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スラム街取纏役 ゾクザム


それは突然だった。


「おい。」


「はい、どうしました?ゾクザムさん。」


俺は近くにいた側近の1人を呼びつけた。といっても俺よりかなり年上なんだけどな…確か45とか言ってたっけ?


ん?俺?…まだ30だよ。


「役場の人間がまた交渉に来るといったのは今日の午後だよな?」


「えぇ、確かそんなこと言ってましたね。」


それを聴くと俺の気持ちは深く沈んでいくのが分かる。


役場の人間といっても別に高圧的な態度を取るわけでも見下した態度を取るわけではない。


ここガランの領主、オズフォード辺境伯はそう言う偏見や差別を嫌う。


その影響もあってか、他の街に比べればこの街の役場の人間はそんな態度をとる人はあまりいない。


あまり、であっていない訳ではないが多いよりマシである。


そんな傾向もあってかこのスラム街にはよく他の街から流れてくる人間が多い。その為ここは他の街の約3倍程のスラム街が出来上がっているのだ。


これには流石の領主も頭を抱えているらしい。


…それは申し訳ないと思うが、別に俺が誘致した訳ではないから気にしたら負けだ。


何だかんだ言いつつも俺らはこの街に住民税というものをきちんと払っている。


スラム街の住人ということで多少安くなってるが、それでも馬鹿にならない金額。


それにより暗黙の了解というやつだが、俺らがここに居を構えるのを領主や役場は黙認している感じだ。


しかしそれが半年前崩れた。


何でもこのスラム街の土地は元々広大な空き地だったのを、昔のスラムの人間が住み始め、今ではこんなにトタン屋根の小屋が乱立してるとの事。


しかし歴代領主の計らいでそれまで黙認、しかしここにきて開発地区事業が発足し指定された土地が俺たちの住むスラム街なのだ。


そして今からその役場の担当者との交渉…もとい話し合いの場が持たれることとなっている。


といっても話し合いはこれで3度目。前回、前々回は平行線のまま今に至っている。


「はぁ…前回も進展はなかったし。これならロム爺に頼んだ方が早くないか?」


「そうもいかんでしょう。ロムウェルトさんは貴方を指名したんですから。そしてそれに誰も反対しなかった…適任て事ですよ。」


そして初仕事がスラム街の命運を分ける話し合いって…


「そろそろ時間です、行きましょうゾクザムさん。」


ほんと、気が滅入る。



「お初にお目にかかります。私はラムリス・ホルハイムと申しまして、しがない商会を営んでいます。」


大物キタァァァァァァ!?


俺でも知ってる大物中の大物!


え?しがない?王家御用商人の地位にある商会がそれだったら後はゴミか何かですか?


というかなんでこんな大物が話し合いの場に?


「実は皆さんに1つ、提案がありまして。」


「提案、ですか?」


役場の人間が完全に一歩身を引いた状態で話を聞いている。


どうやらこの場の主役は目の前のホルハイムさんのようだ。


「皆さんある村に雇われてみませんか?」


「え?」


村に雇われる?清掃係とかそんな感じ?


「衣食住はこちらが保証しますし、賃金も最初の一年間は保証します。それからはあなた方の頑張り次第となりますが…勿論、業種によっては雇用と事業主に分かれますけどね。」


まて、待ってくれ。


話が全く見えない。


「あの全貌が全く分からないのですが…」


「おっと…私としたことが。そうですね…今このスラム街には何名ほど住んでおられますかな?」


何名…おそらく働ける人数を聞いているんだろう。若くて体力がある男女か…


「ああ、老若男女、赤子から老人まで含めた人数ですよ?」


え?赤子から老人まで、ですか?


働き手を探しているのでは?


まぁ嘘をついても仕方ないからな…んー、正確に把握している訳じゃないけど大体…


「1300に届かないくらいだったと思いますが…」


一体如何するつもり…はっ!!


まさか活きのいい若いやつは売り飛ばして、使い道のない赤子や中高年層の人間を村に格安で売り飛ばすつもりか!?


この国に奴隷制度はないが、隣国では普通に横行しているらしい。


スラム街の人間を処分するにはうってつけだろう…。


「……。」


仮にそうだとするならば何としても守らなければ!彼らはみんな家族だ。たとえこの場で俺の首が落ちようとも…


「あぁ。人身売買とか身売りの話ではないのでそう身構えなくても大丈夫ですよ?」


…心をナチュラルに読まれた。


「はは、思いっきり顔に出てましたからね。」


む、俺もまだまだということか。


「では、なにを?」


「そうですね…ソレを正確に言葉で表すのは難しいのですが。」


ホルハイムさんは如何説明したものかと難しい表情だ。


「…そこまで秘匿性が高いのですか?」


まさか国に黙ってやっていることではあるまい。こうして役場の人間が関わっているということはオズフォード辺境伯や王様も知っているということだ。


「秘匿性、ですか…確かに高いことは高いですが、どちらかというと内容の説明の仕方が難しい、と言ったところですね。」


「はぁ…」


如何も要領を得ない。


だがこのままゴネていても最終的にはここを立退くほかないのは明確。


最悪強制退去もあり得る、というか普通ならこんな譲歩などなく俺らみたいなスラムの人間なら強制退去だ。


ここらが潮時…か。


「…分かりました。そのお話、お受けします…いや、受けさせてください!!」


「ゾクザムさん!?いいんですか!?」


「どちらにせよ、この場所の立ち退きは決定事項だ。ならば少しでもみんなの環境を良くするのが俺の仕事だ。」


「賢明な判断だと思います。では、皆さん最低限の荷物だけを纏めてそこの広場まで集まってください。仮拠点まで馬車を用意してあります。」


え?仮拠点?


