事よりあんた達、早く逃げな!!」 


そう言うと女将は三階の階段を駆け上がり同じ様に避難喚起を再開する。


「…エリシア、ひとまず安全な場所に避難しておいてくれるか?俺はちょっと様子を見てくる。」


「えぇ!?逃げないんですかタクミさん!それはタクミさんの強さは知ってますが、それでも危ないですよ!」


エリシアはいくら何でも危ないと引き留めてくる。


「大丈夫大丈夫。ちょっと気になることがあってね。すぐに戻るから避難しといてくれるか?な?」


「うぅ~…絶対に帰ってきてくださいね!?絶対ですからね!?」


「ああ。」


「ちょ!あんた達まだいたのかい!?ほら、早く逃げるよ!」


注意喚起を終えた女将が上から降りてくると、驚いたようにそう声を張り上げた。タクミはナイスタイミングとばかりに女将に言う。


「悪い、女将さん。この子ちょっと地理に疎いんで避難所まで連れて行ってくれます?…じゃ!」


タクミは背後の窓を開け放つと、そこから外へダイブした。


「「なっ!?」」


これには女将どころかエリシアでさえも驚いた。しかしそんな二人の心配をよそに、タクミは傍にあった木をクッションにし反対の家の屋根へと飛び移ると、そのまま屋根伝いに土煙があがってる方向へと走り去っていった。


「何なんだい、あの子は…」


「はは…タクミさん、ですからねぇ。」
















「さてさて…自然発生か、人為的なものか。どっちかねぇ…。」


タクミは屋根の上をなるべく人の目につかないよう超低姿勢で駆ける。こんな混乱の最中で屋根の上を気にするものはいないだろうが、念には念を入れておくタクミ。


「コウイチさん。」


ポツリとタクミが呟くと屋根の上へと飛び乗ってきた影が一つ…今名前を呼ばれたコウイチだった。当然のようにタクミに併走し口を開いた。


「外壁を破壊して進入してきたのは堅い外皮と角を持つ"デュアルホーン"ていう牛型の魔物と、同じく堅い外皮を持ち、丸まって突進攻撃を仕掛けてくる"ブロブロ"っていう団子虫型の魔物だね。数は共に100を越える…帝都の兵力の練度にもよるけど、絶望的だろうね。」


魔物進行(モンスターパレード)?誰にも気づかれずに?」


聞けばコウイチ曰わく、共に魔物の全長は2メートルを越える大型のもので、これが全く気付かれずに帝都に接近できる可能性はゼロとのこと。


ならば可能性は一つ。人為的に発生ないし誘導された魔物進行ということだ。


Bランク指定された魔物進行でさえあれだけ皆絶望的だったのだ。あの時よりも数は少ないが、外皮の堅さと攻撃力を加味するなら確かに絶望的である。


「やるとしたら外部の人間かな?内部の人間…特に中佐辺りがやったとしても、帝都にメリットはないし無駄に国力を削るだけだろうから。タクミくんの見解は?」


コウイチの見解は妥当なものだ。魔物進行を自国にわざわざ突っ込ませるメリットは少ない。


「俺も同感…だけど一応調べとこうかな。」


「わかったよ。じゃあ僕とカオリは其方に先行するね?ヨハイム君とアリサさんは情報収集を継続ってことでいいかな?」


「うん、コウイチさんそれでお願い。」


「了解。」


するとコウイチは屋根から飛び降り、もう一つの影と合流し一直線に騒動の根元へと向かっていった。


「(さてと、魔物の特徴から考えるに物理攻撃は駄目だな。かと言って大きな魔法を使えばこちらの情報を悪戯に漏らすことになる…義理立てする筋合いはないけど、ここで暮らす人たちに罪はないからなぁ…どうしたらいいと思う?【最適解】)」


【魔物の特徴は2つとも堅い外皮のためのデュアルホーンは極小の攻撃を一点突破し、心臓部を破壊することをお勧めします。しかしブロブロは昆虫型の魔物、他の器官でも僅かに活動可能なため心臓部を破壊したからといって直ぐに活動を停止するとは言えません。広範囲の殲滅魔法をお勧めします。】


哺乳類と爬虫類では体の構造が違うため至極もっともだったが、それだとリスクに対するメリットが余りない。


一番の最善手はこの国の冒険者や兵士にがんばってもらうことだが…。


「これは…無理だろうなぁ。」


漸く魔物達が侵入した区画に到着したタクミだが、目にしたのは魔物により踏み潰されひき殺された人々。避難誘導はすでに始まっており、服装や装備から察するに殆どは兵士や冒険者であり帝都民の比率は少ないが、それでも目を覆いたくなる惨状だ。


