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厳つい男と淑女だった(後)


中佐という男はただそこに立っているだけだ。それなのに押し寄せる気迫は、並みの人なら後ずさる…いや尻餅をつくな。


情報部というからにはデスクワーク…と考えるのは余りにも安易過ぎる。

現に目の前に元情報部ながら武闘派と呼ぶべき2人がいるのだから、その上司であった中佐が戦えないわけがない。


「そうか。一連の研究者の襲撃はお前達だったのか…まぁそうと分かれば納得がいくがな。」


中佐はコツリ、コツリと軍用靴の硬質な音を響かせながら一歩ずつ近づいてくる。


「…ヨハイム」

「…ああ。」


ヨハイムとアリサが僅かながらの言葉とアイコンタクトで意思を確認し、同時に左右から中佐へと肉薄し拳と手刀を繰り出した。


「フッ!!」

「ぬぅんっ!!」


左右同時に繰り出した2人の攻撃を左右別々の方法で捌ききる中佐。ヨハイムにはガラ空きの顔面に蹴りを、アリサにはガラ空きの胴に拳を捻りこみ吹き飛ばす。


中佐という男の技量は確実に高い、そして俺は中佐の目を…正確には瞳の動き・・・・を見て確信した。


瞳を左右別々に動かして視野を広く、空間認識能力を高めるやり方…ガンナーか。そしてそれぞれ得た情報を分割で思考している。



…【最適解せんせい】、魔法の発動兆候は?


【検知できません】


という事であればあれは素で行なっている…中佐本来の地力という事だ。


ヨハイムは立て掛けられていた木材に、アリサは近くにあったトタンで出来た小屋に突っ込んで行った。


「はぁ…だからお前らは弱いんだ。もっと情報を多角的に分析し、最善の一手を繰り出せと何度も言っていただろう。」


それは俺も同意する。今の2人の動きは直情的過ぎた。まあ、焦燥と緊張に駆られて…というのも理解出来ない訳ではないが。


「で?情報部のお偉い様が俺に何の用かな?」


「ふむ、小物のフリはもうやめたのかね?」


「…へぇ。」


この男は昨日の門での一悶着の事を言っているのだ。という事はあの時から目をつけられていた…という事になる。

何故、とは思わない。相対した今の状況から感じ取れる相手の技量を鑑みれば、それくらいは出来るだろう。


…いや、素直に認めよう。俺の腕が鈍っているんだと。


「ふぅ、どうやらあんたには最初から筒抜けだったみたいだな?で、これから俺をどうする?尋問か拷問にでも掛けて背後関係を明らかにするか?」


「ふん、白々しいな。お前がそんな程度で吐くとは思っておらん。だが、興味はある。」


「興味?」


…男としての興味だったら断固として願い下げだぞ。


「その年でそれ程の業…どうやって手に入れた?」


あ…そっちか。

うちの家系に生まれれば、否が応でも7歳までに基本は叩き込まれるけど?

それ以降は本人の適正によって何系・・になるかは分かれるけどな。


「人の技量を羨む性格でもないだろ、あんた。」


「無論だ。俺も俺自身の技量には自信を持っているからな。だが興味はある…味見してみるか。」


やめろ…後半のセリフだけ聞くならそれ系にしか聞こえないから。俺としてはそのジャンルは精神的傷跡トラウマだから!舌舐めずりしながら近づいてくるんじゃねぇよ!


「だがお前相手では手加減する余裕などなさそうだからな、本気でいかせてもらおう。」


中佐はジャケットの中に着用していたであろうショルダーホルスターから二丁の拳銃を抜き放つ。って待て待て、あの銃何口径あるんだ…


【魔法兆候を感知…『次元庫』(空間魔法)を感知…同時に疑問の回答を検索…現存知識を基に世界背景と今期世界情報を統合…ヒット…魔法充填式70口径6発装填型マグナム『ドミニクT-36』と判明…】


何だよ70口径て…あんなでかい銃身、ほぼスナイパーライフルと変わらないだろ!?


【魔法補助機構搭載の帝国産の特殊銃です…威力に関しては…近い知識で照合…対物ライフルの1.75倍と試算】


それはもう拳銃じゃない…断言できる、ライフルや。


「……。」ジャキッ…


「っち!」


戦いに開始の合図はない。


俺は拳銃の銃身が動き始めた瞬間に地面を蹴った。前世では銃身の発射口から弾道を予測して避けるという技術があったけど、はっきり言ってあの銃にそれは通用しない。一般的な拳銃態度の初速なら見切れるだろうが、あんな大口径の銃は流石に無理だ。


おそらく俺の動体視力と瞬発力をもってしても予測した上で撃ち抜かれる。経口と初速の差はそれほどまでに大きいんだ。


だから俺は距離を潰して自分の間合いで中佐を叩く。だが絶対に1発目の発射には間に合わない…それだけは自力で避けねばならないのだ。

ギリギリまで集中した精神の中で、時間が薄く長く伸ばされてゆき…



【告。魔法を使用すれば良いと思われます…何のための『天能』なのでしょうか?鶏なのでしょうか?】



【最適解】の声がそう割り込んできた…おい待て、今軽くdisったな?disったよな!?


【………。現状において最適な魔法を検索…該当なし…知識より高速構築…『魔力予測線』(探知魔法)を臨時構築…自動発動…弾道線を可視化に成功しました】


おい、口籠ったな?


