螺旋
慌てて踏み出した足元で、カンッ、と澄み切った高音が鳴った。
この音は、まぎれもなくオリハルコンのものだ。
オリハルコン----。
それは、この星には元来存在しないはずの物質。
液体でもあり個体でもあり、意思を持ち、この世界の全てを記憶している物質。
この大陸を楽園にした不思議な素材。
この星の住民には扱う事の出来ない、『神』の物質。
私達と共にこの星に降り立ち、私達と共にこの星を去るはずの物質----。
そのオリハルコン製の階段は穴の淵をなぞるように、下に向かってどこまでも美しい螺旋を描いている。
金色にも透明にも見える階の一つ一つが、まるで私達を誘うかのように、暗闇の中に仄明るく光りながら浮かんでいる。
「……行くしかないのよね」
僅かに掠れた私の声と、少女が立てる軽やかなステップの音が重なる。
その音も、どんどん遠のいて行く。
私の鼓動は急かされるかのように早くなっていた。
「……待って、私と一緒じゃないと駄目よ……!」
カン……ッ。
飛び乗った一段目。
心細くなるくらいにそれは小さくて、体重をかけるのが躊躇されるほどに華奢で、穴の深さに対してあまりにも不釣り合いで----。
(こ、このくらい平気っ……! だって成人の儀に私を危険な目に遭わせる訳がないんだもの……!)
私も螺旋階段を駆け下る。
黒髪の少女はもう次のループを下って行く。
その速さは、まさしく飛ぶようだと表現するのが相応しい。
でも、その時の私はまだ何も知らなかった。
この階段を降り切った先にあるものが、一体何なのか。
私達と、それからこの大陸に何が起こるのか。
奈落の底でどのような運命が待ち構えているのかを---。




