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商人風の人だった



この世界に転生して早1ヶ月。


俺たちは主に狩りの獲物と山菜(似の何か)で自給自足の生活を行なっている。


真冬と翡翠はそろそろ我慢の限界が近づいていそうだが、大人たち(精神年齢)は悠々自適な生活を満喫している。


かく言う俺もその1人だ。


「社会の喧騒もない、面倒な人間関係もない、うるさい上司もいない…最高だな。」


「それは良いことなんだけどなぁ、そろそろ真冬と翡翠が痺れを切らすと思うぞ?」


そんな疾風おじさんの言葉に俺は苦笑いを浮かべるしかない。


真冬と翡翠は現役バリバリの現代っ子だ。前の世界、特に日本は娯楽に溢れかえっていた。

スマートフォン、テレビゲーム、漫画、美味しい食べ物、スイーツ…そんな所から一転、何もない辺境っぽい土地にいきなり放り出されたらどうなるか?

それは想像に難くないし、現に2人のイライラ度合いは日に日に増している。


最初こそは転生だ!物理無双だ!とか喜んでいたが、それも半月を過ぎる頃には収まり、逆に転生したことに対する愚痴を零す始末。

というかお前たちの能力じゃ確実に物理無双は無理だからな?


「つまんない…ドラゴンが襲ってくるわけでもなく、大勢の兵士が攻め込んでくるわけでもなく、平穏な日々が過ぎてくだけ…。」


「異世界転生なんて超常現象の塊だと思ってたのに…日本のど田舎と大して変わらない。」


…ドラゴンが襲ってきたら確実に俺たちじゃ対処しきれないし、超常現象ってつまり物理法則無視してるんだけど、物理オタク的にそれはどうなんだ?



「2人とも気晴らしにひいじいちゃんの狩りにでも付き合うか?結構面白いぞ?」


「えー?だって体毛が凶器の鶏とか兎でしょ?危ないじゃん。」


と真冬が駄々をこねるが、お前さっきドラゴン襲ってこないとか言ってなかったか?多分その何倍も安全だと思うぞ?それにそんなにお前らヤワじゃないだろ。


「翡翠はどうだ?」


「私も遠慮する。まだここで1次元調和振動子を紐解いてた方が有意義だし。」


…だからそれはどんなんだよ。

お前まだ高1だったよな?明らかに大学レベルのやつじゃないのか、それ。


少なくとも俺は知らん。


「まぁやる気のないのに連れて行って怪我をしたら元も子もないさ、今回は俺と匠、爺さんとで行こう。」


という疾風おじさんの顔にも苦笑いが見て取れた。

確かに真冬の【絶対記憶】、翡翠の【多列演算】は直接戦闘に向いていないし、本人たちも見た目通りの年齢だ。


無理に連れて行くこともないだろうと踵を返し、最近愛用している3本のナイフを腰に挿し疾風おじさんと共にひいじいちゃんの元に行く。


因みにこのナイフ、魔物の様な鶏、兎、狼の体毛と牙、毛皮を加工して作ったもので、牙を基に滑り止めとして柄の部分に巻いたもの、鋭利な体毛を基にしたもの、そして牙と体毛を巧みに合わせたもの、これらはひいじいちゃんが作ったものだ。


「そういえば匠、最近狩りが上手くなってきたが何か習ってたか?」


「え?いいや?」


自慢じゃないが、武術武道の類は中高の授業で習う剣道と柔道くらいしかない。それも齧った程度だ。後は疾風おじさん達と一緒・・だ。


「いやな?俺から見ても獲物に対しての近づき方、攻撃の仕方なんかが堂に入ってるし、例え不利な状況でも適切な対応を取れている。俺が知らないだけで何かうちの流派以外で習ってたのかなと思ったのさ。」


