8.通せんぼスライム
《オロボゲ沼地》で、2人のプレイヤーと1人の精霊が突き進む。
「おりゃあ!」
「これでどうじゃ!」
「《シールドインパクト》ォ!」
《水の恩寵》でステータスを爆上げした俺の一撃が【アルイゲータ】をたたき割る。精霊術で水のレーザーを打ち出したティアの一射が【ウェットスライム】を打ち抜く。盾を構えた桜の《シールドインパクト》が地形ごとモンスターたちを蹂躙する。
このゲームのマップは広く、プレイヤーは周りに数人いる程度しかいない。
「なんだ、ティアも戦えるんじゃないか」
「戦えないとは一言も言ってないぞ?妾は」
だったらミノタウロスの時も手伝ってくれればよかったのに。だが、ティアは知らん顔だ。
ここにきて、俺のレベルは1、桜は4、ティアは3レベルが上がったらしい。まあ、俺は先に来たりしてレベルは粗方上げたからな。ティアにもレベルがあったのは意外だった。聞けば、一定のレベルに達すれば精霊としてのランクが上がるとかなんとか。
「にしても、大きすぎるんだよな……」
それより問題なのは、『剛体の大剣』だ。ミノタウロスを倒した際手に入ったものだが、いかんせん大きすぎる。身長の二倍ほどの長さなのだ。強化されたステータスで振るうことは容易いものの、小回りが利かず近づいてこられると危ない場面が結構あった。一番安全だったのは、モンスターからの未発見状態で《威圧の叫び》を使う方法だ。これを使うと一定範囲のモンスターの動きが2秒間硬直する。その間に叩き潰すのが一番ちょうどよかった。
「すごく……大きいのじゃ」
「あ、そういうのいいんで」
うっとりとした顔つきで言うティアにうんざりする。どこからこいつはこんなネタを仕入れてくるのだろう……あ、俺の記憶からか。
「まあ、形状変化させるスキルもあるにはあるのではないか?」
「あー……だな。また何か釣らないと」
結局今日また釣ろうと思っていたのにまた厄介ごとが増えているな。これが終わったらまた釣りに行くか……。
「やったー!またレベルが上がったー!」
モンスターを倒し終えた桜が喜びの声を上げる。この中で一番レベルが上がりやすいのは桜だ。《シールドインパクト》というスキルでモンスターの殲滅を得意とし、撃破数だけならばこの中で一番多い。というか、こいつ職業【剣士】なの忘れてないか。
とはいえ、【剣士】としてのレベルも上がっているので、【剣士】のスキルも獲得しているらしい。耐久型なのに《俊敏上昇Lv2》とか、意味の解らん奴は放っておこう。
そうやって進んでいるうちに、《オロボゲ沼地》の奥、廃坑にたどり着いた。今度は陸地で膝まで水に浸かっている、などという事はないが《水の恩寵》が発動しない分、少し俺にはきついかもしれない。廃坑の中は狭く、『剛体の大剣』も前に突き出さなければ入れないほどだった。もう、このまま進むか。
「うおおおおおお!!」
「ピギャッ!」
「プゲァ!?」
『剛体の大剣』を前に突き出し、突進する。次々と【ゴブリンチャイルド】が飛び出してくるが、突き出された大剣の刃が皮膚に食い込み、串刺しにする。新たにゴブリンが突き刺されば突き刺されていたゴブリンは奥のほうに追いこまれ、傷口を広げられ、消滅する。まるでお団子だ。
そしてやはり≪スプリーグ平原≫の【ゴブリンチャイルド】よりレベルは高めに設定されているようだ。うち漏らした【ゴブリンチャイルド】はティアが屠っている。桜には攻撃手段が《シールドインパクト》ぐらいしかない。そんなものを後ろからぶっ放されれば、俺は無事では済まないだろう。
そこからさらに進むと分かれ道があった。手分けして探そうというとどちらが俺と一緒に同行するかで揉めたため、一緒に進むことにした。そして、一番奥に着く。
「てなんだこりゃ」
しかし、そこには何もなかった。つるはしなど採掘道具は置いてあるものの、あの騎士が言っていたような鉱石は何もない。来た道を戻ってもう一方の分かれ道を進んでみる。
「てなんだこりゃ」
そこには、道をふさぐように巨大な【ウェットスライム】が居座っていた。
「こんなやつ、一発で倒せるよ!《シールドインパクト》!」
衝撃波がスライムを駆け巡るが、衝撃波は【ウェットスライム】の体を多少波立たせただけで、後方の洞窟は破壊された。【ウェットスライム】には全く傷らしきものはついていない。俺やティアも精霊術を使ったり、大剣で切ったりしてみたが、いずれも【ウェットスライム】も倒すことはできなかった。
「うーん。たぶんこれは倒せないようになってるんだな」
「どういうこと?」
ほら、あれだよ。たぶんもっと何かアイテムが必要みたいな。
「うーん。だったら戻るしかないかぁ……」
桜が肩を落とす。
「まあ、街に行ったら何か情報があるかもしれない。さっさと街に戻ろう」
「そうじゃのお。妾もお腹が空いてしまった」
来た道を戻るようにして廃坑を進む。途中出てきたモンスターたちも片っ端から片付けていった。そして、廃坑を出ると―――――――。
「やあ、待ちくたびれたよ。《王》シリーズの皆さん?」
そこで待っていたのは、十人を超えるプレイヤーたちだった。
読んでいただきありがとうございます。
面白かったらブックマークなど宜しくお願いします!モチベにつながります!