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ラムリスさんは凄腕だった(前)


さて、俺の前に山の様に積まれた金貨。


これどうすんだ?


「取り敢えずタクミとヒスイで山分けでよかろう。」


とジュウゲンは言うが、はっきり言っていきなりこんな大金を貰っても持て余すから。


「いやっほー!!」


と隣ではしゃいでるヒスイは兎も角、俺は要らん。


村の共有財産って形でもいいんじゃないか?


「はぁ…タクミ、お前の悪い癖じゃ。正当な仕事に対しての正当な評価、報酬は受け取る。これが正しいあり方なんじゃ。それだと『仕事』という意味自体が崩壊してしまう。」


「でも今回は『仕事』じゃなくて俺が勝手にやったことだろ?」


「それでも正当な働きに対しての報酬じゃ、タクミが受け取るがいい。」


んー、言わんとしてることは分かるんだけど。


今回は完全に俺のお節介だしなぁ。


この金貨の山は、先日発生したBランク魔物進行の討伐報酬。


その額、大金貨1500枚…価値を換算するなら日本円にして1億5000万くらいかな?


これを2人で分割するなら7500万ずつになる。


一個人が得られる報酬としては破格すぎるが、金額自体は適正らしい。


ただし、元々は何百人単位に分配して与える予定の報酬で、たまたま俺とヒスイの魔法で殆どを殲滅した為こうなったらしい。


ただしあそこにいた冒険者達も残党狩りに手を貸しているため元の金額から大金貨500枚が引かれ、そちらは1人頭として分配されるとの事。


つまりこの緊急依頼の元々の報酬額は大金貨2000枚…2億程ということになる。


「大奮発だな。いや、そのくらい危険があったということか。」


かく言う冒険者たちもこの分配には納得してるらしい。


曰く、自分たちは何にもしてないと。残党狩りには参加したが、数の揃っていないあの魔物達ならば危険度は遥かに低く、それを考えれば報酬が多い程だと。


なんやかんやジュウゲンに押し切られる形で大金貨750枚を受け取ったものの、使い道がない。


隣のヒスイは気持ち悪い笑顔で何をしようかと妄想を膨らませているが、この世界にヒスイが求めるものがあるとは限らないぞ?





「さて…と。」


自宅に戻り、背負っていた大金貨の詰まった麻袋を机に放り投げるとどうしたものかと考える。


ん?不用心?この村に窃盗を働く様な人間は1人もいないから問題ない。


そしてお金の使い道だが…


どうするか。


豪遊する?…残念ながら俺は浪費家ではないので除外。


貯金する?…うーん、それもありなんだろうけどこの村にいる限りお金を使う機会自体がないからなぁ。あんまり溜め込むと経済が回らなくなる。


趣味に投資する?…あ、そういえば趣味なんて無かったか、筋トレが趣味といえば趣味だが…。いや、まてよ?投資か…


「あ、趣味と投資を同時にすればいいのか!」








「それでタクミ殿、お話とは?」


俺は次の日、村に定期便を届けに来たラムリスさんに時間を作ってもらった。


「いやぁ、この前もらった報酬の使い道に悩んでまして。貯金もいいんですが何かに使おうかと…」


「そうですね、使っていただいたほうが経済を回す側としては望ましいですな。それで、私を呼び止めたと言うことは何か入り用ですか?」


確かに何かをこの村で買いたいならラムリスさんを頼るしかないが、今回はそうではない。


「実は2つほどお願いがありまして。」


「ほう。他ではないタクミ殿の頼みです、私に出来ることであれば何なりと。」


とラムリスさんが食い気味に聞いてきた。


「どちらも可能であれば…との枕詞が付きますが、まず1つはこの村にギルド支部を誘致出来ませんか?」


「ギルド支部を、ですか?」


「ええ、この村は特産と呼べるものがなく、人を誘致出来ません。観光物資もありませんしね。なので、冒険者の方々に村の経済を回して頂こうと。」


俺の考えはこうだ。


この村はなんでも結構な危険地帯にある為、人通りは皆無と言っていい。その危険地帯の所以だが、どうやらあの鶏や狼が原因らしく、一般の人が住むには不毛地帯だと。


周りには安全地帯などなく、確かにあの森は良質な素材が手に入るが身体を休める場所もなければ近くのギルドといえばガランの街のみ。


例えこの森で魔物を討伐しても持ち運びに苦労するし、その隙をほかの魔物に突かれたら目も当てられない。


因みにラムリスさん達の言う凶悪な魔物というのが、あの鶏な訳だが…あれ、そんなに強くないよ?


