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暗躍開始だった



「エリシア、今日は旅の疲れを癒すために1日休みを取ろう。はい、これ今日の軍資金。」


「え?お休み…ですか?っと!……ふぇ!?何ですかこの金貨の山は!?」


突然部屋にタクミが来たと思ったら、いきなり休みだと告げ麻袋を放り投げてきた。

その中を覗き込んだエリシアは素っ頓狂な声を上げタクミを見る。


「何って、今日1日遊ぶためのお金だけど?…あ、もしかして足りなかった?なら……」


更に懐から追加のお金を出そうとするタクミをエリシアは必死に制止する。


「た、足りてます!!足りてますから!!驚いたのは金貨の多さに驚いたんですよ!こんな金額、家でも買う気ですか!」


麻袋の中にはこれでもかと言うほど金貨がぎっしりと入っており、前にも後にもエリシアが個人で持つ金額としては最高額だろう。


「いや、そんくらいは必要かなと…元とはいえ王女だし。」


それは過分に偏見が入っている。


「この半分…いえ10分の1でも十分ですよ!…ふぅ、ふぅ…いえ私お金持ってないんで少しは有り難く使わせてもらうんですけどね?でもそうしたらタクミはどうするんですか?」


「んー、俺は昨日落とし物拾ったからさ。それを届けた後ぶらっと散策でもしておくよ。」


「え、落とし物なら私も一緒に行きますよ?」


「ははは、大丈夫大丈夫。落とし主も分かってるしすぐに終わるからさ。それと俺、物を選ぶセンスが皆無でさ…ついでにみんなのお土産も買っておいてくれない?」


「お土産って…私たち情報収集にきたのにそんな事してていいんですか?」


「大丈夫だよ。それに気分転換は大事だ、だから頼んだエリシア。」


そう言うとタクミは扉を閉めて部屋を出て行ってしまった。急に休みだといわれても何をしたらいいのか分からないエリシア。しかしタクミにいわれたとおり、気分転換も兼ねて散策でもすることにする。


幸い、軍資金は沢山あるのだから。











「さて、首尾はどうだった?2人とも。」


タクミは大きな麻袋をドスっと地面におろすと近くにあった木箱の上に腰を下ろす。この場所は大通りから二本ほど道を外れた裏通りで、現地の人間でも使うのは極々少数だ。


そんな如何にも裏取引が行われそうな場所に、タクミの問いかけに合わせるように二人組の影が近付いてきた。


「ふぅ…これでも私達って隠形にはそれなりに自信を持ってたんだけど?」


「こうも簡単に見破られると自信をなくすな。」


そう言いながら現れたのは黒い装束に身を包んだヨハイムとアリサだ。以前着ていた旅人風の服と娼婦風の服装ではなく、今は作業効率を重視した実用性のあるものだった。


「はは、まぁ"隠"に関しては俺も自信があるからさ、隠れる方も見つける方も、ね?」


そう言いながら手をヒラヒラと振りながらニヒルな笑みを浮かべるタクミ。


「…。」


ヨハイムはその笑みの底に何か仄暗い物があると直感的に分かったが、それはあえて口にしない。知りたがりは何かと命を落としやすい…特に情報を生業とする者たちは。


「で?あの女の子の自爆特攻、何かわかった?」


「…えぇ。正直私達でも反吐がでる内容だったわ。組織名は【ラフレシア】、毒を内包する蕾っていう意味らしいわよ?」


「毒を内包する…ねぇ。」


毒…そう言われて思い浮かぶのは少女の意思とは無関係に発動したあの『限られた終焉』という魔法だ。なる程、的を射たネーミングだな…と思った瞬間には、タクミの手を置いていた木箱の一部がひしゃげていた。


勿論やったのはタクミである。


「…私達がいた情報部も様々な汚い手を使ってきたけど、あれは一線を越えていた。中佐は確かに非道な面は持ち合わせていたけど…あの部隊のやり方、いえ、あの部隊の存在は中佐が一番嫌いな部類のはずなのだけど。」


