敵
「他人の話を盗み聞きしてるなんて、ずいぶんといい趣味してるのね」
精霊に負けず劣らず神出鬼没(今回は声だけだが)の司祭枢機卿というのも珍しいが、願わくはもう少し慎みがあって欲しいものだと私は密かに思う。
「それで、トゥーレ協会というのは間違いないの?」
私達魔女が----いや、法王庁が唯一敗北を喫した相手の名前を、私は口にする。
幾ばくかの懐かしさすらある響きだが、私にとっては忘れていたかった名前だ。
何よりも、膨大な犠牲を払って封じたはずの秘密結社が今もなお生き延びているという事実に、私は戦慄していた。
「……それにしても秘密結社一つ片付けられてないなんて、庭園管理局って所は魔女がいなけりゃまともな仕事ができないのかしら?」
気を紛らわせるために嫌味の一つでも言ってやろうと思ったら、思った以上に言ってしまった。
「まさか本当に、この80年間草毟りしかしてなかったとか?」
「てめ……肝心の時にポンコツになった魔女がきいたような口を叩くなっ!」
ノートパソコンが、日曜学校に来た良い子が聞いたら間違いなく泣き出してしまいそうなドスの効いた声を発する。
「この腐れ魔女っ! 今すぐラボに連れ込んで脳に電極ぶっ刺されたいのか……っ!?」