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再編成必須だった


「タクミにぃばっかりずーるーいー!!私も帝都に行きたい!!」


「あのなぁマフユ、遊びじゃないんだからな?それにお前の苦手分野だろう?」


「それでもいーくーのー!!!!!」


「はぁ…」


久し振りに…とは言っても4日ぶりだが、自分の家のソファーで寛ごうとしたところ、扉を蹴破る勢いで入ってき、いきなり俺の目の前で幼児の様に駄々をこね続けるマフユ。

事の発端は、俺がヨハイムとアリサを連れて村へと戻ってきた事で、マフユが何故俺ばかり面白そうな事をしているのかと騒ぎ出した。


怪我人を2人も運んでいるのに鬱陶しく絡んでくるマフユを退け、ヨハイムとアリサの2人を治療院に預けた帰り、またこうしてマフユに絡まれたのだ。


「別に遊びに行ってたわけじゃないし、これはマルクさんがジュウゲンに持ってきた話だ。そこに俺の意思は介在してない。」


マルクさんは依頼ではなく相談、もっと言うならば助言として今回の件をジュウゲンに話したらしい。


「最近隣国の方できな臭い事が起こっているらしいです。この村は国境に近い為十分にお気をつけください。」


と。しかしその事に対してジュウゲンが。


「ふむ。ならば芽は早々に摘むに限るのぉ。タクミあたりに調べさせるとしますわい…所でマルクさんや。どうやら麻雀に興味がある様子、一局囲みませんかな?」


と言った事により、俺は遠路遥々アレクシアまで行く羽目になったのだ。

ジュウゲンは前世でもそうだったが、自分が出張る必要がない事案は基本的に丸投げのスタイルを取っている。今回も俺1人で問題ないと踏んだ為、マフユ達には声をかけなかったのだ。


「でも今回その中佐とかいう人には正体がバレて動きづらくなったんでしょ?タクミにぃにしては珍しいドジだけど、それなら別働隊が必要じゃないの?」


…痛い所を突いてきやがる。

確かに今回の件については完全に俺のドジだ。特に外壁から侵入しようとして見つかった件がすべての始まりだった。


「なら私も必要だよね?ね?」


キラキラした眼差しで見つめてくるマフユ。

…顔に観光に行きたいと欲望も隠さずありありと現れているが、別働隊が必要なのは事実だ。


指名手配が掛けられた俺やヨハイム達が動き回るにはかなりマズイ状況だからだ。俺も件の事案に対して有力な情報を得たとは口が裂けても言えない。


『人造魔獣兵計画』…これがまずマルクさんからもたらされた1つ目の情報。そして2つ目に帝国が近年、食糧の備蓄や鉄などの鉱石類の輸入が増えている…つまり戦争の準備をしているのではないか?という情報。


