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ラムリスさんは凄腕だった(後)

すみません。事情により入院しておりまして更新が遅れてしまいました。


さて、ラムリスさんにお願いした日から3日が経った。


訂正しよう、3日しか経っていない。


にも関わらず、俺の目の前には巨大な平屋(一般住宅の20倍)、そして2階建て造りの建物(一般住宅の2倍)、それよりも少し大きい三階建ての建物(一般住宅の4倍)が建っている。


その上で上下水道と噴水まで着手しているという。


これいかに。


「…あのラムリスさん。」


「はい…まさかどこかに欠陥が!?」


「いえ、そうではなくてですね…」


いくらなんでも早すぎない?


早くできるに越したことはないんだけど、これは流石に早すぎる。


ラムリスさんの事だから手抜きという事はないんだろうけど、これにはびっくりした。


近くで休んでいる大工さん達の顔が死んでるけど大丈夫なの?


あ、大丈夫。


別に突貫工事で疲れているわけではない?


普通の大工の人数の10倍を投入したからこのくらいでできると…。


疲れているのは別の要因?


そうですか。


しかし困ったな…まさか報酬としてもらったお金が大金貨の上をいく王金貨だったなんて。


お陰で2枚しか消費できてない。


これは死蔵行きかな…。


いっそのことラムリスさんに投資金として預けるか?


「タクミ殿。王金貨7万枚がこの国の国家予算です。」


なんですか藪から棒に…ん?7万枚が国家予算?


さっき返してもらった麻袋に目をやる。


…え、て事は国家予算の10分の1!?


多過ぎだろ!


「タクミ殿。今回の魔物進行は国家を揺るがす大事件です。仮にあの大軍がガランを抜け、更には各都市を抜け王都へと到達した暁には甚大な被害を受けたでしょう。人、物問わず壊滅的な被害を…ワグナー様がその被害額を算出したところ王金貨5万枚との事でした。それを考えるならばそのお金は妥当…むしろ少ないくらいでワグナー様も陛下も申し訳ないと言っておりましたよ?」


いやいや!俺の魔法とヒスイの魔法の2発でほぼ壊滅しちゃったからね?


労力的にはほぼゼロに等しいから!


…あー、だから報酬をもらう時、普通はギルドの受付でもらうのに王都の銀行みたいな建物で受け渡しがあったのか。


受け渡しのお姉さんの顔がこれでもかと引きつっていたのは多分それが原因だろう。


「それに私どもの商会の年商は王金貨3枚ほど。投資金として委託していただける信頼は有り難いのですが、投資委託金としてかなり過分過ぎます。年商1000年分以上の金貨など利回り分だけで私どもは大赤字でして…」


そりゃそうか…確かにそれをやってしまったらもはや嫌がらせだろう。


ならどうするか。


「そういう事でしたらタクミ殿。我が商会ではなく、ガランへの投資というのは如何でしょうか?」


「ガランに、ですか?」


「はい。ガランはこの国の国境と深淵の森からの魔物の侵入から守る、この国の重要都市。もちろんそのお金…防衛費も馬鹿にならない金額が動きます。更に最近は隣国が少々きな臭い事になっており、事更に今回の魔物進行です。実はあそこの領主とは知己でして、陛下へと防衛費増額の申請をしようかと悩んでおりました。」


成る程…確かにそれなら幾分か消費できそうだな。


でもこんな一介の村人からお金を借りるとか大丈夫なのかな?


その、貴族特有のプライド的に…


「あぁ、それならば問題ありません。奴はよくある貴族の傲慢さは皆無でして、だからこうして私との交流もあります。確かに殆どの貴族はそんなプライドがありますがね。それに国への申請はある意味厄介でして…」


え、もしかして渋られるとか?


「いえ、陛下は快く増額をしていただけると思います。そこら辺の審査は厳しいのですが、人格、実績ともに問題ない領主ですので。しかしそれをすると周りの貴族からやっかみや横槍を入れ易くなるんですよ。」


ん?どういう事だ?


「実はガランの領主、その先先代は平民からの…いわゆる叩き上げという奴でして、未だに周りの貴族から『平民上がりウィード』と蔑まれております。今の爵位は辺境伯なので直接言ってくる馬鹿は少ないですが、あの手この手で足を引っ張ろうとするのです。なので防衛費増額の申請をしようものならこれ幸いと色々な挨拶・・・・・をしてくるでしょうな。」


挨拶とラムリスさんはぼかしたが、言ってしまえば嫌がらせか。


不敬罪で斬り捨て御免が罷り通る貴族制度がある世界。


下手な事は言えないのだろう。


その顔にはありありと嫌悪感が滲み出ているが。


まぁ俺としては少しでも使い道があればそれに越した事はない。


俺としてはちゃっちゃと全額委託したかった。


手元にそんな金額があっても使い道ないし、何より俺はそんな大金持ったことがない。


お金はないはないで不安になる事はあるが、あり過ぎても不安になる事はある…ふっ、小心者と言えばいいさ。


「もしタクミ殿にその気があるのであれば私から話を通しておきますが、如何なさいますか?」


ラムリスさんの紹介ならば間違いはないだろうからな。


「じゃあお願いします。」


「畏まりました。」


そしてラムリスさんは王都への帰路へとついた。



「初めまして、タクミ殿。私はガランの領主をしています、フェミル・オズフォードです。この度はガランに対して投資していただけるようで、感謝の念に絶えません。」


ラムリスさんが村の一室にガランの領主を連れてきた。現在はテーブルを挟んで向かい合っている。


なんで?


