一族郎党だった
白い空間だ。
え?…何ここ。
さっきまで親族総出で叔母の子供の進学祝いしてたはずなんだけど?
「気づきましたか?」
…誰だ?
というか何処だ?
「私の姿は定まっていないから見える…というよりは感じることは不可能ですが、これでは不便ですね。何かイメージしてみて下さい。」
え、イメージ?なんかわからんが…うーん、じゃあこれで…
「…何故ぽんぽこたぬきなのでしょうか…まぁなんでもいいと言ったのは私ですし構いませんが。」
俺の前には某映画のぽんぽこたぬき、あのガキ大将の様な奴が姿を現した。まぁ口調は丁寧なままなので違和感は拭えないが。
「で?あんたはなんなんだ?」
「私はあなた方が真理、神、世界の意思、まぁ呼び方はなんでもいいのですがそう呼ぶ存在です。」
…この空間じゃなけりゃ頭がおかしい奴にしか聞こえないぞ。
「失礼な。」
「デフォで心読まないでくれないか?」
「…このままでは話が進まないのでスルーした下さい。では、今のあなたの状況を説明します。」
そう目の前の不確定生命体が俺に語ったのは以下の通りだった。
曰く、親族が集まっていた民家に巨大な隕石が墜落。
曰く、それによりその場にいた人間は一瞬で気化し痛みを感じることもなく死亡。
曰く、隕石墜落は地球の神の不手際。そのため目の前の不確定生命体の世界になんとか転生させてくれないかと泣きついてきた。
曰く、あまりにも理不尽極まりない寿命の終わり方なので、転生するならば希望する能力を一つ授ける。
曰く、転生先は剣と魔法のファンタジー世界。転生した時の種族は人間。
との事だった。それを聞いた俺の第一の感想。
「ちょっとその地球の神を殴りに行かせろ。」
だってそうだろう?親族の晴れの祝いの席に隕石落としやがった神には一発入れとかないと気が済まない。
「人の身では神に危害を加えることは残念ながらできません。ですが安心してください、私がボコボコにしておきました。」
ふむ、出来ればこの手で下したかったが…まぁ代わりにやってくれたらな今のところは溜飲を下げておこう
「で?俺は転生するのか?」
「切り替えが早いですね…転生ですが貴方達にはある廃村がある場所に転生してもらうことになります。」
…達?
「ええ、転生するのは貴方達…あの家にいた親族全員です。」
え?まじで?
「マジです。」
だからデフォで心を…まぁいい。あの家に居たっていうと俺、叔父夫婦、叔母夫婦、その子供達…まぁ従兄弟、それに祖父母と曽祖父の総勢10名全員か?
「えぇ、更に特典として皆さんの肉体年齢をその中の一番低い年齢に合わせています。」
ということは進学祝いの主役だった従兄弟の真冬(15)かよ…俺は社会人っていっても24だからそこまで落差ないけど、曽祖父とか落差激しすぎるだろ…80歳近く若返る計算だぞ。
「本人は大変喜んでましたけど?」
「ひいじいちゃん…ん?もう他のみんなは転生してるのか?」
そういえば他のみんなの姿がないし。
「転生の面談は一人ずつやってます。貴方で最後ですがご安心下さい、転生のタイミングは皆一緒なので。では貴方の希望する能力を一つ言ってみてください。余程のことでなければ叶えることは可能ですから。」
「参考までにみんなはどんな能力か教えてくれないか?」
どうせなら被りたくないからな。
「各々の名前は省きますが、【鑑定の眼】【疲れない体】【料理人】【多列演算】【絶対記憶】【動物愛好家】【隠密】【予測】【狩人】ですね…剣と魔法の世界と申し上げたんですが誰からも戦闘系の能力の申し出がなかったです。」
戦闘系といえば一応【狩人】が入るんだろうけど、厳密にいえば違うしな。というか能力聞いただけで大凡誰が希望したのかわかるぞ、それ。
まぁみんなの才能を考えれば適正といえば適正なんだけど…
「で、貴方は何を希望するのですか?因みに能力を選んだ時点で転生が始まりますので。」
む…俺の能力か。悩むな。
俺みんなの中で一番の凡人だからなぁ…
唯一戦闘系を希望してもいい…あ、でも叔父さんとひいじいちゃんいるから問題なさそうな気もする。でも魔法とかあるしな…
しかも能力は一つだけ、この神もケチだな。
「…適当に能力付けて飛ばしますよ?」
嘘ですごめんなさい。
うーん、でもあの面子ならなんとかなりそうな気もするし。
よし、あれでいこう。
「じゃあ【最適解】で。」
「因みにどんなものか聞いても?」
どんなものか?えーと…
「どんな状況、どんな困難に対しても最善の方法を選択できる能力、かな?」
「それはどんな犠牲を払っても自分のいい方を選ぶ、ということですか?」
ん?んー…そう言われると困るな。誰かを犠牲にすれば大勢の命は救われる、そんな状況なら、その誰かを犠牲にするのが最適解か。
「自分の望む結果に導かれるようになんて…流石に都合が良すぎるか。」
「出来ますよ?」
「え、出来んの!?」
「流石に限度はありますが可能です。まぁ本来なら駄目なんですが、地球の神から多少は融通を利かせてくれと懇願されてますし、その対価も貰ってますので問題ありません。」
おお、やった!
