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ユニークスキル《釣り》が面白そうだったので、今日も俺は釣りをする  作者: メラ
第一エリア《シーモンクシヴェリオン》
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7.修羅場

「妾はシュンの契約精霊ティアじゃ。よろしくのお」

「……私はシュンの妹の桜。よろしく」



不敵な笑みを浮かべて挨拶をするティアに対し、桜はしぶしぶと言った感じで握手を交わす。ここは喫茶店。プレイヤーが集まり、わいわいと騒いでいる。桜の様子を見ると、やはり何かお気に召さないようだ。ティアにキスされたことを話したら、何か怒ってたからなあ……と、俺がそんなことを思っているとティアがニヤリとほほ笑んだ。なんだ?



「桜か。お主の兄には本当にお世話になっておる。つい先ほどまでも、誰もいない洞窟の中で二人きりの熱いキッスを交わしておったところじゃ」

「……ッ!」



桜の顔が赤くなり、俺を思いっきり睨み付けてくる。



「おい!勘違いされるようなことを言うなよ!?」

「勘違いではあるまい?実際妾達は『二人』っきりでしておったのじゃからな」



くっそ!こいつ俺の心が読めるんだった!ミノタウロスは『一人』として数えないつもりだな!?桜を見るとわなわなと震えだした。顔を俯かせ、何かを我慢しているように見える。何が何だかわからないが、これはやばい。早くどうにかしなければ……!周りを見ると、いつも間にかプレイヤーたちから好奇な目で見られている。



「いやー。本当にアレは凄かったのじゃ。ミノタウロスが現れてから咄嗟に唇を奪われ、口腔内を蹂躙され。絡み合う舌と舌は実に感応的じゃったなあ……あまりに激しすぎて、妾はもうご主人様なしでは生きられない体になってしまった……ハァハァ」



ハァハァと熱い吐息を漏らしながらティアは身をよじる。顔こそだらしない顔つきにはなっているが、その目は完全に俺を笑っていた。こいつ……!確信犯か!正義の鉄槌を下すべく、マスターとしての威厳を保つべく、俺は拳を掲げる。しかし、その瞬間背後からゾワッと冷たい何かが這いあがってきた。



「……」



見れば、それは桜から発せられているようで、俺がギギギ……と錆び付いた人形のように振り向いた。



「あ、あの……桜さん……?」

「……もう、知らない」

「へ?」

「バカなお兄ちゃんなんてもう知らないって言ってるの!《シールドインパクト》っ!」



桜の構えた盾からとてつもない威力の衝撃波が放たれ、俺は店の壁ごと吹き飛んだ。HPが9割方消し飛ぶ……てうそだろ!?ミノタウロス戦でもこれほどのダメージが出たが、今は『剛体の大剣』で防御力も二倍になっている。加えて、《ダメージカット》も発動している。つまり、桜の《シールドインパクト》はミノタウロスすら超えているという事で……!



「お、おい。あれって……もしかして」

「間違いない、《王》シリーズだ……!」



周囲のプレイヤーがざわめき始める。だが、俺も桜もそんな場合ではない。



「《シールドインパ》」

「ちょ、ちょっとまてぇ!」



連射もありかよ!?強化された敏捷度で、何とか避ける。



「ぶがほげぇ!?」



代わりに後ろにいたプレイヤーが木っ端みじんになるが、そんなことに構っていられない。と、気づく。桜は既に《シールドインパクト》の体勢を整えていた。衝撃波が発射される。それは空気を伝播し、俺の体ごとを周囲の空気を蹂躙――――――――



―――――――しなかった。



「妾は曲りなりにも契約精霊。主を見殺しにするなどせんよ」



頭を上げれば水のカーテンが俺たちを包んでいる。衝撃波をそれで緩和したのだろう。だが、それより先に言うことがある。俺はにっこりとほほ笑んでティアに手を伸ばした。



ゴンッ!



「いだいのじゃっ!?」

「そもそもお前が発端だろうがのじゃロリ」



頭を押さえてティアが蹲る。水のカーテンは消えると、なおも涙目の桜を見つけた。今でもその瞳は憤怒し染まっているが、いくらか理性の情は戻っている。《シールドインパクト》をぶっぱなして少し落ち着いたか。



周りを見ると、あたりは水浸し。街の建物も所々壊れている。すると、遠くのほうから騎士服を着た男たちが慌てた様子で走ってきた。緑色のカーソル。NPCだ。



「こっ、これはなんだ!?いったい何をしたらこうなる!?」

「暴れすぎました」

「はあ……素直なのは良いことだがそれでは示しがつかん。自分たちが起こしたことは自分たちで責任を取れ」



と、緑色のカーソルが黄色の!マークに変わった。クエストが発生したようだ。にしても、何をしろと言うのだろう。



「《オロボゲ沼地》の奥地に廃坑がある。その一番奥で『ソルヴリュス鉱石』という鉱石を取ってこい」

「はい。わかりました」



そう答えると、このクエストがクエストリストに追加された。



「桜、一緒に行くだろ?」

「……」



まだ怒っているらしい。頬を膨らませ、無言で立ち尽くしている。だから、俺はいつもの秘儀を発動させることにした。



「ほら、俺が悪かったって。俺にはお前が必要なんだよ」

「……!」



抱きしめて、頭を撫でる。桜の顔が明らかに緩んだ。チョロイ。



「えへへー。だよね。お兄ちゃんは私がいないとだめだもんね!でも、もうキスは禁止だからね」

「わかってるわかってる」

「じゃあ、えいっ」



すると、桜が首元に腕を回し俺の頬にチュッとキスをした。中学生になって、こういうことは恥ずかしく感じるだろうと思っていたので、ちょっとびっくりする。



「じゃあ!行こうか!」



幾分か元気を取り戻した桜が歩き出した。俺とティアはやれやれと言った感じでゆっくりついていく。後ろから俺たちを見ているプレイヤーの視線には気づけなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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