普通こういうものって身分の低い方が赴くもんじゃない?


え?身分的にはそうだが、投資者…それもとてつもない金額を投資してくれる人に御足労を願うとかあり得ない?


でもあなた辺境伯ですよね?


あ、そこら辺は気にしないと、成る程。


「ではこれを。」


と、俺は開口一番そう言いながらオズフォード辺境伯の目の前に麻袋を置く。


「え…今、ここで…でしょうか?」


オズフォード辺境伯が表情を引攣らせながら麻袋を見ている。


その中身は勿論現ナマ一括、3497枚の王金貨だ。


日本円して…えーと、いくらだ?まぁ普通に・・・生きているなら合間見える事のない金額という事はわかる。


「…ラムリス。帰りの護衛の増員、頼めるか?」


「…それは勿論、まさかここでとは私も思いませんでしたから…すぐに使いを出します。」


麻袋をガン見しながら語る2人の姿は怖い。


もしかして盗難の心配かな?


「別に投資でなくても寄付でもいいんですが…」


それなら取られても心配ないしな。


所詮俺にとってはあぶく銭だし、最低限の生活水準の蓄えさえあればいい。


そのため1枚だけは手元に残してあるからね。


「いえ、これはお借りします。寄付ではタクミ殿に報いることが出来ませんから。」


報いる?


「ガランはタクミ殿とヒスイ殿に救われたのです。それを何の恩も返さずに更に施しを受けたとあっては当家の名折れ。必ずや恩に報います。」


気にしなくていいんだけどな、割と本気で。


「そう言うことであれば。」


「そういうことであれば…フェミル、人を融通出来ないか?」


「ん、人?どうした急に。」


ラムリスさんが急に親しい口調でオズフォード辺境伯にそう問いかけた。


先程までは公式で、今からは非公式という事だろう。


「実はな…」


と、ラムリスさんが事のあらましを伝えた。


冒険者は流れ人なので仕方ないが、それはともかくとして冒険者ギルドに詰める人員、そして寄り合い施設…もとい複合施設に詰める店舗若しくは参入希望者、宿を経営してくれる人材を融通してくれというもの。


話を聞いていたオズフォード辺境伯は最初こそ訝しげな顔で聞いていたが、次第にその顔は興味のあるものと変わっていった。


「成る程…確かにここは深淵の森、好んで訪れようとするものは少ない。しかし裏を返せば拠点と安心して滞在できる環境さえ整えば宝の山、か。」


そうなのである。


この場所の最大の欠点は“環境”だ。


周りは高ランクの動物…いや、魔物か…がうろついており、冒険者でも上位のものしか太刀打ち出来ない。


更に戦いで片付いた場合、これまでならばガランまで戻らなくてはならず、下手をすればそれまでに死ぬ可能性がある。


ラムリスさんなどが気軽に来るから忘れていたが、ガランからこの村までの距離はそこそこあるのだ。


この前は危険を顧みず直線距離で移動したが、正規のルートで進めば2日はかかる。


その道中も周囲を警戒し、怪我人を連れ、長距離の移動…俺でも遠慮したいところだ。


しかし俺がやろうとしているのは簡単に言えば拠点の設置。


それまでの問題点はすぐさま解決するだろう。


ただ問題を挙げるとするならば…


「ふぅむ、建物や設備等は既に出来ているが…その為の人か。ラムリス、その難しさ…お前なら分かるだろう?タクミ殿へ報いる為とは言え、少々難しいな…。」


「……フェミル。あの開発地区の問題はどうなった?」


「なんだ藪から棒に…御察しの通りだ。」


オズフォード辺境伯が渋い顔をする。


開発地区…うーん、時代背景から考えるなら…スラム街ってところか?


