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それは杞憂だった(後)


俺がマルクさん達を窓際に手招きすると恐る恐る外を覗く一同。


そこに見えた光景は、そう…怪獣大行進とでも表現したらいいだろうか?


平たく言えば、完全武装した兵士風の男達が、大型獣に襲われていたり、巨大なアナコンダみたいな奴に締め上げられていたり、その光景が少なくとも窓から見える範囲で絶え間なく起こっていた。


「ア、アングラ…それに、あれは…フェンリル…」

「…マルク…ここは幻想郷か?」

「殿下、お気を確かに。ここはジュウゲン殿達が治める村でございます。」


ザックス殿下。獣だらけの幻想郷って楽しくないと思うよ?どうせなら水着だらけが…げふんっ!何でもないです。


「あー、あれは叔…サオリのペット達ですね。よく村の周りを警戒してくれてるんですよ。」


巨大蛇と巨大狼はサオリ(叔母)のペット…詳しく話すなら天能【動物愛好家】のチカラで服従させた動物達らしい。


でも愛好家なのに服従って…どうかと思うんだが。名前も蛇一郎へびいちろう狼一郎ろういちろうだし…愛好家とは果たして。当の本人は狼一郎の上に乗ってはしゃいでるが。


というか、この村の周辺にいる動物って、誰も漏れなく巨大化し過ぎじゃね?もはやペット云々の話じゃないから。


「ウォォォォンッ!!!!!」

「フシャァァァァァァ!!!!!」


「何でこんな浅いところに神賢狼フェンリル邪神蛇アングラスネークがっ!?!?」

「散れ!散るんだ…がはっ!?」

「っ!?隊長が頭から喰われたぞ!?」

「う…うわぁぁぁ!?」


阿鼻叫喚。そう呼ぶに相応しい光景が広がっている。


あの2匹も敵対さえしなきゃ気のいい奴らなんだけどなぁ。狼一郎は狩りに行く時背中に乗せてくれるし、蛇一郎は自分の身体を使って滑り台をしてくれる…主に遊んでるのはヒスイとマフユだが。


「…馬鹿な…どちらもS…だぞ…」

「マルク、やはり俺は夢を見ているようだ…」


「「あばばばば……」」


殿下とマルクさんが何やら互いに確認しあって、ラムリスさんとエリシアは白目向きながら気絶していた。


エリシア…それは女の子がしていい顔ではないとおもう。


カッ!!!!!ドォーーーーッン!!!!!


「…タクミ殿。先程から聞こえているこの爆発音はどうやら他で起こっているようだが…。」


「あー、そうですね。こんな派手な音を出して攻撃するのは…東に展開しているヒスイとマフユでしょうね。」


「あの少女2人が?大丈夫なのですかな?」


心配は痛み入るが…俺、あの2人の天能こそ本当のチート何じゃないだろうかと思ってるんだ。


だって、ヒスイは【多列演算】と持ち前の物理オタクの才を発揮して現代に考えうる…机上論から空想論までの兵器を魔法で再現してしまう。


反対にマフユは【絶対記憶】によって精密繊細な工程や作業を必要とするプログラムやシステムを魔法として再現できる。【超高高弾道光線ソーラーレイ】や【人工衛星】という名の魔法まで作ってしまっている。


今回の襲撃に対して、こうも入念に迎撃体制が取れないるのはひとえにマフユのおかげなのである。


だがこの2人、気質が似ているところがあり、目を離した隙にとんでもない魔法の数々を作りまくっていた。


現代の地球であれば2人で世界征服を成し遂げてしまうくらいに…。まぁこの世界では俺らは新参者だし、俺らよりも強い人間は一杯いるから無理ではあろうが、セーフティーは必要と思った。


なので俺は2人の作った魔法に等級表を作るよう命じたのだ。


“3等級(戦闘級)” “2等級(戦術級)” “1等級(戦略級)”といった具合だ。因みに前回の睡蓮花(=水爆)は2等級に分類されるが、それは熱戦などのフィルターを設定した状態、つまり周りに被害が拡大しないよう配慮した状態だ。


何も配慮せず睡蓮花を放ったら、それは間違いなく1等級だろう。


「あの音はまぁ2等級魔法ってとこかな?」


今回使っていいと許可を出したのは3等級と2等級の一部のみ。まぁ身の危険を感じたら安全第一と言ってはあるけど、正直問題ないと思ってる。


「だってあの2人は…」



「ヒスイ!予告もなしで“睡蓮花”をやらないでよ!危うく構成中の魔法を定義破綻でキャンセルするところだったじゃない!あ、後ろに1人。」


「あぁ〜、ごめんマフユ〜。ありがとっ!と。」


「なっ…ゴフッ!?」


振り向きざまにヒスイはその細くて白い腕を手刀のように構え、襲いかかってきた兵士の喉を貫手で貫いた・・・・・・・・


「うへぇ〜、結構撃ち漏らしが多いなぁ…マフユ背後から3ね。」


「はぁ…魔法の制御が甘いんじゃないの?ヒスイ。」


と、マフユは腰に刺してあった無骨な刀(タクミ作)を抜き手も見せず横薙ぎに放った。


「ごっ!?」

「馬鹿な…がっ!?」

「こんな…小娘、ども…に!?」


赤い血筋を走らせ落ちる3体の首。


それをマフユは何とも思わないかのような目で一瞥すると溜息をついた。


「はぁ…弱。」



「何たってあの2人は俺より強い・・・・・ですから。」


「タクミ殿…よりも、ですか?」


え?マルクさんにすっごい怪訝な目で見られた。


やっぱり信じられないかな?あの2人見るからに細くて弱そうだし、まぁ実際はそこら辺の元ヤクザや元レンジャー隊員でさえ屠ってたから、剣しか持たない兵士なんてなんてことないと思うけど?


