カーラ
メリッサはいつのまにか寝てしまった。
はしゃぎ回る体力がある割には、ぱたりと寝てしまうのも、クローン故の体質なのだろうか。
(まあ、しばらく寝てなさい……)
風邪をひかれても困るので、毛布をかけてやると、「うーん、もう少し食べる……」と返ってきたので、しばらくは起きないだろうと判断して私はタワーのある部屋へと戻る。
やりたくはないが、私もこのタワーを使わなければこれからの仕事ができないのだ。
「……ええと、まずは認証から、と……」
慣れない幾つかの作業を済ませると、タワー全体が淡く点滅した。
「ひゃ……っ?!」
電算式魔術支援システム、という仰々しい名前の機械が発したのは、意外にも、若い女性の声だった。
「初めまして。私は人工ニューラルネットワークを用いたAI『カーラ』です」
小鳥のような、という表現がぴったりな朗らかでよく通る声だ。
そんなはずはないと頭では分かっているつもりなのに、私はつい、中に誰かいるのではないかとタワーの足元を覗いてしまった。
「は、初めまして……私は、アイリスです……」
私固有の認識コードとやらをタワーの前で唱えたのだから、自己紹介は二度手間になる、などという事を挨拶してから気が付く体たらくである。
それにしても、こんなモノが人間と会話をしているのだ。
(本当に、すごい時代になったのね……)
科学とは魔法の別名なのではないかという思いを強くしながら、私は機械の塊に尋ねる。
「カーラ、教えて、ネオテニーって何?」
メリッサについて知るためには、私にとってはとても重大な質問だ。
メリッサが少女の姿でいるのはネオテニーなのだとアンソニーは言っていた。
人間の庇護欲をそそるために、再生の過程で自らそうしたのだと。
「ネオテニーとは、動物において、性的に完全に成熟した個体でありながら非生殖器官は未成熟であるという、つまり、大人でありながら子供の姿をとる事……幼生や幼体の性質が残る現象を言います」




