19.戦いの後
【イベントボス【ウェットスライム:ワイフ:ハズバンドエイト】を倒しました】
【MVPを選定します……】
【MVPがプレイヤー名『シュン』に選ばれました】
【『シュン』にMVP特典を譲渡します】
【『激烈の水銃』と、スキル《捕食Lv1》を入手しました】
ミノタウロスを倒したときと同じように、アナウンスが流れた。同時にレベルアップの音声も響く。
【スキル《ダメージ増加Lv1》の熟練度が最大値に達しました】
【プレイヤー名『シュン』はスキル《ダメージ増加Lv2》を獲得しました】
【スキル《バーサークLv2》の熟練度が最大値に達しました】
【プレイヤー名『シュン』はスキル《バーサークLv3》を獲得しました】
【スキル《筋力増加Lv3》の熟練度が最大値に達しました】
【プレイヤー名『シュン』はスキル《筋力増加Lv4》を獲得しました】
【スキル《ダメージ軽減Lv1》の熟練度が最大値に達しました】
【プレイヤー名『シュン』はスキル《ダメージ軽減Lv2》を獲得しました】
重なるように頭のなかに響くアナウンスに半ば唖然とするも、視界端の瀕死のHPゲージを見て、アイテム欄からHP回復ポーションを取り出して口に咥える。レベルも20に上がり、10のスキルポイントが与えられていた。これ、何に使うかな……。
「お兄ちゃん!やったね!」
「また倒したの。ご主人様よ」
ティアと桜が笑顔で駆けつけてくる。それに手を上げて応えながら、俺はHP回復ポーションを飲み干した。まだ体力全快には至っていないのでさらに一本飲み干す。
「お前のおかげだよ」
「えへへ~」
嬉しそうに飛び跳ねる桜の頭を優しく撫でる。
「で、桜、あれは何だ?」
「ん?あれって?」
「最後に出てきたバリアみたいなやつ」
あれが無かったら普通に死んでたからな。
「ああ、あれは《サモン・シールド》だよ」
桜に聞くと、そのスキルは遠隔防御スキルらしい。瀕死のスライムが放った水流を防いだところから見ると、相当強力な防御スキルだったのだろう。あれがなければ死んでた。はっきり言って感謝しかない。ついでにもう一撫で。気持ちよさそうに桜は目を細める。
「ご主人様が桜にだけ優しくしておる。妾にも何かせんか」
「何か、ってなぁ……」
頬を膨らませるティアを見ながら少し考えてみる。だが、何も思いつかない上にこいつに何かすれば厄介なことになりかねないな。
「……よし、やめとこう」
「むぅ……」
ティアは不満そうにしているが、対照的に桜はにこにこしている。……にこにこしている。なんか怖いな……。すると、少し離れたところからにゃん助はウィンドウを興味深そうに眺めていた。
「ふむふむ……なるほど……しかし、これはちょっと厳しい気がするにゃん」
「何を見てるんだ?」
「これにゃん」
にゃん助の後ろに回ってウィンドウを覗き込むと、にゃん助がウィンドウをスライドしてこちらに飛ばしてきた。
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《捕食Lv1》
モンスターを『食べる』ことでスキルを獲得できる。
Lv1では5%
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ん……?このスキルって……?
「このスキルってMVPの特典じゃないのか?」
「ん?やっぱりおみゃーがMVPにゃん?」
まあ、最後にあれだけ暴れたからな。それより何故にゃん助もスキルを習得しているんだろう。
「ボスモンスターを倒した際、その特典スキルを手に入れられるのはMVPだけじゃないにゃん。勿論、装備品については最初のMVPしか手に入らないにゃんが、スキルについてはMVPのパーティ全員に与えられるにゃん」
「ってことは桜とティアも?」
「うん、私もこのスキル持ってるよ」
「妾はプレイヤーではないのじゃ」
あ、そうだった。ティアは随分プレイヤーらしいからつい……。……やっぱりすごいな。このゲーム。
「まあ、ここはまだ攻略されてなかったダンジョンにゃから、情報屋のにゃーにとってはいいネタにゃん。これでまた稼ぎが増えるにゃん」
「ああそっか。情報で商売してるんだもんな。……ん?あれ、でもだったら掲示板のあれは何だ?」
「あれはもうずいぶんと広まってしまった情報にゃん。情報にも鮮度がある、あれは古い情報にゃん」
「なるほど……」
随分、アコギな商売してるんだな。
「で、これはどういうスキルなんだ?」
スキルのウィンドウを指さしながらにゃん助に尋ねる。『食べる』ってのがどういうことかはわからないが、5%の確率でスキルを一つ習得できるのはかなり効率がいいだろう。
が、にゃん助の表情は微妙だった。
「んー。まあ、スキルも結果的にもらったし教えてやるにゃん。一見、このスキルは便利そうに見えるにゃん。5%の確率でのスキル習得。これは破格と言えるにゃん。しかし、同時にこれはかなり面倒なスキルにゃん」
「というと?」
「このスキルは、スキルを獲得するためにモンスターを『食べる』という過程を必要としているにゃん?ただ、このゲームのシステムからすると、それがとても面倒にゃん」
ゲームのシステムから、面倒?