…1秒にも満たない刹那の時間。引き伸ばされた時間の間で、最近何故か受け答えの方法が多彩になってきた【最適解せんせい】との漫才を終え、自動展開された魔法により弾丸の予測線が可視化された…


「っっ!?」


と同時に俺は思いっきり横っ飛びをして6本・・の弾道予測線の射線から外れた。


あの大型口径で早撃ちとか、化け物かあいつ!

音は1発分しか聞こえなかったのにどうなってるんだよ。


【魔法兆候を感知しました…解析…『消音空間』(知覚阻害魔法)と『局地転移』(空間魔法)を検出…恐らく次点の攻撃が繰り出されます】


「〜〜〜〜っ!?」


『魔力予測線』が示した弾道はざっと見ても50以上。

もはやライフルどころの話じゃない、対戦車ガトリング砲といっても過言じゃない。


「ははは!どうした、逃げてばかりじゃ先には進まんぞ!」


そう高笑いしながら拳銃?を撃ち続ける中佐。


…ちっ。戦闘狂バトルジャンキーの類だったか。でも確かに中佐の言う通り、今は『魔力予測線』と遮蔽物を利用して逃げ延びてはいるものの、このままでは明らかなジリ貧。


それは認めよう。


だが逃げる・・・という事と、避ける・・・いう事は別問題だという事を分かっていない。


魔法を使った戦闘に関しては中佐に軍配があがる。だが相手を確実に殺すということに関しては、俺に一日の長がある。


恐らく中佐は魔法兆候に関してもかなり敏感に反応するだろう。その中で悠長に魔法を構築していては蜂の巣だ。


なら俺は、いつも通り・・・・・やるだけだ。


懐刀流歩法『千鳥足』。

側から見ればただの酔っ払いの様に見えるだろうが、重心のずらし方、乗せ方、足の運び方を読ませずフラフラと近づいて行く。


「…む。」


目の前にいるのに当たらない。それはさぞかし奇妙な感覚だろう。中佐は僅かに眉を寄せると距離を取るためバックステップで後退する。


懐刀流歩法『縮地陽炎』。縮地法という歩法がある。距離を一気に潰して近づく為のものだが、この歩法はそこから瞬時に敵の視界から外れ、背後に回り込む。その際、熟練者は敵の目に残像を残す。


「…くっ。」


中佐は見事に残像に反応し銃口を向けたが、すぐ様俺が背後にいる事に気づき、無理矢理身体を制動し逆手のまま背面撃ちの体制に入った。


その反応速度には感服するが、少なからず驚いたという事は隙が出来たと同義だ。


懐刀流暗殺術『指刀・かんぬき』。人差し指に内気功、そして硬外功を練りこんでガラ空きの中佐の背中に叩き込む。狙うは人体の中で神経が集中する脊柱。


ズブッと鈍い音を立てながら俺の人差し指が中佐の背中にめり込んだ。


「…?」


だが感触がおかしい。骨を貫いた時特有の硬質感が指先から感じ取れなかった。


「残念だが、俺には無い・・のだよ。」


「ちっ!!」


中佐は刺さったままの人差し指など気にも留めず、明らかに肩の関節可動域を無視した角度から弾丸を至近距離で撃ち込もうとしていた。


流石にこんな至近距離であの怪物弾を喰らえば即死は免れない。指を引き抜くとそのまま勢いをつけてバク転でその射線から外れた。


「正直驚いたぞ。魔法を使った形跡がないところを見ると、それは純粋に鍛え上げられた技術か…ソレに魔法も加えれば更なる段階もあるのだろう?…人はそれを化け物と言うのだろうな。」


「…あんたに言われたくねぇよ中佐。どうなってやがる。脊柱がある場所にあるはずのものがない、関節は360度可動、あんたこそバケモンじゃねぇか。」


「フッ、化け物…確かに的を射ている。」


中佐はここで初めて、不敵な笑みではなく苦虫を潰した様な自虐的な笑みを浮かべていた。


どう言う事だ?人差し指に付いている血は本物だ。内部から感じた生物特有の脈動も人間のそれだった…だが脊柱が無かった。それは人間ならばまずありえない。


「…ふむ。託してみるのも、また一興か。名はなんと言う、諜報者。」


「…タクミだ。」


この時偽名を伝えることもできたのだ。しかし中佐のあの自虐的な笑みを見た後では、何故か偽名を名乗る気にはなれなかった。


「覚えておこう。今日はこれで失礼する…あぁ、出来れば私の元部下2人も引き取ってくれないか?この後情報部に帰ったら、お前たちの指名手配届けを出さねばならないのでな。」


「…いいのか?俺らをここで見逃して。」


中佐が俺たちを見逃すメリットはゼロだ。ここで殺すなり捕まえるなりした方が明らかに賢明だし、今後の脅威も減る。

俺としては有難いが、その目的が分からない以上気持ちが悪さが先に立つ。


「フッ、なに。単なる気紛れだよ…タクミならば未だしも、あの2人ならばいつでも殺れる。」


そういうと中佐はそれ以上の問答は不要とばかりに、コツッ、コツッと甲高い靴音を響かせながら俺の前から姿を消した。


「……っぷはぁっ!!」


俺は一気に緊張の糸が切れ、その場に座り込んだ。はっきり言ってあのプレッシャーはジュウゲンの扱き以来じゃなかろうか?


「中佐…ねぇ。なんだろうな、この胸騒ぎは。っと、早くあの2人の治療をしないとやばいな。」


2人の技量ならば致命傷は避けてるだろうが、それでも重傷は免れない攻撃を受けている。

取り敢えずは応急処置をして急いで帝都…帝国から離れる必要がある。


ヨハイムとアリサも取り敢えず村に連れて行くか…指名手配までされたら流石に自由には動けないからな。





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