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案の定だった

すみません、遅くなりました!




「と言うわけでタクミ。ちっとアレクシア帝国に飛んでくれるか?」


ニカッと年相応(表面上の話)の笑みでそんな事を言い出したジュウゲン。


「…why?」


おっと、あまりにも突然すぎて英語になっちまった。


「なんで?」


「いやのぉ、マルクさんからちときな臭い話を聞いての。探りを入れてきてくれんか?」


…予想通りというか、案の定だった。


「…その心は?」


「ここから動くの面倒臭い(テヘペロ☆)」


…………抑えろ!!抑えろ俺!!この今にも殴りかかりそうな右腕を理性で押さえつけるんだ!!


そうだ左腕!そのまま右腕を押さえ込め!


「それにワシ、今からマルクさんと卓を囲む約束しとるから。」


「いっぺん死んどけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


理性の呪縛から解き放たれた右腕が問答無用とばかりにジュウゲンの顔面を捉えた…いや。


「ふっ、ZA☆N☆ZO☆Uじゃ。」


「ちっ!」


捉えたと思ったジュウゲンの顔がまるで蜃気楼の様に歪み、掻き消えた。


漫画などでよく行われる定番のネタだが、ジュウゲンは素でそれをやってのける。

身体の相対位置を崩さず、真横に同じ姿勢で高速移動すると常人の目には処理が追いつかず、その姿が目に焼き付けられ残像が現れる。


しかしそれは常人の話であって、俺もその道・・・を歩んできた人間だ。

そう簡単に騙されるはず無いのだが、ジュウゲンとショウゲンの動きは俺でもなかなか追いきる事が難しい。


それ程に洗練された技術をネタに使うのがまたジュウゲンという人間だが……。


「はぁ…わかったわかった。行くのは良いけどさ、俺その、アレクシア帝国だっけ?その国どころかこの村以外の情報なんて持ってないんだけど?」


というか村から出た記憶が…あれ?そういえば無ぇわ。どんだけ遠出しても森の中が最長距離だし。


「何を言っとる。この村には帝国に関して最も適任な人材がおるじゃろうが。」


…ん?居たっけ?


「あのぉ…?」


突然俺とジュウゲンの後ろから声を掛けられた。


「ぬぉ!?」

「おわっつ!?」


だ、誰だ!?


「えっと…タクミさん、どうしたんですか?」


あ、エリシアだった…あ!!情報源、エリシアだった!!!!!


そういえばそもそも、エリシアの亡命の際の条件として“様々な情報の提供”があったのを忘れてた。

しかもロッソ帝国はエリシアの元母国だ、情報は豊富に持っているだろう。


「あの…私、なんで呼ばれたんでしょうか?」


どうやら呼ばれた理由までは聞いていないらしいエリシアは、不安そうに身を縮こまらせる。


「あー、悪いなエリシア。ちょっと聞きたいことがあってね。ロッソ帝国の事を少し教えて欲しいんだ。」


「帝国の、ですか?それは…別に構いませんが急にどうして?」


「ちょっと帝国に用事が出来てね。あっちの情報が全くわからないから教えてもらおうかと。」


急で済まないけど…って、ジュウゲンの所為でもあるけどな。


「あー、成る程ですね。そういう事ならば大丈夫ですよ。じゃあこんな格好じゃなんですから少し着替えてきますね…あ!あとユミルとロイも呼んできますね?軍部や金融なんかの専門性は私よりもありますから。」


エリシアは今泥だらけの作業着姿だ。確かに着替えた方がいいな……なんだろう、この違和感?


「お、おう…?わかった、じゃあ俺とジュウゲンはここで待ってるな。」


「分かりました!」


エリシアはパタパタと駆け足で小屋から出て行った。


ドシャャァァァ!!!!!


……待っている間にお茶でも飲もうかとエリシアから視線を逸らした瞬間、背後からかなり派手な音が聞こえた。


なんかこう…何かを引きずりながら出そうな音だ。


遠目には顔面から地面に突っ込んで豪快に倒れているエリシアの姿。


「…消毒液用意しとくか。」


駆け寄ろうとしたが、エリシアは直ぐに立ち上がり何事もなかったかのように再びパタパタと走って行った。


顔面は大丈夫なのだろうか?


「あ、タクミ。ワシは麦茶で頼む。」


…本当にこの爺さん(精神上の話)、どうにか土の下に帰らないだろうか?