「ん?じゃああれは中佐の差し金じゃないのか?」


まさか他に黒幕がいるのか?とタクミ思ったが、それをヨハイムが否定する。


「いや、あのレベルの暗部組織を動かせるのは間違い無く中佐だ。しかしどんな心境の変化があったのか…」


「馬鹿ね、中佐に心境の変化なんてないわよ。ただ単に効率がよかったから使った…中佐はそんな人間でしょ?」


そうアリサに言われたヨハイムだが、どうも今一つ腑に落ちないような顔をしている。


「どちらにせよ顔が割れている俺達がこの国の暗部を調べるには限度がある。そこでだ、今日は助っ人を用意した。コウイチさん、カオリ。」


「えっ?」「なに?」


タクミは不意にそう声を上げると、いつの間にかアリサとヨハイムを挟み込む形で少年少女が立っていた。言うまでもなくコウイチとカオリだが、突然現れた二人にアリサは驚愕を隠せない。


「本当に隠密技能の自信をなくすわね…」 


「二人には無理を言ってこっちに急遽参加してもらった。どうせうちの国のごたごたはジュウゲン達が軽く抑え込むだろうしね。」


「…コウイチさん、村では訓練につき合ってくれたことに礼を言う。お陰で技能の向上をこの年で実感できた。」


ヨハイムは村で治療の傍ら、コウイチに隠密技能に関して師事していた。そのお礼である。


「ははは、やめてくださいよヨハイムさん。(見た目)年上のあなたに改まれると居心地が悪いですって。」


とコウイチは苦笑いし。


「アリサ。邪神蛇の子供、元気にしてる?」


「いや、カオリ…何度もいってるけど今は子供でも邪神蛇よ?大人になったら制御する自信がないのだけど?」


「だから大丈夫よ。制御するんじゃなくて友達になればいいんだから。」


「そもそもSランクの魔物を友達って、貴方みたいな特殊技能が有るわけでもないのに無理に決まってるじゃない!」


「えぇー?そうかなぁ。」


アリサはアリサで、カオリから邪神蛇の卵というのを分け与えられ、今はそれを懸命に育てていた。口ではあぁ言っているが、結構可愛がっているらしい。


そんな関係性を築いている事もあって、今回のことではコウイチとカオリが適任だとタクミが判断し、ジュウゲンが許可を出したのだ。


「さて、今ここにいる面々が現時点で動ける人数だ…まぁエリシアにはその間、久し振りの帝都を楽しんでもらうとするよ。」


「それはいいんだけどタクミ、今後のプランはどうなってるの?」


カオリがアリサを宥めながらもそう聞いてくる。この情報戦に特化したメンバーでやることといったらそれは間違い無く情報収集であるのだろうが、どう立ち回るのかによってやり方は変わる。


「プランねぇ…でも今回は明確な敵がいて、中佐がどの位戦えるのかも分かっていて、明らかな敵対行為をやられたんだ。そしたらやることは一つだろ?カオリ。」


「…へぇ、つまり?」


「徹底的に叩き潰す…中佐率いる情報部を根本から。俺達、懐刀家に手を出したことを後世まで後悔するくらい。」


「「……。」」


「ふふ。」


「タクミ君にしては珍しい強攻策だねぇ。」


タクミの言葉に苦笑いするコウイチや楽しそうに笑うカオリはともかく、その時のタクミの表情をみたヨハイムとアリサは凍り付いた。


顔は笑顔…しかしハイライトの消えた瞳はその表情と相まって多大なる重圧(プレッシャー)を醸し出す。

村で身体を治療し、療養していたときに見ていたタクミとのイメージの乖離に、背筋からいやな汗をかく。


「じゃあいつ頃になりそうなの?」


「自爆特攻の失敗と昨晩の奇襲部隊の壊滅、それを勘案して逆算すると…明日の夜だな。」


「連座は?」


「関係するものすべて。」


「「…了解。」」


短い言葉で交わされるタクミ達のやり取り。それを聞いていたヨハイムはコウイチに訪ねた。


「コウイチさん、連座とはいったい。」


「うーん、連座だっていうのはね、今回の抹殺対象者のどの範囲までを同格として処理するかってことなんだけど…」


「……。いや、結構です。すべてわかりました。」


「関係するも全て」…つまり関係者は全て抹殺対象ということだ。


「…タクミ君は基本的に穏健に事を運ぶ傾向があるんだけど、今回は腹に据えかねたみたいだね。」



これから知ることになるのだろう。情報部の人間は誰に…いや、何に手を出してしまったのかを。




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