些細な事だった
「タクミ殿、こちらが彼らの取纏役兼衛星村の村長をしていただくゾクザムさんです。」
ビシッと並ぶ人達で呆気にとられていた俺にラムリスさんが1人の男性を連れてきた。
年は…30前後だろうか。
刈り上げた短髪に適度に鍛え上げられた体躯。そしてその瞳には深い知性と…畏怖?が灯っていた。
…なんで畏怖?
「ゾクザムと申します。この度は私どもにこの様な天地を与えてくださった事、一同を代表しまして喜びの念をお伝えいたします。」
えらく堅苦しかった。
「えっと?こちらからお願いしたのでどうかそう硬くならずに…ラムリスさん、何したんですか?すんごい怯えの雰囲気がありますが。」
「いえ、すこし心構え…というものをみっちり2ヶ月かけて叩き込んだだけですよ。それはそう…後遺症の様なものですな。」
怖ぇよ!!何だよ後遺症って!
もはや何かが起こったあとじゃん!
「そ、そうですか(…もう深く考えない様にしておこう)。ところで、あの人達はこの村と…あー、何でしたっけ…衛星村?への移住者と考えていいんですか?」
「えぇ彼らは元スラムの人間ですが、教養や知識、良識や作法などは既に習得済み。それに加えて各分野においては高い専門性も有しています。タクミ殿達の村とそれに連なる村に住むのに最低限の水準は満たしているかと。」
いや、そんな高水準じゃなくても良かったんだけど。
一度に見たわけじゃないけど、幼子から老人までなんかかなり気品に溢れてたよ?
あれで元スラム育ち…この2ヶ月で何をしたのかが怖くて聞けないレベル…
「それから彼らの纏め役はそちらのゾクザムが全て行います。タクミ殿達のお手間は取らせませんのでご安心を…彼、ゾクザムが取るのは“責任”のみ。指揮系統や“利益”はタクミ殿へ入りますので、合わせてご安心下さい。」
……全くご安心出来ない。
何そのジャイアニズムみたいなの。
俺の世界だったらブラック企業の上を行く漆黒企業レベルじゃん…。
「このゾクザム、命にかけてタクミ様に忠誠を…」
ねぇ、ラムリスさん…本当に何したの?
◆
翌日。
「かっかっかっ!!タクミ、えらく賑やかになったの!」
「あー、ジュウゲンか。といっても今ここにいるのは俺たちと衛星村の住人だけだからね。これから冒険者達が来る様になって、かつ、お金が回り始めてやっとスタートラインだよ。」
「くくっ、それでもワシらだけだった頃とは大違いの賑わい方じゃろう?」
確かに、村の…いやもう規模的には町か。
町の活気は俺たちが来た頃とは違い雲泥の差だ。
冒険者ギルド支部も稼働し、各商店や宿も営業を開始している。
今はお客さんがある意味身内のみだが、これから街道の整備が進めば人もお金も流れるだろう。
余談だが。商店や食事処の食材等の物流はラムリスさんの商会が一手に担っている。
何でも下手な商会に任せて無礼を働かれたら合わせる顔がないとの事。
そこまで偉ぶってるつもりはないんだけど…。
というかここの代表者ならジュウゲンだからそっちを敬ってくれないかな?
「ワシも堅苦しいのは好かんぞ。」
「でも年の功で敬われ慣れてるでしょ?」
「む?ん、むぅ。」
地球にいた時、年始になると警視総監や業界のドン達、果ては何故か各国の大統領や首相までもがあの家に手土産持って挨拶に来てたからな…
「まぁ兎に角じゃ、生活に困ることはなくなったとみて良い。これからはそこの商店などで買い物をすれば良いからの。」
ジュウゲンもそうだが、俺が単に金を消費するために考えたこの政策は身内には受けた様だ。
ヒスイやマフユなんかは娯楽が増えたことにより、かなり喜んでいた。
それにゾクザムさん率いる元スラム…と言うのは失礼だな。衛星村の人達は自分で考え自分で行動し、それをゾクザムさんが報告を受け、まとめ、必要なものだけを俺に届けてくれる。
…一応、俺をトップとした組織らしいけど。俺って別に要らないよね?