「では貴方の能力は【最適解】、これでよろしいですね?」
ああ、よろしく頼む。
「では、能力を身体に定着させると同時に転生を開始します。」
そう言われるとどんどん意識が遠のいてきた。
そんななか不確定生命体は最後の言葉をかける。
「貴方達一族に女神の加護があらん事を…」
…ってお前が神じゃないんかい!
そんなツッコミを入れながら俺の意識は遂に途切れた。
「ん?ここは…家か?」
不意に意識が覚醒するとそこには見知らぬ天井が広がっていた。
某有名なセリフを口走ろうとしたが自重する。
「本当に転生したのか?」
未だに実感がわかないが、その呟きに違和感を覚えた。正確にいえば自分の声の高さにだ。成長期も終え、当然声変わりもしていたはずなのだがどうにも自分の声じゃないように高い。
そして寝ていたベットから立ち上がってみると何か全体的に目線も低くなっていた。もしかすると…と思ってたら近くの机に水瓶があったので覗き込む。
「あ、やっぱり?」
そこには中学生のときぐらいの顔立ちをした自分の顔。ということは身長も相応に縮んでいるのだろう。あの頃の身長は169センチほどだった筈だ。
「っと、そういえばみんな同じ廃村に転生するって言ってたな。」
そう思い出し、玄関と思しき場所から外へ出る…正確には扉を開けると目の前には超絶美少年が立っていた。
「え、どちら様?」
「おお、お前は匠か!やはりあまり変わっとらんなぁ!」
美少年は俺を知ってるみたいだが、こちらは全く身に覚えもない。というかこの世界に知り合いなんていない筈なのだが…
「カッカッカ!わしが誰だか分からぬか?まぁ無理もないわい。ワシの若い頃なんて見たことないだろうからのぉ。」
だがその喋り方には聞き覚えがある。あるのだが、目の前の美少年がその喋り方をするとかなり違和感がある…
「…え、ひいじいちゃん?」
「カッカッカ!どうじゃ!美少年じゃろ!」
あ、この能天気さはひいじいちゃんだわ。
「皆はもう目覚めて外に出ておるぞ、匠も早く来るんじゃ。」
そう言いひいじいちゃんは俺の手を引き外へと連れ出す。するとそこには8人の男女がやんややんやと話し合っていた。
「おっ、来たか匠!」
そう声を上げたのは恐らく叔父の疾風おじさん。何処と無く面影がある。
「あ!やっぱり匠にぃも若返ってる!」
「皆んなばっかりズルイ!」
そう地団駄を踏んでいるのは叔父夫婦、叔母夫婦の子、まぁ俺の従兄弟である真冬と翡翠。こちらは転生前とほぼ変わらぬ姿だ。
というのも翡翠が16、真冬は15だから変わらなくて当たり前だが。そもそも年齢は真冬を基準にしてるんだし。
「あらあら、やっぱり匠くんは子供の時からイケメンだったのねぇ。」
「そうよ義姉さん、匠は昔学校からたんまりとバレンタインのチョコを持って帰ってくる猛者だったんですから。」
「おお、匠くんか。僕が分かるかい?」
上から疾風おじさんの妻、由美香さん。おっとり系お姉さんだが、その年からそんな巨乳だったんですか…
そして叔母の沙織おばさん。こっちは綺麗目系のスレンダー美女だ。ある部分は由美香さんとは比べるまでもない。
最後に沙織おばさんの夫、光一さん。優しそうな牧師様のような雰囲気をしている。その掛けている眼鏡は一緒に転生してきたのだろうか?
そして…
「えっと…じっちゃんとばっちゃん、だよね?」
俺は残りの美男美女に目を向けた。他のみんなは何となく面影があったから検討がついたが、この二人はもはや別人だ。若い時の姿を知らないというのもあるが、50以上若返ってるから最早分からない。
まぁ消去法で残りはその二人しかいないんだけどさ…逆に違ったらそれはそれで恐怖だろう。
「どうだ匠、じいちゃんもまだ捨てたもんじゃないだろう?」
「あなたったらはしゃいじゃって…もう。まぁ惚れ直しましたけどね?」
うん、見た目若いからカップルがいちゃついてる様にしか見えないけどな。
「よし、皆揃ったな?そして今の状況を理解しておるな?」
ひいじいちゃんのその問いかけにみんなは一斉に頷いた。
そう、ここは地球ではない。そして自分たちは一度死に、若返ってもう一度この世界に生を受けた。
今からこの世界で生きていかなければならないのだ。
「なら良い。じゃ今後の方針と対策を詰めていくとするかのぉ。」
こうして俺たちの新しい第2人生は幕を開けたのだった。
よろしくお願いします(^^)