「成る程、そういう理由で俺たちが呼ばれたのですね。確かに私たちが元々いた所は軍なので内情はある程度分かります。しかし軍を抜けて久しいので情報はある程度になりますが…」


「私も同じですかね…実家が金融関係だったので人より詳しい自信はありますが、少し情報が古いかもしれません。」


エリシアに呼ばれたロイとユミルはそう言いながら申し訳なさそうな顔をした。

まぁそれは仕方ないと思う。2人はエリシアについて来てそのまま軍を抜けた形だ。こんな辺境の村じゃ帝国の情報どころか王都の情報さえ断片的にしか入ってこないからな。



因みにエリシアはというとその後ろで氷嚢を額に当てている。どうやら先ほどかけた時に額を思いっきり打ち付けたそうだ。


「ええ、別に知る限りのことで構いません。最新の情報は現地調達しますから。」


「ではまず軍部に関する情報から…」


帝国は徴兵制度を採用しているということ。

軍部に籍を置いていた…例えばユミルやロイ達は職業軍人として扱われるが、基本的に騎馬兵や魔法兵以外の一般兵は徴兵によって賄われるということ。

軍部には士官クラス以上しか居らず、ユミルは元魔法兵として大尉、ロイは元騎馬兵として中佐の地位に就いていた。

戦争などの有事の際は徴兵制度で集め、構築した部隊に10名程度の士官と2人以上の佐官が付いて部隊運用を行うという。


「…それ、軍として運用出来るのか?」


最低12名の指揮官以外は徴兵された農民や商人ということだが、それでは指揮系統よくても部隊運用がままならない筈だ。


「それならば問題ありません。我ら生粋の職業軍人ほどではありませんが、彼らの2人に1人は“特務尉官”という地位に交代で就いてます。」


特務尉官とは言うがその内容は定期的な訓練への定期参加が義務付けられていると言うだけ。

それだけならば不満も出るだろうが、そこは特別報奨金と言う名の一時金が支払われているらしい。


成る程、それならばある程度の練度は保てるかと納得。


「それと万が一、帝都で軍部に関して探りを入れるのでしたら“中佐”にお気をつけください。」


「“中佐”?えっと、何中佐?」


「…いえ、“中佐”がすべての名前です。」


それは名前じゃなくて階級名だろう。


俺の困惑した顔を見てロイさんも困った表情で返してきた。


「私どももあまり関わることは無いんですが、帝国情報部第四課…その長の名が“中佐”なのです。部隊名から分かる通りそこに属する人間の情報は秘匿されています。」


日本や米国で言う公安やCIAみたいなものか…やはり特務機関というのはどこの国、世界にもあるもんか。


「それに付随して私からも。帝国の金融関係を牛耳っているのはゴールド商会というのですが、その副会頭であるシャガル・ゴールドには関わらない方が良いです。邂逅する機会はないと思いますが一応。」


ユミルさん曰く、ゴールド商会の事業内容は奴隷商。帝国はこの世界で結ばれている“世界奴隷禁止条約“に唯一の非加盟国で、近隣国からもかなり疎まれているらしい。


「こう言ってはなんですがタクミさん達の黒髪黒目という風貌はこの世界ではかなり稀な容姿で、皆さん美男美女ですから。」


成る程、商品としての利用価値はかなり高いと。

…しかも要らない情報だが、どうやらそのシャガル・ゴールドという男、男色家らしい。


「そ、その商会には近づかないでおくよ…。」


例えその商会の雇われた傭兵や武装兵に100名単位で囲まれたとしても問題ないが、自分の貞操をわざわざ危険に晒す真似はしたくない。



その後も細かい情報をユミルさんとロイさんに聞くと、俺は早速荷物(森で狩った獣の皮で作ったポシェット)を背負うと準備完了とばかりに家を出ようとした。


「え!タクミさん、まさか今から出発するんですか!?」


エリシアが驚いたように声を上げた。今からと言ってもまだ昼頃を少し過ぎたぐらいだ。遅い時間というわけでもない。


「え、まだ昼過ぎだぞ?」


「帝国までは全力の馬車で1日掛かるんですよ?今から行ったら森を抜ける前に夜になっちゃいますって!」


「カッカッカ!エリシア、問題なかろう。タクミなら夜が明ける位には着くじゃろ。」

「は?舐めんなよジュウゲン、日が昇る前には着いてやんよ。」

「阿呆、夕方には着いてやろうという気概はないのか。」


いや、流石にそれは無理だろ。


「…いや、あの、タクミ殿。東西南北の門が開くのは日が完全に登ったからなのですが。」


ユミルさんが顔を引きつらせながらそう言うが、そもそも今回の帝国行きで正攻法に頼るつもりは毛頭ない。

アレクシア帝国に入る際は必ず身分証の提示と入国税と出国税を納めなければいけないらしい。

だが、今回の帝国の目的は調査だ。馬鹿正直に足跡を残す行為は避けなければならない。


ならばどうするか?答えは1つ。


「痕跡を残さないように入国するからそこら辺は問題なし。じゃ!ちょっとアレクシア帝国まで行ってきます!」


なんだかんだ言ってもこの世界に来てから初めての村以外での活動。ジュウゲンから聞いた話では確かにきな臭い事情があるが、それはそれこれはこれで楽しませてもらう。


いざ、アレクシア帝国へ!












