9.PVP戦~Rデスマッチ前編~
Rデスマッチ……パーティー、ギルドの総力決闘。
「やあ、《王》シリーズの皆さん」
廃坑を出た後に待っていたのは、モンスターではなく10人を超えるプレイヤーだった。その服装に統一感はなく、盗賊団か、傭兵団と言った印象を受ける。
「何か用か?」
「ええ、あなたたちにお願いがあってここに来ました」
尋ねると、中央にいる中肉中背の黒髪優男から答えが返ってくる。何でこんなことになっているのか、思い出せそうなものを思い出してみるがよくわからない。
「お願いって何?」
「実は、あなたたち、《王》シリーズのユニークスキルを持つプレイヤーには、このゲームを引退していただきたいのです」
「なっ!?」
桜から驚きの声が漏れる。俺だって驚いていた。まさか、プレイヤー間でこのようなトラブルになるとは思っていなかったのだ。ましてや、ゲームを引退させるなど論外である。まあ、俺は《王》シリーズのユニークスキルではないのだが。こう言った手合いに言ったところで嘘だろう、と喚かれるだけだろう。驚く俺たちを見て、男は愉快そうに笑い、何度もうなずく。
「ええ、ええ。驚くのも無理はありません。ここでなんですが、私たちの自己紹介をしておきましょう。私たちはギルド【数こそ力】です。我々のモットーは『特別はいらない』。つまり、私たちの目標はあなたがた、特別な力を持つ《王》シリーズの追放。【アンドセル】での一件、ここまで道のりでの戦闘であなたたちの実力は十分見せていただきました。間違いなく、あなたがたは《王》だ」
「な、なんでそんなことするの!?」
「だって、おかしいとは思いませんか?これはゲームです。だというのに、ユニークスキル、『プレイヤー一人一人のオンリーワン』などと謳っておきながら実情は結局運じゃありませんか。我々凡庸は、あなたがた《王》シリーズのユニークスキルを持つ者たちに、一人では絶対に勝てないのですよ。我々が一体何レベル上げればあなたがたに追いつけるのでしょう?答えはない。つまり、追いつくことは無理なのです」
ギルド、【数こそ力】のリーダーと思しき男は淡々と語る。確かに、男の言っていることもわからないでもない。
「我々は夢を見てここに来ました。しかしその夢が運で決まるようなことはあってはならない」
「でも、あなただって《王》シリーズのユニークスキルを手に入れてたら、そんなこと、」
「あったら!?あったら!?ないからこういうことになってるんでしょうよ!?あなたは持ってるからそんなことが言えるのかもしれないが、私たちは持たざる者!あなたが吹き飛ばしたプレイヤーがいたでしょう。あれは私のギルドのメンバーですよ!彼は昨日から一生懸命にレベル上げをしていた。だというのに!あなたのスキルのせいでデスペナルティを受け、昨日まで頑張って貯めていた経験値が失われたのです!わかりますか!この理不尽が!貴様らは、不倶戴天の敵なのです!」
デスペナルティ。それはこのゲームで死亡した際に受けるペナルティのことだ。一定時間のステータス低下や、経験値の喪失、状態異常を受けるなどその罰は多岐にわたる。今日街で桜が放った《シールドインパクト》がプレイヤーの一人を殺していたな。桜を見ると、顔を青ざめさせて俯いている。男はふーふーと息を切らせて、深呼吸すると息を吐いて尋ねてきた。
「で、どうしますか?あなたがたがこれに応じれば傷つけはしませんが、応じなかった場合、あなたがたがこのゲームから引退するまであなたがたをころ、」
「断る」
「……何?」
俺の言葉に、男は眉間にしわを寄せる。
「確かに、お前らのようなプレイヤーの気持ちもわかる。だが、なんでお前らなんかの為にこのゲームをやめようと思えるんだ?」
「さっきから言っているだろう!我々は理不尽な扱いを受け」
「理不尽な仕打ちをしているのはお前らだろう、マナーを知るべきだ」
「……っぐ」
「何より、お前もゲーマーならわかるだろう?」
「……」
「特別なスキルを手に入れて、むざむざ引退するゲーマーがどこにいるって言うんだよ」
当然だ。理不尽な実力差も、超えられないシステムも。怒りを覚えるのもわかるにはわかる。しかし、ゲームは楽しむための娯楽だ。自分勝手な遊戯だ。他人の自分勝手に、自分が付き合ってどうする。
「もう一度言おう。俺たちは引退しない!」
「……」
暗い表情になった男が矢継ぎ早にウィンドウを動かしこちらにメッセージを送ってくる。
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【フィエルテ】から決闘の申請があります
ルール:Rデスマッチ
制限時間:なし
スキルの使用:可
アイテムの使用:不可
勝利条件:パーティー以外の全プレイヤーの死亡
敗北条件:パーティーの全滅
敗北時のペナルティ:経験値の喪失、一部アイテムの消滅、一定時間ステータスの50パーセント低下、ランダムの状態異常
決闘を受託しますか?
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【はい】を押して決闘を受託する。わざわざ決闘を申し込んだのはデスペナルティを重くするためだろう。これほどに厳しい条件だと、ゲームへの復帰はかなり遅れる。カウントダウンが始まった。
「すまんが、二人は手を出さないでくれ」
「……うん、わかった」
「まあ、ご主人様なら負けんじゃろ。ファイトじゃ」
なんか呼び方がご主人様に変わっているが、そこは後にしておこう。
「桜」
「……なに?お兄ちゃん」
不安そうな面持ちで桜はこちらを見てくる。こいつは昔から責任感が強い。だから、他人の責め苦を何でもうのみにしてしまう。
「これはゲームだ。ゲームはお前が楽しむためにあるものであって、他人の嫉妬なんて気にするべきじゃない。それを忘れるな」
「……うん」
【数こそ力】の面々が武器を抜く。見た感じ前衛寄り……弓や魔法を使いそうなやつもいるが、それはせいぜいに三人ほどだ。俺には精霊術があるが、あれはMPの消費が激しい。あれを軸にして戦うのはきついだろう。となると……あれか。
「……みなさん。彼は一人で戦うつもりのようですが、油断はしないでください」
「……ああ」
「わかってる」
リーダーと思しき男は細剣を抜いた。その瞳には、油断など一片もない。
【決闘開始!!】
瞬間、男たちは一気に飛び出した。
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