ダトウの本領発揮だった
時はタクミとエリシアが帝国へ出発した直後に遡る。
王城の執務室。
そこには国王、マルク、ジュウゲン、ショウゲンの四名が机を挟んで向かい合っていた。
端から見るならば少年対大人の会談にも見えるが、立場と優位性は明らかにジュウゲンたちの方が上…というのは国王とマルクの認識である。
「さて、陛下。早速ですが今後の方向性について、私どものプランをお聴きいただいてもよろしいですかな?」
「…よろしく頼みます。」
ジュウゲンがそうにこやかに切り出すが国王とマルクの表情は硬い。
「…ジュウゲン。表情の選択が間違っています。今は厳格な表情の時です。」
「む?…そうか。すまんの、ワシはどうも空気を読むのが苦手でのぉ…」
ショウゲンから苦言が入ったところで、ショウゲンはコロリと表情を厳格なもの(といっても外見は少年だが)に変える。
元々ジュウゲンは『腰刀』であり、暗い仕事周りが多かった為交渉役や折衝役という役回りはあまり得意ではない。それこそ『太刀』であるショウゲンの方が上手いと言えるほどには向いていなかった。
当主という立場上、必要最低限はこなせるがどちらかと言うと側近としての位置付けであるショウゲンに丸投げすることが多かった。
「んんっ!ジュウゲンの代わりに私から申し上げます。把握されているこの国の重要事案は3つ…うち2つは早急な対処が必要です。1つは国内の謀反分子の排除、此方は我が家の者…ここにいるジュウゲンと私、タクミを除いて残りすべての者を向かわせております。本日中には片が付くでしょう。」
「本日中…ですか?」
ショウゲンの言葉に国王とマルクは驚きを隠せない。相手は王家に繋がりの強い家だ(先程、議会にて国家反逆罪で除名及びお家取り潰しの決定が下された)、それすなわち保有する財力引いては兵力も並みの貴族の比ではない。
やろうと思えば財力にものを言わせて傭兵による戦力増強も考えられる。それを10人にも満たない人数でどう解決するというのか?
「まぁお二人が驚かれるのも無理もありません。しかし、これだけは言えます…お任せください、と。」
「「…。」」
ショウゲンのその言葉は凄んでいる訳ではない。しかし2人はその言葉に不思議な重みがあることを感じ取っていた。
「…そして2つ目の国境付近の魔獣の件ですが、これは私とジュウゲンが参りましょう。ただ1つ目も2つ目も後処理が大変ですからね。後詰めとして両方に50人ほど兵をお借りしたい、なに、戦いではなく捕縛や後処理がメインですから新兵でも何でも構いません。」
「…う、うむ。それは構いませんがな…本当にお二人で行かれるのか?報告によれば普段群れることのない魔物達が統率された軍のようにこちらに向かってきているという話…我々も兵を…」
流石にそれは…とマルクが食い下がろうとしたが、国王はそれを手で制した。
「陛下?」
「…分かりました。ショウゲン殿、ご武運を。後詰めの兵は後ほど向かわせます。」
「恐れ入ります、陛下。では我々は今からその現場へと向かうことに致しましょう…なに、此方も本日中には終わりますので。ジュウゲン、行きましょう。」
「ま、そういう訳じゃ。本日中には謀反の処理も魔物の処理も終わるじゃろ!」
「「……。」」
そう言い残し執務室を出て行くジュウゲンとショウゲン。それを2人は黙って…唖然とした表情で見送ることしか出来なかった。
ビュラノス公爵領 領主邸宅
「貴様ら!ここを何処だと…ぐはっ!?」
「あーあー…私も帝都に行ってみたかったなぁ…」
「いい加減に…ヒィッ!?」
「まぁまぁマフユちゃん。当主の決定なんだから仕方ないわよ。」
「て、敵襲!敵襲!数は2!かなりの手練れだぞ!!」
「女2人だが見かけに騙されるな!!」
「あーもう!さっきから煩い!『電磁波群』!」
「あらあら、武装した人達が沢山…武器は危ないからね"三枚卸"」
