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伽藍

無限にも思える螺旋を駆け下りながら、同時に、私は駆け下る私自身の姿をこれ以上もないほどにはっきりと捉えていた。

塔の本質がこの長大な螺旋階段なのだ。

(そうだ、この螺旋階段こそが空間と時間の間に、しっかと打ち込まれた巨大な剣なのだ)


もっとも私は本物の剣を見た事はない。


剣は争いを生み、血を求めるものだからだ。

心を持つ者、愚者が手にする、この世界の調和を断ち切る死の一閃だからだ。


忌むべきとされているその言葉を知ったのは、限られた者だけが入る事を許されたあの『図書館』でだった。


私達を取り囲むのは柔らかく、甘く、温かなものだけ。

尖った、苦く、冷たいものは私達の意識から注意深く取り除かれ、遠ざけられている。


私達は眩いオーロラに優しく目隠しをされて生きていた。


私達は生まれながらにして全てを手にしていながら、何も握り締める事もなく生きていく。


剣は、そんな私には最も似つかわしくないはずの、凶器でしかないはずだった。

そう、今この瞬間までは。


駆け下るにはあまりにも長大な螺旋は、しかしそう得心すれば『私のためだけに用意された』唯一無二の存在だった。


着想はたちまちに確信へと変わる。


黒が白へと、白が黒へと、鮮やかに裏返る。

正位置から逆位置へ。

晴天から驟雨へ。

過去から未来へ。


空から海へ。


剣はひとつを二つに割き、二つをひとつに重ねる。


円周上の終点は始点となる。

影と光が渦巻く中で、私ともう一人の私が交差する。


そうだ。


これは光の中に膨大な数の記録媒体がひしめくようにして並んでいた図書館の記憶だ。


あるいは。


これは暗闇の中で無数の花達が息を潜めるようにして群れていた階段の記憶だ。


そして。


これはかつて魔女と呼ばれた少女達の魂を宿した悪しき壺の記憶だ。


私が見ている全ては、紛れもない、私の過去と未来なのだ。


私がかつて下った、そしてこれから下る全ての螺旋を、私は私と駆け下る。


拍を刻むように。

足音を木霊させて。




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