初の大きな街だった(前)
すみません、予約投稿の時間を誤って設定してました…
では、どうぞ!
「うわぁぁぁ…人だらけ…」
大通りを行き交う無数の人、人、人…
それに対する俺の語彙力…戦闘力だったの5…フッ…ゴミめ。
はい、ごめんなさい。
テンションを間違えました。
さて、気を取り直してと…
「これが防衛都市ガランか…」
「ええ、この都市は元々は交易都市だったのですが、あの深淵の森が勢力を広げたのを契機に、周辺都市や村の機能をここに集約し新たに生まれ変わらせたのが、今のガランという事です。」
俺の何気ない一言にマルクさんが律儀に答えてくれた。
因みにこのガラン…俺らの村から直線距離で10キロ程。往復の危険性を度外視すれば歩いて来れる距離にあった。
ではなぜ俺がここにいるのか?
それは…
「着きましたよタクミ殿、ここがギルドのガラン支部です。」
そう、ギルド登録するためである。
何でもジュウゲン曰く…
「いつまでも食料品や日用品をラムリス殿に頼るのは不健全。ならば我々も何か通貨を得る事をしなければならん。」
との事で、取り敢えず俺がギルド登録して、村で狩った動物…もとい魔物を換金するなりして通貨得る。
そしてそのお金で日用品等を購入して村へと俺が運ぶ、という算段らしい。
因みにザックス殿下やラムリスさんが、お金なら心配するな、物資ならこちらが用意する等々、大変ありがたい申し出をしてくれたのだが、流石にそれはいただけない。
と言うわけで俺が村第1号の冒険者登録をする為にこうしてガランまで赴いたと言う事だ。
余談だが、ヒスイとマフユがかなーーーーり悔しがっていたのは追記しておく。まぁ順番に最終的には全員が登録するんだけどね?
「ようこそ、ガラン支部へ。ご依頼ですか?登録ですか?もし登録であれば…」
…ふむ、中々ナイスボディーなお姉さん。エルフ耳というのも評価が高い。そのはち切れんばかりのわがままが制服の下から自己主張をやめてくれないと見た!
「すまぬが、ギルドマスターを呼んできてくれ。」
と、受付のお姉さんの話を遮るようにマルクさんが会話に割り込んできた。もうちょっとお姉さんと会話を楽しみたかったのに…
って、え?ギルドマスター呼んで何する気ですか?
「はぁ…あの失礼ですがどちら…はっ!ワ、ワグナー伯爵様ではございませんか!!すっ、直ぐに!」
直ぐにマルクさんを認識した受付嬢は言葉通りすっ飛んで奥の部屋へと消えていく。
顔面真っ青になってたけど大丈夫かな?
「ワグナー伯爵!先に言っていただければこちらからお伺いしたものを。」
すると奥からギルドマスターとしてはえらく細い優男が出てくる。見た目は30を少し過ぎたくらいで、ギルドマスターというより事務員といった感じだ。
「ギルドマスターともあろう者がそう簡単に謙るものでもありませんよ?そもそもギルドマスターの前に貴方も貴族でしょうが…」
「いや、しかしですね伯爵…いきなり伯爵がノーアポで来たと聞かされれば驚きもしますよ。っと、何か特殊なご事情がおありのようですね、どうぞ奥へ。」
ギルドマスターは俺にチラリと目を配るとそう言いながら奥の部屋へと通してくれた。
「それで、伯爵がわざわざお越しになる事案とは、となりの少年が関係してるんですよね?」
通された部屋で寛ぐ暇もなくそう切り出すギルドマスター。
あ、このソファかなりいいものだ。
「そうですね、まずはその事から片付けましょうか。こちらのタクミ殿、そしてこれからこの街に順番に来られるであろう“ダトウ”という姓を持つ者たちに最大限の配慮をお願いします。」
「…理由をお聞きしても?」
そう訝しげに尋ねるギルドマスター。まぁいきなりそんなこと言われても困るよね?俺も困る。
「…ギルドマスター、御伽噺の“一夜の落日”は知ってますね?」
「えぇまぁ…朝起きたら国がいつの間にか滅んでいたという王様の話ですよね?」
え、なにその怪奇現象。
「端的に申し上げると、ダトウ家を敵に回した瞬間、この国が一夜と掛からず焦土と化します…そういう事です。」
「成る程…知る必要はないし、詮索も無用、只々便宜を計ればいいんですね?」
「理解が早くて助かります。」
おい…何か懐刀家が国家危険物に指定されたぞジュウゲン。
そしてそんな説明で納得するのかギルドマスター。
「タクミ殿…で良かったですか?」
「年下に敬語なんてギルドマスターの立場がないでしょうし、タクミで構いません。」
「助かります。ではタクミ、僕が伯爵の言を鵜呑みにしたのが不思議なようだね?」
ギルドマスターは苦笑いしながらそう尋ねてきた。
顔に出てたかな?