「ああ、そういう事。これはアレから貰った能力のお陰だよ。」


「能力…あー、【最接近】だったっけ?」


「いや…【最適解】だけど。」


なんだよ【最接近】て。近づくだけの能力とか何に使うの?というか頭の文字しか合ってないよ疾風おじさん。


疾風おじさんは本当に戦う事と武術に関する事以外は本当に興味がない人だ。

それでどうやって生計立ててるの?と昔は思ったが、どうやら海外の軍隊や傭兵に指導を行ったり、自衛隊の武術指導の特別顧問としてお金を得ていたらしい。


「簡単に言うとこの能力は、どう動けばいいのかという“行動の最適解”、どう考え答えればいいのかという“思考の最適解”を導き出す能力なんだよね。」


「へぇ便利なもんだな、それで的確な動きと考え方ができるのか。どうだ今度俺と…」


「やらないよ?」


「…なんだ、まだ何も言っていないぞ?」


言いたい事は分かっている。「俺とらないか?」だろうが、誰がやるものか。

昔の地獄の訓練を忘れた日はないし、例え【最適解】があったとしても勝てる気がしない。


後出しで技や軌道を変えることの出来る疾風おじさんは、スタート地点が1つの技でもゴールは多岐に渡る技を繰り出せるし、変更可能なのだ。

最適解を出されても、恐らく俺の思考と身体が付いてこれないだろう。


「おじさんの凄さは昔から嫌という程知ってるからね、俺は無謀な事はしない主義なの。」


自衛隊の訓練で1対200の乱取りをやったり、海外で拳銃持ったマフィア60人を倒したり、何処の世紀末だと言いたい。


そんなたわいも無い話をしていると遠目に何かが映った。


「ん?なんだろう、あれ。」


「んー、どうやら馬車と人?」


「どうしてあんな豆粒みたいなの見えるのさ。」


疾風おじさんの驚異的な視力は置いておいて、段々と近づいてきた影は確かに馬車とそれに随行する従者の様な人間が2名。


馬車で馬を操っているのは身なりのいい男性。随行しているのは皮鎧と剣で身を固めた護衛らしき男女だった。


「すみません、ここに住んでいる方々でしょうか?」


身なりのいい男性が馬車の上から声を掛けてきた。


「えぇ、そうですが…貴方は?」


疾風おじさんが何処か好戦的な雰囲気を漂わせて受け答えをする。


え?なんで?


だがよく見ればその雰囲気は後ろの護衛風の2人に向けいられていることがわかった。


あー、如何にも腕が立ちそうだもんなぁあの2人。それは俺でも分かる。その気当たりともとれる雰囲気を向けられたはなんか冷や汗らしきものを流しているが、ご愁傷様としか言えない。