領主邸宅の玄関で重武装した兵士たちは困惑していた。本日、自分達の上司である部隊長より、遂に王城攻略の指示がでて士気も最高潮で待機していた時、いきなり現れた2人の来訪者。
見た目12~15歳に見える見目がいい女の子2人。最初は部隊長が用意した気前のいい餞別かと思った者もいた。年は少し若いが、何よりも美少女達だ不満はない。
しかし次の瞬間、少女達がとった行動により考えが180度変わる。
「ん~、この不快極まりない視線は好きじゃないですねぇ。取り敢えず認識を改めさせましょう。え~と、部隊長さんはどなたですか?」
ユミカが人差し指を頬に当て首を傾げる。それはユミカがやれば様になるあざとい仕草だが、身内であるマフユは知っている。その仕草が…
「(あ、ユミカねぇがキレてる…)」
超絶キレてるということを。
「ん?部隊長は俺だが、どうした小娘。」
部隊長は領主に仕え、様々な武勲を挙げた生ける伝説と言われる老齢の武人。今回も領主の信念に賛同し、国家に対しての粛清というオブラートに包んだ謀反にも参加する。
そんな誰からも尊敬される武人…
「部下の躾がなっていませんね。それにあなたはリストに載っているので…"遠斬り・微塵"」
の首から下が細切れになり、文字通り血肉へと変貌を遂げ首がコロコロと地面を転がった。
「さぁ、始めましょうか?ヒスイちゃん。」
「イ、イエス!マム!(コッワァァ…)」
そこから始まる蹂躙劇…なるべく末端の兵は殺さず、上級士官や領主のみを討伐対象とするとの厳命がジュウゲンからのオーダーだった。
「ば、化け物どもがぁぁぁぁ!!!」
「ま!失礼ねぇ…゛断頭斬り゛…さて、早く領主さんを探さなくちゃ!」
「マフユちゃん、見つかった?」
「あー、多分だけど、いまユミカねぇが首チョンパしたのが領主だと思うよ?」
「あら、そうだったの?じゃあこの首を持って帰れば任務完了ね?」
ビュラノス公爵家 粛正完了 所要時間1時間20分…
ロブロス侯爵領 領主邸宅
「あらあら、まぁまぁ。えらく警戒されてるわねぇヒスイちゃん。」
「そうだね、おばあ…キクカ。多分ヒスイ達がやりすぎて連絡が回っちゃったんじゃないかなぁ。」
「あらあら、まぁまぁ困ったわねぇ。」
マフユとキクカの眼前には領主邸宅に立てこもり、外壁は土魔法で補強した壁に木組みのバリケード、その前には重歩兵が大盾を構え隊列を組み、その後ろに魔法部隊が構えていた。
「んー、キクカ。このままだとどうなる?」
「そうねぇ…負けることはないけど、かなりの時間も掛かるし、私達も無傷とはいかないわねぇ。」
負けはしないが時間が掛かる。まぁ確かにと、ヒスイも考えた。重武装し籠城した領主を叩くのは確かに骨が折れる。ヒスイのような大規模魔法で吹き飛ばせば一発だが、領主邸宅にはまだメイドや給仕に携わる人間が残っているはずなのである。
極力関係のない人間は巻き込まないとジュウゲンから言われているので、吹き飛ばすのは却下。ならばここはヒスイの精密と演算による魔法で一気に制圧するか…と考えた。
「キクカ、向こうは後何分位で仕掛けてきそう?」
「……あと三分後、かしらねぇ。」
「…充分。」
【既存魔法『広域探知』を分解、定義に"生体電気"を追加。さらに゛憎悪感知゛を追加。以上の項目を脳内処理表示し善意・無関心を青マーカー、敵意・害意を赤マーカーで表示…赤マーカー表示者を空中の魔力にて多列接続、最終リンク先を私に設定。逆流弁を敵方向へ展開……魔法生成…『取捨選択式・領域探知ホーミング魔法』…完成】
「『取捨選択式・領域探知ホーミング魔法』展開……接続完了。『阿鼻叫喚』発動!!」
「「「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」」」」」」」
「あらあら、まぁまぁ、全部ヒスイちゃんが片づけてくれちゃったわねぇ。」