もうゾクザムさんがトップでいいと思う。
「いえ、私の様な残飯チリゴミ屑以下の存在には荷が重すぎます。」
…本当、どんな教育を施したらナチュラルに自分を蔑めるんだろうか?
「それはそうとタクミ様。少し気になる事が…」
ゾクザムさんはススス…と俺の耳元に顔を近づけた。
「どうしたんです?」
「実はこの村の周囲に散らばせた偵察部隊からの報告なのですが。村の周囲に3つほど鉱山があるのはご存知ですか?」
「いや、初耳だけど。」
へぇ、あったんだ鉱山…あとナチュラルに偵察部隊って言ってるけど、そんなのまであるの?
もうなんか何でもありだな衛星村の住人達って。しかし鉱山か…。
この世界の鉱物って地球と同じなのかな?いや、ファンタジーだしオリハルコンとかアダマンタイトとかありそうだな。
「…実はその鉱山にここ数日、この国の人間ではない者たちが出入りしているようでして。如何なさいますか?」
「この国以外の?」
でも近接している国って言ったら…
「おそらく我が国だと思います、タクミさん。」
「おわっ!?」
だ、誰だ!?
と後ろを見ると…あ、エリシアだった。
あれ、かなり久しぶりな気がする。
亡命が正式に受理されて、護衛の2人とともに正式に村の住人になったわけだけど、その姿はあまり見かけない。
…決して存在を忘れてたわけじゃないよ、うん。
「我が国は鉱山が乏しく、鉄や鉛などの物質が万年不足しているため、こうして密輸という形で隣国からくすねている…と前に兄から聞かされた事があります。」
「…ですがタクミ様。密輸とは申しますが、そうなると少しおかしな事に。」
「と言うと?」
「はい。そうなると数が少な過ぎるのです。報告によりば1つの鉱山あたりに約5人前後ほどしかいないと。」
5人?確かに少な過ぎる。密輸という性質上、そんな大手を振って事に当たらないのは当たり前だが、鉱物はとてつもなく重い。
流石にそれだと少な過ぎる気もするが…。
「でしたら、今回はその為の調査…準備の可能性がありますね。」
成る程、それなら人数の少なさにも納得がいく。
「んー、ゾクザムさん。今回は手出ししないで様子見を。ただし、何の鉱物を持って行こうとしていたかだけ調べておいてください。」
「いえ、それは既に調べがついております。持ち出している鉱石はシュビツライ鉱石。発掘されるのはこの国でもこことあと数カ所程度の珍しい鉱石ですが、その鉱石自体に工業的価値はほぼ無く、貴族の鑑賞用位にしか役には立たないようです。またその芸術的価値自体もルビーやサファイアなどにも劣るという…鍛冶師たちからはクズ石とも呼ばれるものですな。」
「そりゃまた酷評な鉱石もあったもんですね…しかし、そんなクズ石を何故帝国が?」
「恐らくは帝国では発掘されないために、あちらでの価値は相対的に高いのではないでしょうか?噂でゴールド商会というところでは高値で買い取ってくれると聞いたことがあるので、貧しい人たちの小遣い稼ぎ…という可能性もあるかも知れません。…本当に帝国の元王室の一員としては恥ずべき事ですが。」
そういいエリシアは方を落とす。まぁ既にうちの村…いや王国に帰化したんだから帝国の事で恥じる事はないと思うけど、そう簡単には無理か。
でもシュビツライ鉱石か…まぁ、小遣い稼ぎ程度の密輸ならうちに被害がでなければ大丈夫だろう。
「まぁ被害が深刻になりそうならまた報告してください。今後もシュビツライ鉱石だけの密輸ならそこまでは目くじらを立てることもないでしょう。」
ゾクザムさんたちも元スラム出身だし、生活苦の末…というのはわからんでもない。まぁ実害が今のところはないので放置だ。
「畏まりました。ではそのように…」
ゾクザムさんはそう言うと、ふっと喧騒の中へと消えていった。
そういえば…
「あ、エリシア。」
「はい?」
「あー、普段なにしてんの?」
本当に何してるんだろう?