「まず、間違いなく、モンスターを生きたまま食べる必要があるにゃん」
「生きた、まま?いやでも、倒した後に食べれば……いや、違うか」
HPが0になると、モンスターは光の粒子となって消滅する。つまり、モンスターを倒してしまえばモンスターは『食べる』ことができない。
「それがどういうことかわかるにゃん?」
「ああ、つまりモンスターと戦いながら食べないといけないってことだな?」
「まあ、おおむね合ってるにゃん」
となると……【麻痺】とかの状態異常で動けなくする必要がある……とかか?いやでも、それだと時間制限とかあるしな……。
「加えて、『食べる』の定義も曖昧にゃん。全部を『食べる』のか、一口かじる程度なのか」
そこは色々と試してみるべきだろう。ただ……。
「前者はたぶんないな」
「そうにゃんね。全部食べる前にHPは普通にゼロになるにゃん」
手足はまだわからないにしろ、頭とか心臓とか食われてモンスターが生きてるとは思えないしな。
「どちらにせよ、ここらへんは自力で何とか調べてみるしかないにゃん。いったん帰るにゃん」
そう言って、にゃん助は懐から緑色の結晶を取り出した。
「ん?なんだそれ?」
「知らないにゃん?商売にもならない情報だから教えてやるにゃん。これは『転移の宝玉』。使用することでいっきに街へドヒュンにゃん。普通にNPCショップで買えるにゃん。ちょっとお高いにゃんけど」
要するに一瞬で街まで帰れるアイテムってことだな。えー、便利だな。どうせなら買っておけばよかった。
「じゃーにゃん」
手を振って、にゃん助はその場から消える。ほんとに便利なアイテムっぽいな。欲しくなってきた……。
「さて、俺たちも帰るか」
「そうじゃの」
「うんっ!」
来た道を戻るように帰っている途中に、俺はさっきのボススライムの戦利品を眺めていた。
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『激烈の水銃』
謎の技術で作られた銃。高水圧の水のレーザーを射出する。ただし、射出する水を貯める必要がある。
武器攻撃力:980
スキル《貯水Lv1》
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銃と聞いて驚いたが、鉄砲と言った感じの銃ではなく、どちらかと言えば魔法寄りの装備っぽい。見た目こそ重厚そうな作りをしているが、水鉄砲と言った方がしっくりくるだろう。多分、あのスライムが打ってきた水のレーザーと同じような感じだ。
武器カテゴリが【サブウェポン】となっていたので、ちょうど装備できた。右手に大剣、左手に銃。面白い戦いができそうだ。そのまま戦利品を探っていると……。
「……ん?」
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女王の証:イベントアイテム
女王の絵が描かれた石。何かに使うのだろうか……?
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これは……ミノタウロスを倒した時に手に入れたイベントアイテムと似たような説明文だな。アイテム欄を開いて、『剣の証』の説明文を見てみると、やはり似たような説明文だった。何かに使うのだろうが……さっぱり使い道がわからない。
「まあ、今日は休むが良いのじゃ、ご主人様」
頭を悩ませていると、ティアが腕を絡めてくる。いつもなら振り払うところだが、今はそんな元気もない。さっさとログアウトして家で寝たいな……。
と、思っていると次は桜も反対側の腕に絡んできた。
「お兄ちゃん、今日は一緒に寝よう!」
「えぇ……」
なんか最近、桜がやたら元気な気がする。普通、そういうのは恥ずかしがる年代じゃないのかね……。結局、ティアと桜はログアウトするまで両腕から離れなかった。ログアウト直前までの男性プレイヤーからの嫉妬の視線や女性プレイヤーからの生暖かい視線は忘れない。
もう寝よう……。
◇ ◇ ◇
「やあ、お帰り」
「おいこっちはくそ忙しかったんだぞ!いったいどこまで行ってたんだ!?」
「すまん、にゃん」
ギルドに入って飛んできた罵声に、頭を下げて謝るにゃん。ギルドの中には優しい顔つきのロームと、不良っぽい顔のケプシーがいたにゃん。どうやら他のメンバーは外に出ているらしいにゃん。
「ちょっとあのダンジョンを攻略してたにゃん。収穫はあったにゃん?」
「えっと、君が見つけたって言ってたあのダンジョン?でも、《精霊術師》のプレイヤー全員に当たってたよね?それで全員攻略はできなかったんでしょ?」
「それが、思わぬところで水精霊と契約しているプレイヤーに出くわしたにゃん。取り敢えず、これがあのダンジョンのスキルにゃん?」
ロームにウィンドウを送ると、一瞬驚いた表情になった後、苦虫を噛み潰したような表情になったにゃん。まあ、気持ちはわかるにゃん。
「《捕食》……でもさ、これ」
「そう、割と難しいにゃん。でもそこは調べるしかないにゃん。それより新しい情報を持ってきたにゃーをほめてほしいにゃん」
ドヤ顔で胸を張ると、ロームは顔を向けてくるにゃん。何にゃん?
「ちなみに、『証』は?」
「………………にゃ」
かんっぜんに忘れてたにゃん!!!!
「全然だめじゃねえか」
「うるさいにゃん!」
完全に見落としてたにゃん。これは一旦あのプレイヤーに……たしかシュンだったにゃんか……。
―――――――ピンポーン
外出しようとすると玄関のベルが鳴ったにゃん。現代っぽい軽快な音にゃんが、これはロームの好みらしいにゃん。
「誰にゃん?」
ロームもケプシーも出る気配がないので、若干イラつきながら玄関に出るにゃん。そこにいたのは……
「やあ、依頼してた情報、仕入れてるかな?」
シュンというプレイヤーの情報を欲しがっていた依頼主のプレイヤーだったにゃん。
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