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初の大きな街だった(後)


「おう、お前逃げずにこの依頼参加したんだな!」

「あぁ?お前こそよく逃げなかったな!」

「はっはっは!ここは俺らの故郷だ、逃げる方が無粋ってもんだろ?」

「ちげぇねぇ!」

「「はっはっは!」」


「群生蛛の鎧って確か買うと高いよな?」

「そうねぇ…小金貨2枚くらいじゃなかったかしら?」

「つまり今日の依頼は稼ぎ放題って事だな!」

「あんたってほんとお金にがめついわね…ふふっ。」


ガランの外壁の外側で陣形を組んでいる冒険者達はそう口々に話していた。街の外門を後ろにして、それを囲むように布陣、目の前は林となっているが魔物達はこれをなぎ倒しながらこちらに進んでいるとの情報だった。


馬鹿な内容やお金の話。街の存続を左右する一大事になんて下らない話をしているんだ!…と、そう思う者はいない。


みんなそれが平常心を保つために必要な事とわかっているからだ。


勿論皆、兵力差から見たこの街の未来は既に予想できているだろう、勿論自分たちの未来も。


だがこの街のが完全に陥落してしまえばその後ろの街が危ないし、更に言えば王城にまで危険が及ぶ可能性がある。


それだけでなく国境付近という事もあり、国防にも関わってくるのだ。


引くわけにはいかなかった。参加した理由は様々だが、共通認識としてはここでなんとかしなければならない事は全員が分かっているはずだ。


「…ん、そろそろか。」


そんな冒険者達の中にタクミの姿はあった。別に知り合いもいないのでヒスイ達の到着を待つばかりなのだが…。


先にガランへと着いたのはどうやら魔物進行モンスターパレードの方のようだ。まだ距離はあるが、遠目に大量の砂煙が上がったいるのが分かる。


「さてさてやりますか…。」

「何匹仕留めれるか競争しようぜ。」

「集計は多分あの世だがな。」

「はは、違いない。」


冒険者達の大半は既に諦めていた。


それは街の防衛を、ではない。自分の命をである。


それでも目だけは死んでいない。これほどの兵力差、状況的不利においてもその姿勢は素晴らしいものだ。


「(ヒスイ達が開戦前に間に合えば良かったんだが、それも贅沢か)」


年的にも冒険者の年齢は30前後が多い。ほぼほぼタクミの前世での年齢と同じであるが、日本でここまでの気概を持つ同年代なぞほぼ皆無だ。


もともと環境自体違うのだから比べるのは酷な話なのだが、付き合いは全くなくとも死なせるには惜しい。


タクミはそう感じた。






仕事・・ではないなら、出来る限り頑張ってみますか…【最適解せんせい】。」


【地形、気候、敵性体の情報を統合…広域殲滅の可能な魔法を抽出…個体名:ヒスイの『睡蓮花』がヒット…魔法キャパシティの不足により再現に失敗…再構築を実行します】


やはり『睡蓮花』は俺じゃ撃てないか、そもそも撃てたとしても防護フィルターまでは手が回らないから余計な被害を出す事になるし、それじゃ目も当てられないな…


【『睡蓮花』を解体分析…根幹を司る『指向制御魔法』、『振動制御魔法』、『物質精製魔法』をピンポイント抽出…最適化し、再構築します…】


そうなるとこちらに被害が及ばない指向性のある攻撃を広範囲にする必要があるな。


【固有魔法:『太陽風撃フレアインパクト』…発動します】


ん?…フレア?…ちょっ!まっ!【最適解せんせい】!フレアって、太陽フレア!?


そんな俺の動揺もつゆ知らず、俺の頭上に煌々と光る丸い炎球が作り出された。

熱さは感じないし、せいぜい見た目が前にエリシアに見せてもらった『ファイアボール』程度。

だがその効力を魔法名から推測できる俺からしたら冷や汗ものの事態である。


因みに太陽フレアは弱いものでも水素爆弾10万個分の威力。最大で1億個分の威力がある。簡単に言えば『睡蓮花』の比ではない。


「ちょっ!?」


こんな人が密集してるところでそんなもん撃ったらここら辺一帯焦土…いや、蒸発するだろ!


が、無情にも【最適解せんせい】は眼前に迫る魔物達に向け、『太陽風撃フレアインパクト』を放つ。


飛翔速度はかなり遅い。ヒョロヒョロヒョロとおそらく『ファイアボール』よりも遅い速度で魔物達の目の前に落ちていく俺の魔法。


周りの冒険者達からは何してるんだ?と怪訝な顔で見られる始末。


しかしその魔法は着弾と同時にその牙を剥いた。


勿論魔物達にだ。


音を置き去りにした爆炎…と呼ぶには些か疑問が残る剛焔ごうえんが魔物を次々に飲み込んで行く。自然発生とは違う粘りつくような超高温な炎だ。人間なんかが巻き込まれれば1秒も掛からず燃滅するな。


それにコンマ数秒遅れる形でお次はソニックムーブが発生。


え?なんで音より炎が先に襲ったのかって?知るかよ【最適解せんせい】に聞いてくれ…


【より効果的になるよう物理原則を改変しました】


最適解せんせい】はついに物理法則まで捻じ曲げやがったよ…。


そして勿論そんな超高温かつ大質量エネルギーを近場で発生させたのなら、被害は円形状に広がっていくのが普通なのだが。


【『指向制御魔法』により魔物側にのみエネルギーを向けています】


…だそうです。


つまり結果だけを見ると。


ガラン付近の林、扇状に最大幅500メートル、最長250メートルが燃滅。

指向線状の魔物、3分の1以上が蒸発。さらに3分の1以上が瀕死。


太陽風撃フレアインパクト』により過半数以上の無効化を確認。


あー、これヒスイ達の出番ないかも。


怒るだろうなぁ…ハヤテやサオリは兎も角、ヒスイは怒るだろうなぁ…。


そんなこんなでいい意味で惨状となった現場を見て頭を抱える。


いざ死地に行かん!と意気込んでいた冒険者達は一歩目を踏み出した体勢でフリーズしていた。


そりゃそうだ。いきなり目の前が吹き飛んだんだもの…。


それでも3分の1は残ってるから探して殲滅して来てくれないかな?