「失礼致しました、私はある街で商会を構えておりますラムリスと申します。」


「私は疾風、こいつは匠です。して、なんの御用でしょうか?」


「ハヤテさんにタクミさんですね。実は街から街への移動中なのですが、この廃村に人がいるという事で商売がてら寄らせて頂きました。塩、小麦などお安くお譲りしますよ?」


「おぉ…」


それは嬉しい。最近は鶏(似のなにか)や兎(似のなにか)の肉の素焼きが殆どだったからな。

これで由美香さんのレパートリーが増えるだろう。


「大変ありがたいのですがこの村には貴方に払える対価が無いのですよ。狩った動物の皮や牙ならあるのですが。」


「あぁ成る程。それならばご心配なく、私の商会は物々交換も承っておりますので。」


「おぉ!それは有難い!代表者を呼んで参りますので少々お待ちいただけるか?」


「ええ、大丈夫ですよ?」


そういうと恐らく疾風おじさんはひいじいちゃんを呼びに行った。こういう交渉ごとは頼るに限る。


俺と疾風おじさんじゃ足元を見られるかもしれないからな。おっ、疾風おじさんとひいじいちゃんが戻ってきた。


「お待たせしました。」


「初めまして、私は重言じゅうげんと申す。なんでも物を売っていただけるとか?」


「…え、えぇ。塩や小麦があります。物々で構いませんので買われませんか?」


ひいじいちゃんを見たラムリスは一瞬驚いた様に押し黙ったが、直ぐに立ち直り交渉に移った。

代表者というから大人が出てくると思ったのだろう。まぁこれでもラムリスよりは倍ほど年上なのだが。


「ふむ、私たちは無知なので相場が分かりません。良ければ倉庫にあるものを見繕って頂けると有難いのですが…」


「分かりました、では案内をお願いしても?」


「おお!それは有難い、こちらです。」


ひいじいちゃんはラムリスさん一行を倉庫の用の建物に案内する。


ところでさっきから護衛の2人が疾風おじさんはさとひいじいちゃんを交互に見ながらビクビクしているのは何故だろうか?


見た目は子供だぞ?


「こちらですじゃ…ゴホンッ、こちらです。」


ひいじいちゃんが思わずポロッと老人口調を零したが、ラムリスはそんな事も気に留めず、目を見開いていた。


「こっ、これは!?」


倉庫にあるのは俺たちが狩った〜〜なになに似の動物たちの毛皮や体毛、牙といった戦利品。肉に関しては俺たちの食用なのでここには無い。


最初はあの動物たちを俺は魔物かと思ってたんだけど、最近はなんか少し凶暴なこの世界原産の動物だと思っている。


理由は様々あるんだが、1番の理由は俺が倒せるという事だ。疾風おじさんやひいじいちゃんは兎も角、俺がだぜ?


「…ブ…リダ…こんな…しかし…」


ラムリスさんが何かブツブツ言いながら牙や体毛を触りながら真剣な目で見ていた。


「どうですかね?交換してもらえるでしょうか?お恥ずかしながら私たちの村にはこれぐらいしか払えるものが無くてですね。」


「はっ!…え、えーと、これらはジュウゲンさんが?」


「まぁそうですね。私とそこに居るハヤテ、タクミが森で狩ってきたものです。」


「狩っ!?」


何か信じられないものでも聞いたかのように目を見開いて俺たちを凝視するラムリスさん。


ちょっと怖い。


と、そこに翡翠が倉庫に入ってくる。


「疾風おじちゃん、また鶏が柵超えて入ってきたんだけど。」


「またか?由美香はどうした?あいつなら1匹や2匹相手出来るだろ?」


「んー、やってはいるんだけど15匹くらい一気にきたから由美香おばちゃんも面倒くさいって言ってる。」


「また今回は多いな…まぁその分肉とラムリスさんに売れる体毛が手に入るんだからいいか。匠、由美香の手伝いに行ってくれないか?」


「分かった。」


俺は腰に差してあったナイフを1つ抜きながら倉庫の外へと向かう。

倉庫の外、正確には柵付近に結構な数の鶏が入り込んでいた。


由美香さんが鶏の攻撃を避けながらどうしたものかと困った顔をしていた。その近くではラムリスさんの護衛風の2人が決死の顔で鶏1匹と対峙している。


手伝ってくれてるのかな?有難い。


「あ、匠くんごめん、手伝って〜。」


「うん、俺もそう言われてきたからね。でも今日は数が多いなぁ。」


「そうなのよ、しかも今日はあの身体がピリピリする息を吐く鶏も混ざってて。」


ここの鶏は地球の鶏よりは身体が大きく、攻撃的だ。しかし基本的には嘴で突く、爪で引っ掻く、翼で打ち付けるという攻撃しかしてこないが、偶に変な息を吐く個体がいるのだ。

