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ラムリス・ホルハイム



「………。」


や っ て し ま っ た !!!!!


やばいやばいやばい、どうする…考えろ考えろ!!


まず現状。


ザックス殿下を紹介した。


ザックス殿下の挨拶。


護衛がそれに反発。


護衛、剣を抜刀。


村の人、激怒。


タクミ殿、護衛の武器全破壊。


ヒスイ殿、山を3つ消し飛ばす。


場を改めるという事で解散←イマココ



「やっべ…詰んだ…。」


今まで貴族、王族、皇族、豪商、領主など様々な取引経験、交渉経験があり、今回も上手くいくとの自負はあった。


それは慢心だとは私は思わない。確固たる経験に裏打ちされたものだからだ。


だが、もし言い訳をさせてもらえるならば。


あの護衛達が悪い!!


事前にあの村の人たちの大まかな情報を伝えてあったよね!?


少なくとも討伐ランクAの凶化石鶏コカトリスを瞬殺できるレベルってのは伝えてたよね?


お前ら単体で狩れるか!?


無理だろ!?


「…はぁ」


やめよう。


過ぎた事を悔やんでも仕方ない。


それよりも問題はこの“魂上契約の儀”が失敗に終わったという事だ。


あくまでこれはかの村の人達に、私達は友好的立場との意思表明の為に行おうとしたものなのに…


「友好的立場どころか、押しかけた上で、侮辱し抜刀…挙句出直し…敵対関係を取ると取られても仕方ない状態とか…」


陛下…もはや一介の商人には荷が重過ぎます。


「ラムリス、入るぞ。」


ん?ドアの外から殿下の声?


あぁ、休憩で途中の村に立ち寄ったのか…って殿下!?


「あぁそう畏まらなくていい。楽にせよ。」


「…は、では失礼して。」


え、本当に胃が痛いだけど。


何で私の馬車に来たの?呼んでくれれば私から出向くよ?