「で、ギルド支部を誘致することによって安全に素材の売買ができる。そしてそのお金を使ってもらうための施設を作る。」


「施設、ですか?」


「そう、それが2つ目のお願いです。ビル型の複合施設…は無理だから、敷地面積のかなり広い平家の建造物を建ててもらいたいんです。俺たちはそこらへんの伝手がないので、ラムリスさんにお願いしたいんですが…もちろん仲介マージンはお支払いします。」


でもそれだけじゃ意味がない。


「そしてその平家の中を視認性のいい壁で仕切り、飲食店や薬屋、服飾店などのお店を運営している人材を見つけて頂きたい…それが俺のラムリスさんにお願いしたいことです。」


俺の筋書きはこうだ。


ギルド支部を誘致。

冒険者を誘致。

素材を即換金。

近くの複合施設でお金を使う。

村がお店から場所代としてマージンを受け取る。



これで投資分が少しずつ返ってくる。


投資としてはあんまり旨味はないんだろうけど、これはお金を稼ぐことが目的ではないので無問題。


「しかし、ご存知の通りこの周辺はかなりの危険地帯との認識が根強いのです。そんな場所にギルド支部は兎も角、飲食店などの誘致は少し厳しいかと…」


「最初の1年は場所代は取りませんし、設備もある程度こちらで揃えます…そして、この村は私たちダトウ家が行います。」


「む…それならば、しかし…私や国王陛下、ギルドマスターはあなた方の力を十分理解出来るのでそれでいいのですが。初見の者達は流石に…」


「構いませんよ?失敗を恐れていては何も出来ませんし、建物も再利用可能です。失敗したところで物として手元に残るんですから問題はないですよ。」


仮にダメだったとしても平家型の賃貸住宅みたいに改造すればいいしね!


「…分かりました。タクミ殿、予算はどのようにお考えでしょうか?もしその金額の裁量を私に任せてもらえれば足りない要素などはこちらから提案させていただきますが。」


うーん、はっきり言って報酬金全額でもいいんだけど、後々のことを考えるならば…500枚くらいは残しとこうかな?


「じゃあ…大金貨7000枚で。」


とラムリスさんに現ナマで麻袋ごと渡す。盗難の心配はしていない、だって王家御用商人だし、人柄も間違いないから。


「なっ!!7000枚!?」


「あれ?もしかして足りませんでした?」


あー、よくよく考えてみれば、平屋とはいえ複合施設の様な大規模な工事を注文したんだ、足りなかったのかも。


「ならこの500枚も追…」


「だだだだ、だい、大丈夫ですタクミ殿!これで足りますので大丈夫ですから!!」


え?


でもラムリスさん驚いた顔してたぞ?


「こ、このラムリスめにお任せください!!全身全霊、この命かけても素晴らしいものを完成して見せましょう!!では!失礼!!あっ、代金は完成した時に頂きますので!!」


そう言うや否やラムリスさんは猛烈な勢いで村から去っていった。


うーん、どうしたんだろうか…


まぁ任せろとラムリスさんは言ってくれたことだし、信頼して全て任せよう。






俺は…本当に軽く考えてたんだ。


イメージとしては夏の風物詩、屋根付きの夜市みたいな感じで。


それがあんな大ごとになるとは…






「ラムリスさん、これは?」


「ご注文いただいた内容を全て反映させた結果です。」


…俺の前には何か大発展を遂げた村…いや町があった。


前までは小屋が5つずつの2列並んでいて、その周りには手製のバリケードがあるだけの村。


それがどうだろうか…小屋の列の前には横長い平屋の建物。


その反対は二階建てのギルド支部。


そして手製のバリケードは隅に片付けられ、町の中心から200メートル離れたところにはガランの外壁の様な高さ3メートル程の壁がせり立っていた。


さらに…


「あの右手のそこそこ大きな建物は?」


「宿ですね。」


「じゃあ左手の2階建ての大きな屋敷は?」


「皆さんが住まれる予定の住居です。」


「…あの村の中心で今も作業をしてる人たちは?」


「上下水道を整備するついでに噴水を作らせてます。」


ジャラ。

ラムリスさんが見覚えのある麻袋を渡してきた。


「そしてこちらはお返しします。」


「え?これはラムリスさんにあげた代金なんだけど…」


「ええ、ちゃんと頂いておりますよ?王金貨・・・を2枚、確かに徴収致しました。私如きでは7000枚を使用する大事業は手配できず、こんな簡素な形になってしまったことをお詫び申し上げます。」


………。



ラムリスさん。王金貨って?



「金貨では払いきれない報酬や報償をなるべく纏めてお渡しするために発行された特別な通貨です。」


因みにその方って…


「王金貨1枚で王都の一等地に庭付きの大豪邸が建ちます。」


おぅぅ…金貨の価値を見誤った。


え?つまり殆ど使ってないってこと?


「いえ、王金貨を2枚も使いましたよ?あ、あとタクミ殿…頑張ってほかにお金、使ってくださいね?」


そう言うラムリスさんの顔はとても眩しかった。




……もういっそのこと、孤児院とかに寄付しようかな…全額。






次回の更新は13日18時となってます。


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