「…どうしてこうなった。」


外壁の中腹に身体を貼り付け、どうかようかと考える。下を見ればぞろぞろと集まってくる見張り番達。


はぁ…。


順に追って説明しよう。俺はまず宣言通り屋が明ける前に帝国に入り、帝都の街門へと到着した。

しかしユミルさんの言った通り門は閉ざされており入ることは出来ない。


まぁ元から門から入る予定はなかったので、俺は地面の砂を手にまぶし、外壁を登り始めた。そう、典型的な外壁からの侵入である。

当然門番や見張りはいる為、常に死角をついて慎重に登っていたのだが、頂上まであと少し…残り3分の1といったところでアクシデントが起きた。


ガラッ…


いきなり目の前の外壁の一部が30×30センチ程横にスライドしたのだ。

どうやらこの外壁、内部が空洞になっており見張り小屋としての役割を持っていたようだ。


またそのスライド式の小窓も、上手く他の壁と似せてカモフラージュされており気づくのが遅れた。


そしてその小窓には唖然とした表情でこちらを見る兵士が1人。


つまり…


「う、うわぁぁぁぁぁ!?て、敵襲?…いや、侵入者だぁぁ!!!!!」


「…やっべ。」


どうする?逃げる…は顔を見られたから得策じゃない。このまま侵入して隠れることは出来るけど、今後の行動に支障が出る。


「はぁ…ここは大人しく捕まるか。」


下を見ると見る見るうちに見張りが集まってきていた。

タクミは外壁の窪みから手を離すと急降下。スタッと身軽に着地した。


「帝都に侵入しようとするとは不届き者め!なんの目的でここに来た!」


集まった者達の中から、一際いかつい体格の男がタクミに槍を向けながら言い放つ。


「は、はい!!す、すみません!!!!!じ、実は村を出るのが遅くて、さっき到着したんですが…どの門も閉まってて…この辺りは魔物はいないけど、狼とかいるじゃないですか…だから、一刻も中に入りたくて…それで…」


これぞ俺のの擬態術…「小物な村人」だ!!


「ちっ…田舎者が。この門は防犯上日が昇ってからしか開かんのだ!普通は出発と到着の時間を合わせるのが常識なのに何を考えてる!」


「は、はいぃぃ…おっしゃる通りで…」


「しかも無断で外壁から中に入ろうとした事は帝国法で言うなら重罪だ!この帝都にはアレクシア陛下が住まわれてるからな。取り敢えず詰所まで来てもらうぞ!!」


…面倒になったな。このまま詰所で勾留されればあとあと面倒だ、仕方ない。


「…あ、あの。」


「なんだ。」


俺は先ほどの体格の厳つい男にそっと近づき、その手の中に金貨を5枚握らせた。

事前に聞いた話だと、見張り番は職業軍人ではなく例の特務尉官らしい。

特務尉官の報奨金は年金貨1枚。その5倍に当たるお金を握らせた。


「…何のつもりだ。」


「は、はい…ぼ、僕はこの帝都で出稼ぎをする為に来たんです。な、なのに詰所に連れて行かれれば何かを・・・した者として少なくない噂が広まってしまいます。それに皆さんの手を煩わせるわけにも行かないので、その…通行料・・・として…元々は当面の生活費と準備金だったんですが、背に腹は代えれませんので…」


「…成る程。門の開閉時間は知らないのに、そこら辺の常識・・は弁えてるのだな。ふんっ、いいだろう。こうして通行料まで払われたら何も言えん、特別に通用門から中に入れてやる。」


もちろん帝都に入る為に通行料などは必要ない。この国には入国税と出国税があるが、それは国境付近にある関所で徴収される。本来ならばそれ以降は国内であればフリーパスだからな。


ではそのお金は何か?


「…今度から気をつけろよ。」


「は、はい。」


通用門を潜る時にチラリと見た男の顔はかなり緩んでいた。よく見れば周りの兵士も同様だ。

この後、酒場で一杯とは言わず酒を浴びるように飲むのだろう…もしかしたら娼館かも知れないが。




ん?結局あの金なんなのかって?


そりゃあ、処世術の初歩…袖の下ワイロに決まってるじゃん。


いやぁ、王金貨を予め崩しておいたのが役に立ったわ。


さっさと用事を済ませて、帝都観光にでも洒落込みますかねぇ。



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