指先
「でも、それだけなら……言い換えれば、その、右半球の特異性というだけで、教会はこんなに長い間『魔女』を迫害してきたって事なの……?」
沼の底から生れ出る気泡のように、胸の奥からこれまで溜め込まれてきた負の感情がブクブクと込み上げ続けているのが分かる。
もし、本当に、私がこの男達の思い描くような魔女であったのならば、私の口からは致死の呪詛の一つも漏れているだろう----。
そう思う程に激しい感情が渦巻いていた。
「言葉を正しく使え。迫害とは人間に使うべき言葉だ」
「そんな……」
この期に及んでも司祭枢機卿の言葉は冷徹だ。
私は奥歯を噛み締める。
そうなのだ。
何も変わらないのだ。
こんな風に魔女狩りの理由が『科学的』に解明されたからといって、私達が救われる事はないのだ。
損なわれた名誉も、失われた命も、誰も、戻してはくれないのだ。
それでも、と、私は、心の隅からほんの爪の先ほどの泥が拭われたような気がしていた。
闇でしかなかった世界が、科学というもので少しでも説明できるのであれば、
それは私の思い描いていた未来というものが絵空事ではなかった証ではないのか----?
(そうだ、私は本当に……あの頃に望んでいた未来にいるのだ)
渦巻き続ける重たい感情とは別の部分が感じ取る。
闇の中で、自分の指先が触れているものが一体何なのかを知るだけでも、理性のささやかな拠り所になるのだと、それだけが妙にはっきりと理解できて、
引き結んでいた私の唇は、ほんの少しだけ緩みかける。