「えぇ、いくらマルクさんの言葉だとしても余りにもすんなりと書き入れていたからですね。」
「たしかに、他の貴族…それこそワグナー伯爵以外の上級貴族が同じ事を言っても僕は突っぱねただろう。ギルドとは完全中立を謳う独立機関だからね。しかし、各ギルドの上層部…っと、伯爵?」
何かを言いかけ、ギルドマスターは途中で確認するようにマルクさんに声をかけた。
「構いません。」
「そうですか…この国の各支部と本部のギルドマスターは、ワグナー伯爵と国王陛下との間に“魂上契約”を結んでいるんだ。契約については?」
「はい、知っています。」
「…そうか、なら話は早い。契約の内容はかなり細かいから省くけど、双方が不利益とならないように且つ、国益の根幹を揺るがす案件に対しては2人からの命令には逆らえないようになっているんだよ。あぁ、この契約が悪用されることはない。例え悪用しようとしても契約が許さないからね。」
つまり、俺たちの存在は国の根幹を揺るがす事案であると…ざっくり言うと危険視されている。
「タクミ殿。勘違いしないで欲しいのだが、我々はあくまでも敵対する気は無い。これは逆にタクミ殿達に危害が及ばないよう周知徹底させる意味もあるのだよ。」
それはわかってる。敵対する気ならば俺の前で態々言葉を交わす意味がないからな。
「そこら辺はジュウゲンを始め、我々は疑っていません。」
…疑ってないよな?
「それは良かった。それでギルドマスター、私はこれで王都へと戻るのだがタクミ殿とその後の方々の分まで登録、よろしく頼むよ?」
「はい、あらゆる方法を用いてでも必ず。」
何かえらく含みのある言葉が交わされたんだが…面倒なのか?面倒だよな?
そんな言葉を残して、マルクさんはギルドを後にし王都へと帰路に着いた。
「ではここでは粗方のギルドについての説明をしよう。本来なら表の受付嬢が応対してくれるんだけど……すまないね、何か楽しみにしていたようだけど、特別な説明もあるから我慢してくれ。」
とまたもや苦笑いしながらそう言われた。
やっぱ俺って顔に出やすい?でも仕方ないじゃないか、本当はかなり楽しみにしてたんだよ!
美人受付嬢との会話!そしてそこから巻き起こされるテンプレの応酬!
…フッ、厨二?それは何だい?