そして今もなお魔物は建物を薙ぎ倒しながら、もしくは人を踏みつぶしながら進行を続けていた。

もうすでにこの一帯は人の気配がなく、魔物達の雄叫びと建物の崩れる音しか聞こえない。


「……仕方ないか【最適解】、"太陽風撃"お願い。」


【了解しました。バックアップからロード…"太陽風……】


「!?…発動中止!障壁緊急展開!!」


【発動中止します…合わせて障壁を緊急展開します。】


咄嗟の判断で魔法を中断し、自身を覆う形で障壁を展開させたタクミ。それを見計らったかのように何発もの銃弾が障壁と衝突し爆ぜる。


その際、爆煙により視界が遮られ一瞬だけ方向感覚が分からなくなった瞬間、障壁に第2射が全方向から撃ち込まれ障壁がついに崩壊した。


「【最適解(せんせい)】対空防御は任せた!」


【最小限度の魔法による最大限度のパフォーマンスをお約束します】


頼もしい限りだ…そう口元で笑いながら敵の攻撃地点を頭の中で算出する。


息つく暇もなく煙で視界が悪い事を利用し、敵は様々な角度から銃弾を撃ち込んでくるが、【最適解】による最小限の風魔法で、撃ち落とすではなく軌道を逸らし、まるで弾丸がタクミを避けるような軌道で外れていく。


そしてタクミは敵の現在地の割り出しに掛かった。先程の第1射は前方から、第2射は全方向…つまり1射後に時計回りで撃ち込み、最後は…


「そこか!!"懐刀流 歩法術 斬速歩瞬"」


一歩目で地面を高速で蹴り込み一拍で距離を詰める、そして…


「"懐刀流 無手格闘術 斬鉄手刀"!!」


手刀を特殊な呼吸法により鉄よりも堅く、刀よりもしなやかに…敵の身体を一刀両断に断ち斬る…はずだった。


「やはり貴様だったか。」


前に敵の持っていた見覚えのある拳銃(・・・・・・・・)に阻まれていた。防がれたのは半分予想通りだったため、すぐさまバックステップで距離をとる。


「ちっ…やっぱり中佐か。」


「悪態をつきたいのはこちらだ。私の仕事を増やしてくれた感想はどうだ?いくら闇を生業とする私でも、生まれ故郷をこうまでされては腹に据えかねるぞ?」


中佐の表情は相変わらずの無表情であったが、言葉の端々に怒りの一端が垣間見えた。


「……これは中佐の主導だろう?」


「なぜ俺がそんな事をしなければならない?この状況が敵国であれば俺も諸手を揚げて喜べたのだがな。」


やはり中佐…引いては情報部は今回の件には関わっていないらしい。それはタクミやコウイチも予想していた為、驚きはない。鎌を掛けてみたがこの反応は白のようだとタクミも確信を持てるほどだ。


ならば本格的にわからなくなった事が、これは()

何の目的(・・・・)でこの様な状況を創ったのかである。


「…どうやら貴様も知らないようだな。」


「へぇ…またなんでそうだと思った?」


「俺も現役時代は諜報員として様々な人間と携わってきた。その言葉・表情の真偽くらい2、3言葉を交わせばわかる。」


それは事実だ。現に『脇差』のコウイチは特に真偽の選定に長けており、それは人でも物でも完全に見分けることができる。


「確かタクミだったか。俺と取引をしないか?」


「…へぇ。俺と(・・)、か。」


「そうだ、俺個人との取引だ。内容はこの魔物進行の排除とこの場での詮索の禁止…そして俺が差し出すのは情報、どうだ。」


突然の中佐からの提案…もとい取引。


「互いのメリットは?」


「貴様には今、この帝都で起こっている情報…そして俺はこの()を守れるというメリットだ。」


「(国…ではなく()ときたか。)」


罠の可能性は十分あり得る。そして仮に共闘して魔物進行を退けたとしても、中佐が約束を守る保証なんてどこにもありはしない。


しかし、タクミは中佐の言葉を聞いて、今この場に限って中佐の言葉は信じても問題ないと感じていた。


ただしその根拠も何処にもないが…。


「…この場限りの共闘、受けるよ。」


「…ふっ。感謝する。」






タクミは最小限の警戒心を中佐に向けつつも、指をパキパキと鳴らしながら未だ暴れまわる魔物へと視線を注ぎ


中佐は慣れた手つきでシリンダーに銃弾を装填すると撃鉄を上げ、同じく魔物へと向き直った。


「掃除の時間だ。」


「殲滅戦を開始する。」


限定的な共闘戦線が組まれた瞬間であった。



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