白
----何もなかった。
こんなに広かっただろうかと思うほどに広い塔の中は、しかし何もなかった。
際限なく白く、そして静寂に満ちていた。
誰もいない。
何もない。
私達三人の他に、生きている者の気配はない。
その代わりに、見えない無数の『目』を私は感じる。
(ここで成人の儀を行うの? こんな……)
空っぽのはずなのに、息が詰まりそうな視線を感じる塔。
私の心を隅々まで読み、惑星機構の一員として正式な資格を有するのか否か判断を下す白い空間。
(これ、もし不適格だとそんな判断が出たら……どうなるんだろう……?)
今更ながらの疑問が、私の心拍数を少しずつ速めていく。
(なんとなく分かっていたつもりだったけど、私は成人の儀について何も知らない……知らされていない……)
私は膨らんでいく不安を抑え込むように胸に手を当て、そして少女の手を握る手に力を込める。
少女が離れないように----ではなく、このままだと私が一人になってしまうという言いようのない恐れがそうさせたのだ。
分かっている。
不安を消したいのなら、すぐ隣に立つ専属補佐に一言聞けばいい。
なのに、何故かそれがひどく躊躇われた。
(……そうよ、フォルトナは儀式の全てを知っているんだから、彼女を……信じて、全て任せていれば……)
その補佐官はといえば、何かを待つかのように静かに目を閉じている。
(それにしても、静かすぎて……怖いくらい……)
空疎でがらんとした塔の中。
首が痛くなるくらいに見上げてみても、白い壁はどこまでも続いていく。
何の目的で、どのようにして作られたのか。
(こんなの……まるで……)
牢獄みたい、という言葉を私は慌てて消し去ろうとする。
(ダメ、そんな危険な言葉……思っただけでも『調律』の対象になってしまう……!)
これから私はこの星を離れなければならないのだ。
この星での日々を終わらせる儀式を無事に済ませて、私は惑星機構の一員として晴れて迎え入れられなければならない。
だからこの儀式を失敗するのは許されない。
もし、失敗したら----。
私は全ての地位と権威を剥奪され、『調律』を受け、機構の一員にもなれず、最下層の存在として命が尽きるまで収容所で労働に励む事となる。
それが、私達が惑星機構で生きるという事なのだから。




