魔女の条件
「右半球……」
父の書斎にあった本で読んだ事がある。
古代エジプトでは、人間の脳は右半球と左半球に分かれているが、それぞれ別の役割を持つと説かれていたらしい。
また古代ローマの医学者は、人間の脳には空洞がありその空洞を『霊気』という液体が満たしており、その『霊気』こそが意識や精神のもとであると考えていた。
(この男、私が何も知らないからとデタラメを言ってる訳ではないようね……)
脳波という言葉は初めて聞いたが、脳波を『霊気』に置き換えてもそう意味は変わらないだろう。
「つまり、いわゆる魔術が使える人間は、普通の人間と脳の働きが違う……って事ね?」
魔女とは言わず、わざと『人間』と言ったのは、私のせめてもの抵抗だ。
「そうだ……さすが呑み込みが早いな。弟の家庭教師役だっただけはある」
「……その話は今は関係ないでしょう」
私は棘のある言い方で、逸れかけた話を元に戻す。
「脳の右半球は主にイメージを司り、左半球は理論を司る……大まかに言ってしまえば、魔女の能力の個体差は、特に右半球の脳波の種類とその強弱によって生まれると言って差し支えないだろう」
私は昔この地下室にいた魔女達を思い起こす。
「幻覚や、魅了……そういう術は相手の脳波に直接作用する種類なのかしら?」
「ああ、波長さえ合わせる事ができれば案外簡単にできる」
常識では考えられない。
でも、人間の脳で起こせる現象----。
魔女は、やっぱり人間なのだ。