「だ、誰の魔法だ?」

「し、知るかよ…あんな大規模殲滅魔法を使える奴なんてこの街に居たのか?」

「Aランクの『円環』でも無理じゃないか?」


というか【最適解】が太陽フレアを再現した魔法『太陽風撃』って…ヒスイの『睡蓮花』よりやばいじゃねぇか!!


こんなもんヒスイにバレた暁には『いーけないんだいけないんだ先生に言って…


「いーけないんだいけないんだ先生に言ってやろー!!」


…て言われたな。


「いつの間に着いたんだ、ヒスイ。」


「うん、今着いたところ。」


何処ぞの彼女か。


「まさかタクミにぃが私以上にエグい魔法を使ってるなんて思いもしなかったよ。」


ヒスイがニヨニヨと表現した方が正しい、気色悪い笑顔を俺に向けながら喋りかけてくる。

その後ろをついて来たハヤテとサオリは苦笑いだ。


見てないで助けてくれ、ヒスイはこういう時しつこいの知ってるだろう。


なんたってハヤテ、お前の子なんだからどうにかしてくれ!


え?面倒ごとは御免?薄情な。


「何はともあれ、タクミの魔法で吹き飛ばしたから殆ど残ってないな。これなら冒険者達だけで片がつくんじゃないのか?」


3分の1以上残っているとは言え、その数は300程度だ。パーティー単位で当たってもギリギリ行けるレベルだろう。


「えー!?せっかくここまで来たのにそんなのあんまりだよー!!私も新魔法試し打ちしたいー!」


「…まてヒスイ、お前また魔法作ったのか。」


「タクミにぃ安心していいよ、今回は核とか爆弾とかそういう類のものじゃないから!」


そういい顔で言われるが信用出来ない。こいつの考えることは予想の斜め上をいつも行くのだ。


「私は考えたんだ。確かにこの世界の魔法によって、机上論とか空想科学論とか言われた兵器なんかが実現できるようになったけど、実際に原寸大で再現しちゃうと被害が甚大過ぎるって。」


ほうほう、で?


「つまり威力を抑えればいいんだよ。でもただ単純にスケールダウンして威力や優位性、取り回しが悪くなったら本末転倒だよね?」


まぁ確かに一理あるな…お?後続の魔物達が漸く近づいて来たか。


「だから私は日本のサブカルチャーを参考にしました!では聞いてくださいOn○y ○y rail○un!」


ちょ!?それアカン奴や!それだけで何しようとしてるのかわかったぞ!?


そう言えばこいつ物理オタクと並行してアニメオタクでもあった!!


その曲は俺も知ってるし、その曲がどのキャラクターを指すかも知っている。


つまり今からヒスイが何をやるのかが分かる、分かってしまう!

…俺もそのシリーズは魔術も科学もファンだからな!


「すぅぅぅぅぅ…黒子ぉぉぉぉぉぉ!!」


そこからやるんかいぃぃぃ!!!!!


ヒスイは自分の足元に魔法をかけ、鉄分を多く含んだ岩塊を作り出し、目の前に浮上させる。


それと同時にヒスイの身体には電気…雷のようなものが帯電し、俺もハヤテ、サオリもすぐ様離れた。


なんで魔法の詳細が分かるのか?コインの代わりにするなら鉄を含んだものじゃないと無理だからだよ…


俺の予想が正しければヒスイがやろうとしている魔法は…


「これが…私の…全力、だぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


【固有魔法名:『超電磁砲レールガン』を確認しました】


ですよねぇぇぇ…


超電磁砲…言わずと知れた浪漫溢れる科学兵器である。膨大な電気と技術的難易度から、費用対効果が悪いということで、机上論といわれる1つ。


金属製の物質(弾丸)を電気レールの磁力により、音速の速さで撃ち出す近未来的浪漫武器。


弾丸の大きさにもよるが、音速を超えるためソニックムーブが発生する。


つまり『太陽風撃フレアインパクト』により壊滅的な打撃を与えた上に、重ねて『超電磁砲レールガン』による衝撃波ソニックムーブを伴う直線波状攻撃により、魔物進行モンスターパレードの大多数を壊滅に追いやり、残った魔物も負傷を負い後は時間の問題と…


事実上魔法のたった2発で問題は解決したね。


俺たちの周りにいた冒険者達は何とも言えない顔でこちらを見ていた。


……いや、わかるよ?

決死の覚悟を決めて死地に向かい、目の前でその目標が瞬殺されたらどんな気持ちか、わかるけどね?


ここは喜ぼうぜ?


…いや、そこのヒスイみたいに発狂乱舞しろとまでは言わないけど、せめてもう少し喜んでもいいんじゃないかな。


はぁ…ローグとのあの緊迫した取引は何だったのかと言うぐらいにあっさりと終わってしまった。


これじゃ俺も冒険者達もいい道化だぜ…はは。





ごめんなさい…

俺にシリアスは、無理だったんだ!_φ( ̄ー ̄: )

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