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指先

「……でも、それだけなら……言い換えれば、その、右半球の特異性を持っているというだけで、教会はこんなに長い間『魔女』を迫害してきたって事なの……?」


 そんな理不尽な事があってたまるものか。

 誰だって望んでそんな身体に生まれた訳ではないのに、勝手に区別され、尊厳を奪われ、『魔女』として命を奪われる。


(同じ人間のはずなのに、魔女は人間の敵としてしか見られていない……)


 沼の底から生れ出る気泡のように、胸の奥からこれまで溜め込まれてきた負の感情がブクブクと込み上げ続けているのが分かる。


 もし、本当に、私がなりそこないの魔女でなければ、私の口からは致死の呪詛の一つも漏れているだろう----。


 そう思う程に激しい感情が渦巻いていた。


「できそこない、言葉は正しく使え。迫害とは人間に使うべき言葉だ」

「そんな……」


 この期に及んでも司祭枢機卿の言葉は冷徹だ。

 私は奥歯を噛み締める。


 そうなのだ。

 何も変わらないのだ。


 こんな風に魔女狩りの理由が『科学的』に解明されたからといって、私達が救われる事はないのだ。

 損なわれた名誉も、失われた命も、誰も、戻してはくれないのだ。


 それでも、と、私は、心の隅からほんの爪の先ほどの泥が拭われたような気がしていた。


 闇でしかなかった世界が、科学というもので少しでも説明できるのであれば、それは昔の私の思い描いていた未来というものが絵空事ではなかった証ではないのか----?


(そうだ、私は本当に……あの頃に望んでいた未来にいるのだ)


 魔女とは何か。

 何故存在するのか。

 どうすれば人間として生きる事が許されるのか?


 それを解明しる術は、今ならある。


 渦巻き続ける重たい感情とは別の部分が微かな光を感じ取っていた。


 闇の中で、自分の指先が触れているものが一体何なのかを知るだけでも、理性のささやかな拠り所になる。

 父が教えてくれたその言葉がやっと心の底から理解できたような気がして、私は少しだけ微笑んでいた。

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