別にそれを喰らっても身体が少しピリピリするぐらいなのでいいのだが、得体の知らないものを浴びたくはない。

由美香さんもそれを嫌ってかそんな立ち回りになっている為、時間が掛かっているようだった。


護衛の2人を見ると何故か鶏1匹にかなり苦戦していた。目に見えるほどにボロボロで、小さくない裂傷も多数負っている。


かなり強そうに見えたんだけど。対人戦特化の人達なのかな?どうやら巨大動物との戦闘経験は少なそうだ。


手伝ってもらっている手前、死んでもらっては困るので助けに入る。


「手伝ってもらってすみません。後は俺がやっときますね?」


「は?」

「え?」


鶏と2人の間に入り込むと背中越しにそう言ってナイフを構える。


こいつの弱点は喉と翼の付け根、眉間、両足の付け根なんだよなぁ。そこを突いて倒せば後々の血抜きも楽になるし。


俺が鶏と対峙した瞬間、【最適解】が自動で発動した。


【敵行動予測、開始します】


【自身の行動最適化、開始します】


【2つの結果を統合…結果を基に最適化…抽出】


【短剣術“五連突煌フィフスブリクション”を発動】


脳に響いた声を基に、指示通りに身体を動かす。恐らく周りには見えていないだろうが、俺の目には動くべき導線が青線で、攻撃するべき場所が赤点で順番の数字が表示されている。


それに従って鶏に向かい突進、嘴や足で攻撃を仕掛けてくるが、青の導線に従っているので俺に当たる事なく悉く空を切る。【最適解】は予め相手の行動予測を行い、予知に近い精度で行なっているので導線に従う限り攻撃は当たらない。


「【五連突煌フィフスブリクション】」


ナイフが何故か濃い赤色に輝いているが、何かの色に光るのはいつもの事なので気にしない。


「はぁ!!」


最適化された連撃は、武術を嗜んでいない俺でも鋭利な攻撃を可能とした。


「グゲェェェェェ!?」


弱点を五箇所も攻撃された鶏が奇声を上げながら倒れこむ。

毎回思うんだけど、それ鶏の出す声じゃないよな?



ドシンッと重厚な音を出しながら倒れた鶏。

ふぅ、と一息してくるりと振り返ると護衛の2人は尻餅をついて口をパクパクさせていた。


ん?


「あのぉ〜、大丈夫ですか?」


「え!?あっ、はいいいえ!大丈夫です!」

「あ、あぁ!た、助かった!ありがとう!」


女の方…はいなのかいいえなのかどっちですか?


「なら良かったです。俺は残りを片付けて来るので先に戻っていてください。さっきの代表者にいえば手当の手配をしてくれると思います。」


「え、えぇ…」

「あ、あぁ…」


放心する2人を残し、俺は残りの鶏へと向かった。


あ、由美香さんの秘技“三枚おろし”だ。

でもあれって調理技法の筈なんだけどなぁ…などと思いながらも俺は加勢に向かったのだった。











「ジュウゲンさん、この度は大変お世話になりました。護衛のものまで治療していただき返す言葉もありません。」


「いえいえ、元はと言えばこちらの駆除の仕事を手伝ってもらった故の怪我、当然のことですよ。こちらこそこんなに沢山の塩や小麦。本当によろしいので?牙や体毛の量と釣り合っていませんが。」


ラムリスが持ってくのは動物たちの毛皮や体毛を総量20キロ程。

対して俺たちが貰ったのは塩300キロ、小麦250キロ、砂糖100キロ、ハーブ似の香草やその他調味料が各1キロずつ。荷台の荷物の殆どを置いてある。


明らかにこちらが儲けすぎてる。

毛皮や体毛なんて数日すればまた溜まるよ?俺たちはそれを武器や精々寝具の一部くらいにしか加工できないし、少量あれば後は無用の産物だ。


「いえいえ、これらはAラン…私どもにとっては大変貴重な物なので、塩や小麦も本来ならそれでも足りないのですよ。ジュウゲンさんに勉強して頂いて頭の下がる思いです。」


「此方としても助かりましたからお互い様ですよ。また・・お願いしますね?」


「え、えぇ…その時はよろしくお願いします…では。」


こうしてラムリスさん一行は来た道を帰って行くのだった。


あれ?街から街への移動じゃなかったっけ?そっちは逆走だと思うけど…ま、いっか。


後ろを振り返るとたくさんの物資が手に入りホクホク顔のひいじいちゃんと、今からどんな料理を作ろうかとはしゃいでいる由美香さんの姿があったのだった。






よろしくお願いします(^^)

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