この2つを俺は帝国で調べる予定だったのだが、まさか侵入2日目にトンボ帰りとなるとは正直俺自身びっくりしている。


「でもさぁタクミにぃ。その人造…なんとか計画?って結局具体的にはなんなの?」


「『人造魔獣兵計画』な。いや、俺もそれを調べに行ってたんだよ。名前から察するに碌でもない事は確かだけど。」


意味はまぁ、読んで字のごとくだろうけどさ。


「兎に角私も帝都に行きたい!!」


「だから…はぁ…。」


「タクミ、マフユも連れて行くがよい。」


俺がどうしたものか…とため息を吐いていると、丁度そこにショウゲンが現れた。

ジュウゲンは基本的に楽観主義なのに対して、ショウゲンは堅実な考え方を好む。

しかし唯一にして最大の欠点は孫を溺愛しすぎているという事。特にマフユとヒスイに馬鹿甘い。


「じいちゃん…勘弁してくれよ。遊びじゃないのはわかってるだろ?」


「それは無論じゃ。しかし、タクミの顔が割れしかも指名手配されたとあっては、幾ら他国とは言え不味いのは確か…それこそタクミは分かっておろう?」


「むぅ…」


確かに不味いのは確かだ。元はといえばマルクさんからの助言が事の発端はとはいえ、行動を起こしたのは俺自身。

オマケに指名手配犯となったのでは幾らザックス殿下との契約があるとはいえ庇うのは難しいだろう。

まぁ元から庇ってもらうつもりはない。言い方はあれだが身から出た錆、自分の尻は自分で拭わなければならない。


「ならばここから更に時間をかけるべきではない。火急速やかに事態を収束させる必要があるのじゃよ。ならばここは数で当たるしかないのぉ…」


と理論然と述べてはいるが、詰まる所マフユを擁護しているだけだ。


「…分かったよ。ついでと言ってはなんだけどマフユを連れて行くなら、ヒスイとハヤテ…それとコウイチを連れて行っていいかな?」


「やったー!!!!帝都だ、帝都♪」


「ふむ、ジュウゲンに聞いてみないと分からんが。まぁ問題ないじゃろ…しかしその人員で察するに、二面展開か?」


「まぁね。あっちには“中佐”っていう化け物がいる。正直俺でも闘うのは御免被りたいくらいだね。それに相手取るのはそいつだけじゃない。帝国情報部っていう…まぁ公安みたいな組織も同時に相手にしないといけないから。短期決戦なら同時に戦闘面でも備えとかないと。」


「成る程な。タクミ、お前にそうまで言わしめるほどの猛者なのか?」


はっきり言って正面切って確実に勝てる…とは言えない。


ポカをやったとは言え、少ない情報で俺を怪しいと断定した洞察力。

魔法を織り込んだ戦闘能力と判断力、そして情報組織全体を指揮できる立場の人間というのがこれまた厄介だ。総合力で見れば明らかに格上の相手と言える。


「単純な殺し合い・・・・なら負けないよ、だけど搦め手を含んだ闘いならショウゲンと張るんじゃないかな?…ジュウゲンには俺から話をするよ。マフユ、ヒスイ達に話しておいてくれるか?」


「了解♪ 任せといて!」


「ふむ、タクミ…二面展開というならば内側・・にも気をつけねばならぬかもしれぬぞ?」


そう言って部屋を出て行くとき、ショウゲンからある事を耳打ちされ、その口元は僅かに笑っていたのを見逃さない。


うわぁ…ショウゲンの情報収集能力の前にはどんな勢力も形無しだな。




「…と言うわけでジュウゲン。そのメンバーを帝都に連れて行きたいんだけど。」


「分かった、タクミの思う通りにしてみるといい。」


話はアッサリと通った。

まぁショウゲンが問題ないと判断した時点で承認は下りると分かってたんだけどね。


「…それにしてもタクミ、お主は前から言っておったが情報戦にとことん弱いのぉ。」


「いや…まぁうん。情報操作や情報収集に関してはヒスイやコウイチに敵わないのは分かってるけどさ。」


薄々気づいてるかもしれないが、ここで懐刀家の成り立ちや在り方を説明すると…懐刀家は江戸初期から続く、隠密…忍者の家系だ。


忍者ではあるが伊賀や甲賀といったメジャーなルーツの出ではなく、懐刀家の出身の者で元武士や元商人らが暗殺家業として始め、それが後々に時代を経て忍者として昇華した稀有なタイプ。


なので当初は忍者というより、分かりやすい例で言うなら必殺仕事人に近い状態だったらしい。それ故に本職の忍者からはかなり疎まれていた。


そして特殊なルーツの懐刀家はその起源理由から暗殺者ながら直接戦闘能力や一般職業の能力もかなり高かった。初期メンバーの武士達から受け継いだ様々な剣術の流派、元商人の商談術や算術、元芸者の舞踊や話術…複合的な技術が懐刀家にはある。


故に現代の懐刀家は7歳までにあらゆる英才教育スパルタを受け終わり、その後3系統の分野に特化した教育を受け、15歳になると『太刀』『脇差』『腰刀』という長さの刀に、自身の名前の銘が刻まれた刀を賜る。

普段からそんな刀を持ち歩いていたら銃刀法違反でしょっ引かれるので、各々部屋に飾られているが。


『太刀』…戦闘特化のタイプ。ハヤテやショウゲン、意外にもマフユがこれに当たる。戦闘に関する事ならば様々な事に精通。所謂脳筋である。

ちなみにショウゲンが『太刀』?と思うかもしれないが、ある程度のレベルであれば隠密行動は誰にでもできる。その為ショウゲンが今回も含め、よく国王やマルクさんとのパイプ役になってるのは、ひとえに『隠密』の天能を持ったショウゲンが最適だからという理由だ。