「開発地区…スラム街ですか?」


「…お恥ずかしい話ですが、その通りです。我が街では大規模な商業開発事業を行おうとしているのですが、その為にはスラム街の立ち退きを進めなければなりません。しかし彼らもスラムとはいえ我が領民、立ち退かせて、はい終わり…とするわけにもいかず。」


何でも前々から計画はあったそうだが、立ち退き問題で難航しているみたい。


もともとスラムということで、働き口も少なく、稼ぎも雀の涙。それでもガランのスラム街の住人は比較的良識的なようで、住民税等はきちんと納めているそう。


しかしスラム街は住居許可の出ていない地区だからもともと住む事は出来ない。


事情を鑑みてそれまでは有耶無耶にしてきたが、流石に行政として乗り出している以上は立ち退きを進めなければならない。


「しかし追い出してしまったらそれこそ彼らは住む場所が無くなってしまうのです。それはあまりにも不憫極まりない…例えそれが住居許可を持たないスラムであってもです。」


オズフォード辺境伯はなかなかの善人だな。


為政者としては駄目だが人間としては出来ている。


「そこでだ。フェミル、そのスラム街の人間…私に丸ごと預けてみないか?」


「何?」


あ、なんか読めてきた。


というよりも俺もスラム街と聞いてそう思った。


「タクミ殿、2ヶ月間…私にお時間を頂きたい。それまでに人員を集めて見せましょう。」


「おい、ラムリス。まさかとは思うがスラム街の住人をここに誘致する気か?こう言ってはなんだが、彼らは読み書き計算どころか、一般常識も怪しいんだぞ?」


すみません、俺たちもこの世界の一般常識はわかりません。


むしろスラム街の人の方がわかってると思う。


「とても商売や接客が出来るとは思えん。仮に何かあったらタクミ殿達に迷惑をかける形に…」


「そこでです。フェミル、タクミ殿から投資された王金貨のうち30枚、私に贈与して頂けませんか?この2ヶ月で私が各分野の専門家の伝手を使い、完璧に仕上げて見せましょう。」


成る程。


オズフォード辺境伯からすればスラム街から合法的に退去させられる。


ラムリスさんからしたら俺の頼みを遂行できる。


王金貨30枚はオズフォード辺境伯からしたらある意味手切れ金のようなもの。


そしてラムリスさんからしたら彼らを育て上げる為の準備金というわけだ。


…ちゃっかり貸出ではなく贈与と言っているあたり、ラムリスはやはり商人なのだと苦笑いがでるが。


「む…確かにお前がそこまで言うのなら出来るんだろうが…30枚は多くないか?これは寄付ではなく投資金として承ったものなのだが…。」


「だから言ったでしょう。“寄付”として頂いたらどうですか?と。」


投資と寄付では意味合いが大きく変わるからね。


投資金で預かったのなら当然利回り、分配金が発生する。


そしてラムリスに30枚をあげたとしてもオズフォード辺境伯の元金に変わりはない。


あくまでもオズフォード辺境伯の“裁量”でお金を“運用”した結果、なのだから。


「む…一応、運用計画を聞いてもいいか?」


「それは勿論です。それが適切な金額と言うことを説明しましょう。」


ラムリスさんが提示した運用計画はこうだ。


スラム街の人数が約1200人に対して、教育日数60日の生活費が一人頭の大金貨1枚で72000枚(王金貨7.2枚)。


2ヶ月間の仮拠点建設費と土地代が王金貨2.8枚。


各専門家に対する依頼料が王金貨10枚。


そしてその後のスラムの人達が住む衛星都市…ならぬ衛星村の建設費王金貨9枚。


しめて王金貨29枚となる。


「おい、60日で一人頭大金貨1枚は多すぎるだろう…」


「いえ、これは必要な金額です。そもそも彼らは私達を信用していない。立ち退かせるための口実…とも取れますからね。そこで先に現物を見せればいいのです。」


「その為の住む場所と清潔な服、美味しい食事…と言うわけですか?」


「流石タクミ殿、その通りです。」


「…むぅ。それはわかった、しかし総額で王金貨29枚…あと1枚はどこにいったんだ?」


「え?勿論手数料ですよ?私の。そのくらい当然ですよね?王家御用商人の私を使うんですから。フェミル・オズフォード辺境伯?」


「む、むぅ…」


押し黙っちゃったぞ、オズフォード辺境伯。


流石ラムリスさん、したたかかなりだった。


「…仕方あるまい。ラムリス、よろしく頼むぞ。」


どうやらオズフォード辺境伯も決心がついたようだ。


「交渉成立ですね?」


そんなラムリスさんの笑顔はかなり晴れやかだったとだけ言っておく。



そして約束の2ヶ月後…


「お待たせ致しました、タクミ殿。こちらご注文頂きました各種人材1298名、確かにお届けに参りました。」


目の前には老若男女問わず、パリッとした様々な制服に袖を通し、活力に溢れた人達が一斉に俺を見ていた。


え、これがスラムの人達?


メイド、執事、料理人、仕立て屋、フロントスタッフなどなど…見るからにその第一線を歩んできましたと言わんばかりの雰囲気の人ばっかりだよ?


なんかみんなどこか高級店や有名な貴族の家から引き抜いてきたと言われる方が納得いくレベルなんだけど…


「ちょっとばかり力を入れすぎまして…数十人ばかり、師匠役となった専門家から『金なら返すから!だから彼(彼女)を連れてかないでくれぇぇぇ!!』と懇願されるレベルに達しております。」


え?師匠を超えちゃったってこと?


「何、これもこの村の為。師匠役には涙を飲んで頂きましたとも。」





…ラムリスさん…まじパネェ…






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