見えないモノ
「あいにく、猫と話せる能力を持っていなくて」
私は憎まれ口を叩いてみるが、男はもう平常心に戻ったようだ。
「猫が喉を鳴らすメカニズム……仕組みというのは、実はまだ解明されていない」
「……へぇ」
猫が喉を鳴らす理由などというものまで解明しようとしているとは、凄い時代になったものである。
人々はもう食べ物や天候の心配がいらなくなったのだろうか。
私はほんの少しだけ羨ましい気持ちになる。
「だが、あの音が約二十ヘルツの低周波だというのは分かっている」
「低周波……?」
二十ヘルツとは一秒間に二十回の振動の事だと言われ、私は猫の事を少し見直した。
あの柔らかく、掴みどころのない身体にそんな能力を秘めていたとは驚きだ。
「アイツらは、あの音で互いにコミュニケーションを取っているだけではなく、自分の骨折なんかも治してしまう」
そこまでいけば、猫の方が私なんかよりもよっぽど魔女に近いような気がする。
「そして、低周波の逆が超音波だ。これはもう人間の耳には聞こえないが、蝙蝠なんかが出している」
「あ、そうか……」
彼らが暗闇で飛べるのは、きっとその超音波とやらを出しているからなのだろう。
そう言われれば合点がいく。
「そこにあるタワーも、空気中の高周波電気信号を電気に変換している」
「そういえばメリッサから聞いたわ」
私は天井を見上げて溜息を吐いた。
大気の中には、『霊気』の他にもずいぶんと様々な、目に見えないモノが飛び交っているのだ。
精霊や妖精という存在は、あながち御伽噺の中だけの存在ではないのかもしれない。
「さっきの話に戻るぞ」
司祭枢機卿は饒舌だった。
「物質を変化させるような能力は珍しいが、それも、一応は、低周波あるいは高周波による分子構造の変化、もしくは状態の変化という説が唱えられている」
「その低周波や高周波って脳から出せるの?」
これではまるで完全に教師と生徒の問答だが、私の声はどこか弾んですらいた。