「ラムリス、此度の失態の原因は私にある。そこはどうか父上には曲解せずに進言してほしい…」


「お言葉ながら殿下。例えそれが忠義故としても、今回の任務は勅令…言い訳は聞きません。護衛達の独断専行と命令違反…突き詰めると国家反逆罪とも言える事案です。」


お優しい殿下の事だ、護衛達の失態を何とか緩和させようとしたのだろうが…


事今回に至ってはそれは厳しい。


国王陛下よりの勅令を受けた友好使節団が、訪問先でこちらから喧嘩を吹っかけ、尚且つ尻尾を巻いて戻ってくるという事態。


私には今回の監視役としてこの事を陛下に報告する義務がある。


事態の顛末はもとより、村の代表格の人間に不快感を与えた事、ヒスイという少女が山を3つ消し飛ばしたこと。


タクミ殿が精鋭とも呼ばれる近衛騎士30人近くを一瞬で無力化した事。


これらを事細かに…はぁ。


「…善処はしましょう、殿下。しかし部下の処分は相応のものとお覚悟されておいてください。」


「…すまぬ。」


さて、陛下への報告…やだなぁ…





「第2王子ザックス、ただいま戻りました。」


「うむ、よく戻ってきたザックスよ。ラムリスもご苦労。」


「は!」


「して、どうであった?」


…陛下の顔には安堵の色が色濃く出ていた。


そりゃそうだ、“魂上契約”を受け入れてもらえればそれを反故するメリットはない。


条件も向こう側が優位に立つよう作ってあるし、何よりこちら側の契約者は第2王子だ。


普通なら無事、和平を結んだと思うよねぇ…私もそう思いたかった。


「…では、監視役兼見届け役の私から報告させていただきます。」


「うむ。」


「……。」


陛下の後ろで秘書官のマルク様が私の雰囲気に何か気づいたのか、眉を顰めながら話の行く末を見守っている。


「まずシュウゲン殿、ジュウゲン殿、ハヤテ殿は前回お話しした通り相当の実力者と思われます。そして今回、新たに力を示したものがありました。」


「ほう?」


「それはヒスイという少女でございます。年はジュウゲン殿達と変わりません。」


アレ、言わなきゃいけないかな?…いけないよなぁ…



「陛下、この地図をご覧ください。」


近くの兵士を使い、村周囲の縮図を陛下に向けて掲げる。


「ふむ…あの村の周辺を拡大したものか?」


「その通りでございます。そしてあの村はもともと森に入る直前の最終拠点地。そして周りは4つの大きな山に囲まれていることは見ていただければわかると思います。」


あそこはもともとはある部落があって、開拓時にその部落から譲り受けた場所。


だから山に囲まれた辺鄙なところにあるが、昔はあそこを拠点として森を探索する冒険者が殆どだった。


まぁ深淵の森と呼ばれる前の話だけど。


「して、それとヒスイという少女がどう繋がるのだ?」


「はい、周りの山は差はあれどだいたい標高が300〜500程度のものです。ヒスイと呼ばれる少女はこのうち3つの山を魔法で消し飛ばしました、一瞬で。」


「は?」


「さらに言うと残りの1つの山は以前、実験と称して既に吹き飛ばしたそうです。」


陛下、驚くのはわかりますがまだこれからです。今はまだ軽いジャブ程度です。


「そしてもう一つ、以前お話ししたタクミ殿。私やモンザ達の見解から武術に秀でていると述べましたが、訂正させていただきます。彼は魔法も達人クラスでした。」


「な!魔法も凄いのか?」


「はい。」



それを聞いた陛下は椅子の背もたれに深く背中を預け、息を吐く。


うん、何を考えてるかは見当がつく。


「やはり“魂上契約”を結んで正解だったか…ラムリス、よくやってくれた。」


だよねぇ…



だが言わないわけにはいかない…



「陛下、まだご報告の続きが御座います。」


「ん?続きとな?」


ふぅー、落ち着け、落ち着け。深呼吸だ、深呼吸…



「タクミ殿が使った魔法は“ウィークエンド”と呼称しておりました。そしてその魔法が放たれたのは護衛達が抜き放った・・・・剣へです。」


……。


「…誰かが誤って抜剣したのか?」


「いいえ、モンザとアナ以外のすべての騎士が抜剣、ジュウゲン殿以下村人全員に威嚇を行いました。」


あ、陛下の魂が抜けそう…だがまだあるんです。



「更に騎士の1人が侮辱とも取れる暴言を言い放ち、タクミ殿が静かに激昂、件の魔法を放たれ、それでも戦意を失わない騎士達に対しての威嚇として、ヒスイ殿が周りの山を消し飛ばしました。」


指先をカタカタと震わせ、何かに縋るように此方へと向ける陛下。



「…つ、つまり?」


「“魂上契約”どころか、その説明もできぬまま喧嘩を売った形で戻って来ました。」


バッターン!!


あ、陛下が卒倒した…おいたわしや。


「商人ラムリス、つまりこちら側がただ喧嘩を売っただけに終わった…という解釈で間違い無いのですね?」


う、マルク様が洒落にならないレベルで睨んでくる。しかし私も長年培ったポーカーフェイスで答えた。


「は!残念ながら。」


マルク様は一瞬考え込むと、後ろを振り向き膝をついた。


「…此度の失態の責任、全てこのマルクに御座います。どうか取りなしては頂けないでしょうか、ショウゲン殿・・・・・・。」


…………居るのかな?



「………はは、流石に前回と同じ場所にいればバレるか。」


あ、いた。


全く何も無い空間に気配と意識がゆっくりと存在感を増してゆく。そして何秒もしないうちにそこには村であった時と同じ格好のショウゲン殿がいた。


「敵意が無いのはわかってたけどね、あれはまあ忠義に厚い部下が陥りやすいものだよ。情状酌量の余地はある…が、タクミを怒らせたのはいただけない。」


「……。」


ショウゲン殿と対峙しているマルク様が、息を呑む。


「あの子は滅多に怒らない、しかし流石に直接的とは言わずとも両親の事に触れられたんだ激昂するのも無理はない。」


「…私どもはどう償えばよろしいでしょうか?」


「んー、特別な事をする必要はないよ。また話は通しておくからまた来ればいいさ、出来れば大人数の護衛は抜きでね?」


そう朗らかに笑ってショウゲン殿は消えてしまった。


あの人本当は神の使いとかそんなんじゃないだろうな?


「…はぁ、ラムリス。聞いての通りだ、至急会議を開く。今回連れて行く護衛はモリスとアナのみ、残りはラムリス、ザックス殿下だ。」


「よろしいのですか?」


仮にも第2王子ですよ?


「我々に彼らとの戦争を起こせと?」


「…滅相もございません。すぐ様手配いたします。」


本気のマルク様、まじ怖い。


あの人あれで武官じゃなくて文官なんだからおかしいよなぁ。


さて、次こそは失敗は許されない。


気絶した陛下をほっといてマルク様がテキパキと指示を出してゆく。


最近陛下の扱い雑だよなぁ…マルク様。


出発は明日明朝。


今度こそはかの村と!!


あ、その前にお詫びの品を取りに商会に戻ろう。



ショウゲンの天能は【忍】の方が良かったかも…

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