馬車?俺たち1300位いますけど?


あ、それくらいの量の馬車を用意していると…


仮拠点もそれくらい十分に賄える位用意してある?


…分かりました、ホルハイムさんを信じます。


「おい、みんなに通達を出せ。荷物は持てる範囲までだ。どうせ俺たちに家財道具の類はあってないようなもんだからな、すぐに用意させろ。」




…1時間後。


ホルハイムさんの言う通り、スラムの入り口にはよく言う乗合馬車らしきものが長蛇の列を作っていた。


見渡せど最後尾が見えない。1300人分の馬車だ、当たり前か。


そこからみんなを馬車に乗せ、ガランの門を潜り抜けた少し先に簡易ながらもしっかりした小屋がズラリと並んでいた。


周りには何もない。平原が広がっている。


…もしかして、騙されたか?


街の外には当然魔物が闊歩している。深淵の森から距離はあるが、それでも武器を持たない人間が暮らせる環境ではないことは確かだ。


馬車から降りたスラムのみんなも不安そうな雰囲気を隠せていなかった。


「あぁ、ゾクザムさん。皆さんに家族単位…独身者ならそれでも構いませんが、小屋を選ぶように通達してもらっていいですか?ここが今日から2ヶ月間過ごす場所になりますので。」


つまり2ヶ月を生き延びれた奴だけが新天地に迎えると?


俺は思わずホルハイムさんを睨む。


「ん…?あぁ、何か勘違いしているようですが“間引く”とかそういうことじゃありませんからね?2ヶ月間は交代でCランク以上の冒険者が20人単位で護衛に付きます。食料も毎日三食、私どもの商会から支給しますし、毎日の“習い事”にも馬車を回します。あと言い忘れておりましたが、この小屋群の中心部に聳え立つ大きな建物は分かりますか?」


え?違うの?


「…え?あぁ…あのでかい奴ですか?」


「あれは湯浴み場です。男女分かれていますから毎日必ず入ってください。…これは絶対です。」


凄い凄まれた…荒事が日常の俺が気圧される程には迫力があった。


「わ、分かりました。」


「ほかに質問はありますか?」


そう、それが唯一分からない部分。


仮とはいえ住む場所はあった、食事も心配ない、環境も最良とはいえないが整っている…では俺たちは後は何をすればいいのか?


「そうですね。皆さんには仕事をしてもらう準備を、この2ヶ月間でしてもらいます。」


…仕事の準備?





「君がゾクザムくんかな?領主のオズフォードだ、よろしく頼む。」


「え…あ、はっ、はい!」


「はっはっはっ!そう畏まらなくても構わないよ。」


いや無理だから!!


え!?なんで俺今、領主様の目の前にいるの!?


後ろではホルハイムさんがニコニコとこちらを見ていた。


「ゾクザムさん、ここで漸く詳細が話せますね。唐突ですがあなたには『衛星村』の管理を任せたいと思っています。」


「『衛星村』ですか?それはどんな?」



内容はこうだった。


スラム街にいた人間はこの2ヶ月間の間に様々なジャンルの仕事を学んでもらっている。


その勤め先はある村。そこで宿屋やギルド支部、食事処や仕立て屋などの多種多様な仕事をしてもらい、自ら生計を立てて生活してもらうという。


ただし、生活基盤が整うまでの最初の一年間は『最低賃金保証』があり、必ずある水準までの給与は保証される。


そして元スラムの人間が全員その村に住む訳にはいかない為、俺にはその村の近くに出来る『衛星村』の管理をしてもらいたいとの事。


そこから職場である村まで毎日通ってもらう、と。


所謂、村長か?


「…成る程、そういう事でしたか。でも村が既にあるという事は『村長』はいるのでは?その方に兼任してもらう事は…」


既にいるならその人に任せた方が確実だろう。


「…そうですね。ここからが最も重要な部分ですか…」


その村はこの国の領土内にはあるが、自治区として認められており、治外法権が適応される。


俺の最も重要な仕事は、“ダトウ家の10人に迷惑を絶対にかけない様に取り締まる事”だという。


「えっとそのダトウ家というのはどういう?」


地主か何かか?


するとホルハイムさんと領主様の顔から、ストンッと表情が抜け落ちた。


え?


「…これは比喩でもなく事実です…その方々の機嫌を損ねる様なことがあれば、この国は一夜にして地図から消え去る…そう考えてください。」


…冗談…には見えない。


え?本当の事?この前の魔物行進を魔法2発で片付けた人物が住まう村?


国王陛下が秘密裏に契約を結んでいる?


第2王子がその契約の盟主?


「そしてこの事は国家最重要機密に当たります。そこら辺の情報管理やある種のおさとしての心構え、運営方法をこちらにいるオズフォード辺境伯に教えてもらえる様に手配しました。頑張ってくださいね?ゾクザムさん。」


…か、帰ってもよろしいでしょうか?


あ、駄目と。


ですよね…。






ゾクザムは貧乏くじを引いた。

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