ロブロス侯爵家 粛正完了 所要時間20分
フォルト侯爵領 入り口付近
「貴様が我ら同志を次々に潰し回っているという賊か!なんだ、まだ餓鬼ではないか!?」
「ん?迎え打たれたか…歩いて行くんじゃなくて走った方がよかったか。」
ビュラノス公爵家とロブロス侯爵家壊滅から更に1時間経過し、漸くハヤテはフォルト領の入り口に到着した。それは単にフォルト領が一番遠いという理由があるのだが、どうやら情報がフォルト侯爵領主の耳に入り、対策を取られてしまったらしい。
ガチガチの軍隊が隊列を組み、その後ろに領主らしき人物が高みの見物を決めているが、遠すぎて豆粒のようにしか見えない為確証はない。
だが見渡す限り兵士しか見えず、一般市民や無関係の人間はいないとみたハヤテ。
「ふむ、一般人がいないとは有り難い…マフユから教わった魔法と言うのを使ってみるか『心身神速』!!」
『心身神速』…内外魔力によりただ単純に速く動けるという魔法。思考スピードの向上もその速さに比例しており、最高速度はマッハ5。
普通そんな速度で動けば空気摩擦で身体は燃え尽きるが、ハヤテは神からもらった天能『疲れない体』がある。
『疲れない体』とは厳密にいえば"健康な状態を形状記憶し回帰させる能力"である。つまりどんだけ身体が擦り切れようが燃え切れようが、瞬時に健康な状態へと補填される。
つまり…『疲れない体』+『心身神速』+軍用合気術とは……
フォルト侯爵家 粛正完了 所要時間…39秒…
王国と帝国の国境付近。
ジュウゲンとショウゲンは広大な荒野の奥に凄まじいスピードで進軍する影を見ながら茣蓙のような敷物の上でお茶を啜っていた。
「ふむ、ハヤテ達はそろそろ終わった頃かの?」
「そうですね、ジュウゲン。ならば私達もそろそろ片付けるとしましょうか…と言ってもやるのはジュウゲンですが。」
「……少しは手伝ってもいいんじゃぞ?婿殿?」
「いえいえ、活躍の場を横取りする真似なんて出来ませんよ、お義父さん?」
「…まったく。よっこいしょっと。ショウゲンワシの後ろにそれを並べておいてくれ。」
ジュウゲン言うそれ、とは竹かごに入れられた何十本、何百本にも及ぶ何の変哲もない矢…ではない。
マフユとヒスイがジュウゲンに頼まれて作った魔法を予め付与された特製の矢である。更にジュウゲンの後ろにその矢が入った20以上の竹かごが並べられる。
「じゃあ先ずは試射じゃな…ほっ!」
ジュウゲンはその矢を長弓で魔物に向け曲射で放った。曲線を描きながら落ちてゆく矢は魔物の一体の頭部に直撃し…
ドンッッッ!!と凄まじい音を立て地面を深く抉った。勿論魔物の頭は爆砕している。
矢に付与された魔法はヒスイとマフユの共同開発魔法で名を『重鉄』。名前の割にはかなり繊細な魔法で、ジュウゲンのオーダー通り"曲射の際に入射角が180°を割った場合、矢尻の自重が1トンになる"ようにした魔法である。
イメージしやすく簡単に説明するならば、頭上から1トンの槍が落ちてくるようなもの…だ。
「……今更ですが、よく曲射で相手の頭上をピンポイントで狙えますね。しかも『重鉄』による重さの変化で落下速度まで計算した上で。」
「かっかっか!!年季が違うんじゃよ、年季が!では一気に片を付けるかの…"懐刀流 曲射幻影千本桜"!」
天能『狩人』による総合ステータスの上昇により連射と曲射の精度が上がったジュウゲンが、手が消えたかと見間違うほどのスピードで矢を雨のように放ち撃つ。
「はっはっはっはっはっはっはぁぁ!!!!」
高笑いしながら魔物たちを見る見る屠る義父の後ろ姿を見ながら、ショウゲンはお茶を呑気に啜る。
「今日も平和ですねぇ…」
国境付近防衛 所要時間 10分
合計所要時間 1時間50分39秒也
タクミも自身で認めていましたが、タクミ(懐刀家の中で)一番弱いのです…