「で、西をハヤテとユミカ。南をショウゲンとキクカが担当してますが、この中で一番弱いのは俺ですよ?」


「……俄かには信じがたい事ですね…。」


そこまで絞り出すように言わなくても…。


「タクミ殿、そう言えばコウイチ殿…という方もおられませんでしたか?姿が見えませんが。」


おお、殿下ってもしかしてこの村の人員の名前全員分覚えてるの?すげぇ…俺だったら1週間ぐらいかかる自信あるよ。


「あー、コウイチですか?それならサオリと一緒にいますけど?」


「え?しかしぱっと見どこにも…ん?」


気づいたかな?そりゃわかりにくいよね…だってコウイチはただ敵の中を歩いてるだけだから。

まるで散歩でもしてるかのように何気なく敵の間をヒョイヒョイと歩くコウイチ。


時よりその通り過ぎた敵がパタリと倒れるが、パニックになっている敵はそんなの気にしている暇はない。

我が身可愛さに剰え踏みつけてでも逃げようと躍起になっている。


「…彼は何を?」


「え?敵を排除してるんですけど…わかりません?」


「すまないタクミ殿。俺には敵の間を縫うように歩いてるようにしか見えない…マルクはどうだ?」


「恐れながら、わたしにもそうとしか見えませんな。」


まぁそうだよね。初見で見破られたらコウイチは1週間は落ち込むだろう。


「敵の脊柱の丁度首のところですね、そこを刺してるんですよ。」


ズブリとね?


「…刺す?…押すではなく?」


「いえ、人差し指を脊柱目掛けて刺します・・・・。」


うん、確かにあれは離れ業だ。俺がやったら確実に突き指する。でも最近、コウイチがヒスイの協力のもと“分子の構造の相対位置を対象とした硬化魔法”ってのを作って、技のキレが増したとか喜んでたなぁ。


「……ジュウゲン殿。」


「何かの?」


ザックス殿下がいつにも増して真剣な顔だ。マルクさんも緊張した面持ちで後ろに控えている。


「失礼を承知でお聞きする…貴方…いえ、貴方方はどのような存在か?」


…どの様な、ねぇ。


まぁ地球でもこっちでも、普通の一族ではないのは理解してるけど。ジュウゲンはなんて答えるかな?


「ふむ、我らは皆血縁者なのはまぁ顔の作りを見ればわかるかの?」


「それは、はい。何処と無く皆ににかしらの面影がありますので…」


まぁ直系といえば直系の家系だからね。


「我らは彼の地では姓を懐刀ダトウと言いました。改めて名乗ろうかの…ジュウゲン・ダトウ、一種のに生きる一族じゃよ。」


その言葉とともに飲み込まれる室内の空気。畏怖、恐怖、覇気…様々な雰囲気が混ぜられた異質な雰囲気オーラが場を支配した。


外での戦闘音など元より聞こえない様な重たい空気。


誰かは分からないけど生唾を飲む音さえ響いていた。


「…ま、それも過去の事。彼の地では何の役に立たない肩書きですしのぉ、カッカッカッ!」


フッ、といきなり笑い出したジュウゲンにつられる様な感じで場の空気が元に戻った。


ひいじいちゃん…それ、一般人には酷だと思うよ?見てみろよ、ラムリスさんとエリシア、さっき気がついたのにまた気絶したじゃないか。


「……。」


「ん?…なに、安心せいマルク殿、ザックス殿下。何も我々は何振り構わず力を振るう阿呆ではない。そうじゃなぁ…この地の言葉を借りるならば何が妥当か…そうじゃな、“傭兵”の様な感じと思ってくれて良い。」


「…傭兵ですか。」


マルクさんは絞り出す様な声色で漸くそう答えた。


「まぁ傭兵といっても金さえ積めば動くか?と聞かれればNOと答えるがの。こちらの利、そしてそれが果たして我らのことわりにそむかないものなのか?それを加味した上で…という事になる。」


「…成る程、あなた方の強さの一端を垣間見た気がします。」


うん、なんか不意打ちの騙し討ちみたいになって申し訳ない気がする。


俺もフルネームは懐刀だとうたくみ…こっちではタクミ・ダトウか。


日本の闇を斬る 懐刀ふところがたな だった、所謂エージェントだな。まぁこっちでエージェントって言っても分かんないだろうから傭兵っていい直したんだろうけど。


つまり神みたいなアレから能力を聞かれたとき、みんな非戦闘系の願いをしたのはこれが理由ってわけだ。


みんな自分の強さに誇りを持ってる。余計な力は不要ってくらいにはね。俺が非戦闘系ばかりで最初心配してたのは、ここが未知のファンタジー世界だったから。


あの鶏も実は魔物だった事がこの前わかったけど、これなら問題ないとわかった。どうやら俺の心配は杞憂だったみたい。


「さてさて、話は外の祭が終わってからにしようかのぉ。タクミ、ちょっと片付けてくるから皆さんにお茶でも入れ直しておきなさい。」


「わかった。」


そう言うな否やジュウゲンは窓から飛び出していった。


…ただ自分も戦いたいだけじゃなかったのかな?あれでも前世は隠居してた身だし、若返って活力が漲ってきたぁぁ!!的な。


「皆さん、おかわりは同じものでいいですか?」


「「「「「「…あ…はい。」」」」」」


…そんな恐怖の目で見ないでくれよ。


別に俺は…というかみんな怖くないよ?仕事以外では普通の人達だから、ね?


あ、だめだ。これ溝埋まるまでに時間かかるタイプの奴だわ…。


はぁ…なんて説明しよっかなぁ。



元より初期チートな一族という…

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