『脇差』…知略策謀特化のタイプ。兎に角頭の回転数が異常、様々な学問に精通するがごく稀にヒスイの様に、ある一分野に飛び抜ける者もいる。カオリ、ユミカ、ヒスイ、コウイチ、キクカがこれに当たる。現代に適応した最も多いタイプだ。


『腰刀』…短刀とも言われる種類の刀。言ってしまえば現代の日本では一番必要としないタイプかもしれないが、懐刀家の業を一番色濃く受け継いだタイプ…暗殺及び戦闘両方特化タイプだ。俺とジュウゲンが最後のコレになる。


『腰刀』をもつ者は一応基礎としては情報収集なども行うのだが、『脇差』と比べるとどうしても練度が劣る。ショウゲンは年の功なのか満遍なくこなすことが出来るのだが、俺は経験不足が否めない。


その3系統の役割とは完全に別口で、懐刀たる特殊能力・・・・も存在するが、それはまた別の話だ。


しかし現代に日本に、そもそもそんな家は必要なのかと思うかもしれないが、実は意外と需要がある。


何故なら『懐刀家』は日本という国の中で扱われる情報の中で国家機密トップシークレット扱いされている。国家…その中でも歴代首相と各政界のトップのみが知る存在で、唯一その現役首相のみが依頼を出せるのだ。主に『太刀』や『脇差』に対する依頼が圧倒的に多いが、それでも数年に一度『腰刀』に対する依頼も舞い込んでくる。


どんな平和な国に見えても、闇というのは何処にでも存在する。故に『懐刀家』は今も存在し続ける。


「まぁ仕事をする機会は『太刀』や『脇差』を持つ者の方が圧倒的に多いからのぉ。昔ほど『腰刀』が活躍する機会は減った、しかしそれはいい事じゃ。しかし…この世界はどちらかと言えば『腰刀』の需要が高そうだがの…タクミや、ワシはこの国の王と『主従の儀』をいずれ結ぼうと考えておる。」


「!?…それは…」


懐刀家は滅亡を恐れる。


懐刀家は存在意義の消滅を恐れる。


懐刀家は仕える拠り所を無くすことを何よりも恐れる。


俺たちは心の拠り所…仕える主に依存するように遺伝子レベルで刷り込まれてるんだ。

江戸時代ならばその藩の殿様、現代ならば総理大臣、そして死してなおその刷り込みは薄れない。


「ワシらの代で終わらせよう…そう何度も思っては息子娘が生まれ、そして繰り返し。そして孫達が生まれ繰り返した…これはもはや呪いの様なもんじゃな。」


…俺は別にその在り方に不満はない。だがジュウゲン以下、先代達がどんな思いでそれを断ち切ろうとしていたのかは想像に難くない。

昔よりはそれ系・・・の仕事は激減したとはいえ、誰が好き好んで自分の子供たちに汚れ仕事をさせたいものか。


ジュウゲンは基本的に自分が必要ないと判断した仕事は子供たちに廻す。

そう、ジュウゲンが仕事をする時は決まってそれ系・・・の仕事の時だ。

ジュウゲンは『太刀』だが、長年積み重ねた経験によりオールマイティに昇華された腕ならば、『腰刀』の仕事でも充分に遂行できた。


「…当主が決めたんだ、俺はそれに従うよ…ひいじいちゃん。」


「…そうか。さて、タクミや。それはそうと帝都へ連れて行くメンバーはさっき言った者たちだけで良いのか?」


重い話は終わりだとばかりに、ジュウゲンが話の舵を元に戻した。


「うん、ヒスイとコウイチに情報収集を。ハヤテとマフユには万が一の対応に、そして俺は本業・・をこなす事にする。従える為の手土産・・・は必要だろ?」


「…お前は聡明過ぎる。そういう時の察しの良さは本当にお前の両親に似ておるのぉ。頼めるかの?」


「ああ。」






時を同じくして、アルフェントスの王都にて、遠見魔法を有する偵察兵が王宮に齎した報告で緊張が高まることとなった。



「帝国と我が国の国境付近に異常な程統率の取れた魔獣の影あり。」



と。



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