俺、君の存在忘れるレベルで姿を見てなかったんだけど。
「村の裏手で畑を耕してますけど、どうしました?」
え?
王女が農作業?大丈夫?
「タクミ様たちが普段食べてるナスとか胡瓜とか結構みなさん美味しいと言ってくれるんですが。」
…あの水々しい野菜たちはエリシア様の作品ですか…大変美味しく頂いております。
そして忘れててすみませんでした!!!!!
…今度、作業を手伝いに行こう。
◆
うーん、町が賑やかになった事はいい事だ。
お金を有効に使えた事もいい事だ。
投資したお金は恐らく死ぬまでに100分の1も返ってこないだろうけど、別にそれはいい。
そしてサオリやヒスイ達女性陣が服や生理用品などの開発に精を出してる事も構わないし、コウイチやハヤテ達が娯楽製品や嗜好品(タバコや酒)の研究部門を立ち上げた事も別にいい。
そのおかげで更に町は発展して住みよくなるからね。
それはいいんだけど…
「何故こんなところにいるんですか?ザックス殿下。」
俺は複合施設の中にある『麻雀屋』という、まんまなネーミングの遊戯場でザックス殿下を見つけた。
最初は後ろ姿が見たことあるなぁ…程度だったが、近くに行くにつれ声や言動が間違いようのないようなものである事を確認。
ちらっと手牌を見ると大三元リーチ単騎待ち…何という手を…
じゃない!
「何でこんなところに貴方のような方がいるんですか!!」
護衛とかはどうした!
は!?
今、卓を囲んでる3人が護衛!?
何やっとるんかい!
「そうカッカするでないタクミ殿。私としても用事があってこの村に来たのだ、が。どう考えてもこんな面白そうな娯楽があるこの村が悪い!!」
悪いのはお前の頭だ!!!!!
…とは流石に言えない。
前回、一回目に村に来たときはかなり落ち着いた人物かと思ったんだけどな…ラムリスさんから馬車での顛末も後で聞いたし。だが今は…
「…それを抜きにしても殿下の様な方が民衆向けのこんなところにおられるというのも…」
「フッ…些事である。」
目眩がしてきた…と、ふと顔を上げると少し先にマルクさんの姿が見えた。
めっちゃ申し訳なさそうな顔をしてる。
(タクミボディランゲージ)あの・これ・大丈夫・何ですか・?
(マルクボディランゲージ)ええ・殿下・の・これは・いつもの事・です・から・お気に・なさらずに
…どうやらホントに些事だった。娯楽って人を駄目にするんだな。王子みたいな多忙極まりなく、息抜きが中々出来ないなら尚更。
…そもそもほんとうに何しにきたんだこの人達?
「はい、それなのですが…」
「おわっ!?」
ナチュラルに心の中の会話から話を続けないでもらえませんか?
「いえ…そんな感じの表情でしたので。それでですね、タクミ殿…ジュウゲン殿とショウゲン殿と御目通り叶えますでしょうか?」
そう言うマルクさんの顔色は複雑だった。
あれ、もしかして面倒事ですか?
あー、それを二人に相談しに行くと。なるほど。
…多分それ、最終的に俺に回ってくると思う。
あの二人基本的に自分で動きたがらないから。
あ、いえ大丈夫ですよ?連れて行きます。
「ところで殿下はこのままでいいんですか?」
「…まぁ、大丈夫でしょう。」
なんか諦めた顔してるけどほんとに大丈夫?
あ、殿下に振り込んだ馬鹿がいる。しかも殿下のいる卓台ってレートのクソ高い奴じゃん。
振り込んだ騎士さん「今月の給与が…」とか言って泣いてるけど…。
俺はそんな殿下達を放置して、マルクさんと共にジュウゲン達の元へと向かった。
…騎士さん、ドンマイ!