「…そろそろいいかな?」
「あ、はい。」
いかん、若干トリップしてしまっていた。
「まずランク制度について…」
ランク制度は冒険者の強さ、依頼達成度、素行の3つの功績項目を柱として、G〜Sの7段階。
Gランクは研修ランクとも呼ばれ、再登録者を除く登録から1ヶ月以内の者に付与される謂わばお試しのランクだ。
この1ヶ月の間に、ギルドから専用の依頼が斡旋され、規定の件数をこなすと自動的にFランクに昇格となる。
そしてそこからF〜E(半人前)、D〜C(一人前)、B (ベテラン)、A(超一流)、S(超越者)と分類されD以上から功績以外に昇格試験というものがあるらしい。
というか何だよ、超越者って。
「その他にギルド建物内での揉め事、死傷事件は御法度だね。言わなくてもわかると思うけどかなり厳しいペナルティが課せられる。あと、依頼任務中での怪我、死傷に関してもギルドでは賠償は行わない。例外として緊急依頼と指名依頼に関しては依頼主の名の下に補償が確約されている。」
ふーんつまりギルド建物内以外ならギルドは知りませんよ、と。中々黒いねぇ…まぁ俺ら一族が言えたことじゃないけどさ。
「そしてここからが本番だ。君達には規定通りGランクから始めてもらうんだけど、その中の依頼に特別なものを混ぜておく。なに、内容は単純な薬草の採取で場所も近くの森だから安心してくれ…まぁそこで偶然にも巨大な鶏に出くわして、偶然戦闘になり、偶然倒してしまってもそれはそれで素晴らしい功績だろうけどね?」
…成る程。つまりランクは直ぐに上げてやりたいけど、功績が足りないから作ってこいと。
「へぇ、偶然って怖いですねぇ。そうならない事を祈りますよ。興味ついでに鶏倒したらどのランクになるんですか?」
「そうだね…私の権限を持ってしてもDランクが限界だね。でも君達ならそれ以降も大丈夫だろう?若いのにそこまで血の匂いが濃い人は初めて見たよ…。大見得を切っておいて何だけどこれがギルドマスター権限で最上級の措置だね。」
…へぇ。
このギルドマスター、インテリ派かと思ったら以外と腕が立ちそうだ。
「いえ、こちらこそありがとうございます。」
「では受付嬢からギルドカードを受け取ってくれ。名前などは伯爵から聞いた通りに記載してあるが、万が一誤りなどがあったらその場で申告するように。」
「わかりました。いろいろありがとうございます。では…」
立ち上がると同時に…脱力からの右斜め前への縮地。腕を前方に伸ばして、透明な何か細いものを鷲掴みにし、ギリギリと締め上げる。そのまま上に持ち上げるとバタバタと暴れているように振動が腕から伝わってきた。
「コレ、処分していいですか?」ニコッ
「っ…試すような真似をしてすまない。出来れば放してやってくれないか?」
そう言われたので素直に話すと、床に何かが落ちた音がする。
…あれだけやられて声を出さないとは中々いい隠者だな。まぁ殺気がなかったから殺す気は無かったけど。
「リリア、もういいよ。」
「…はい、ギルドマスター。」
「あ。」
そうやって姿を現したのは漆黒の装束に身を纏った、先ほどの受付のお姉さんだった。
…くそっ!首あたりじゃなくてもう少し下を狙ってれば…っと、いかんいかん。ギルドマスターとお姉さんが訝しげにこちらを見ている。
「タクミ・ダトウ様、大変失礼致しました。私、このギルドで受付嬢兼隠密をしております、リリア・ホーグネットです。」
そう言いながらの洗礼された90度お辞儀…素晴らしい…どこがとは言わないが。
「すまないタクミ殿、これは私の独断だ。ワグナー伯爵の指示ではない事をご理解いただきたい。」
…まぁしょうがない処置だとは思う。いくら国との契約とは言え、何処の馬の骨とも知れない輩に便宜を最大限に図れと命令されるのだ。その実力、素性は調べておいて損はないだろう。
おれはショウゲンの“気配隠し”に慣れてるのと【最適解】があったから見つけれたが、あの気配遮断は見事なものだった。
ここに来るまでに何人かの強そうな冒険者を見かけたが、その中でも1人や2人気づけばいい方だろう。それでも何か違和感を覚える程度だろうけどね。
「まぁ最初から殺気はなかったので気にしてはいませんよ。ただ、今後来るダトウ家のものにはやらない方がいいと思います。あの人たちは例え殺気がなかろうと、自分を狙った者は消し去る性分なので。」
まぁこれくらい言っとけば次からはやらんだろう。実際はそんな危なっかしい性分なんて持ってはいないのだが、毎回こんな事をやられてもこちらも迷惑だし、おそらくマフユとヒスイ以外は全員気づくよ?
「成る程…肝に銘じるよ。改めて、ガラン支部のギルドマスター、ローグ・アルバート。よろしく頼むね?」
「では本当に、こちらこそありがとうございました。」
そう言った後、タクミはウキウキルンルンとしながら受付へと自分のギルドカードを受け取りにいくのだった。