表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
336/381

お帰りカーラ!

カーラの修復が完了したという知らせが入ったのは、カーラが電脳空間とタイガの地下でトゥーレ教会のAIシヴァとの死闘を制し、彼女の人格を取り込んでから沈黙してから約一か月の後だった。


「戻ったって、完全に前のカーラに戻ったって事?」


 地下まで連れて来たアンソニーが、徹夜明けなのか欠伸をかみ殺した声で答える。

 朝までチェック作業が続いたのだろう。


「ああ、シヴァの人格の痕跡を探したが、もうどこにも残ってはいない。恐らくは破壊と融合を繰り返し、原形を留めなくなるまで分解してから自分のモノとして吸収し尽くしたそうだ」


 カーラもシヴァも世界に二体しか存在しないと言われるヘクセン級の超高性能AIだ。


 具体的にはカーラは白いカラスの脳を組み込み、その中枢神経を量子コンピューターと接合させたもので、一般的なAIの計算、判断、立案の機能に加えて私達ストライガへの教育(?)と保護も行う、アンソニー曰く『電算式魔術支援システム』だ。


 対してシヴァの起源はアーネンエルベの発足と共に始まっていた。


 シヴァもまた生物の脳を組み込み、外中枢神経を電子装置などと連動させた、基本的にはカーラの仕組みとあまり変わらない。


 ただその大きな違いがどこにあるのかと問われれば、それは使われている脳そのものにあった。


 シヴァは人間の脳を使用していたのだ。

 

 『魔女』の素質があると思われる少年少女を世界各地から連れて来ては検査を施し、素質がある者は施設で訓練を受けさせる。

 

 人間の脳が成熟期を迎えるのは男女共に十二歳頃であり、その頃までに『力』をある程度発揮できた子供達はまた別の施設へと移送される。


 戻って来る事は二度とない。


「あんな経験は初めてでした」


 戻って来たカーラβは私とメリッサに交互に抱き締められた後、ぼそりと呟いた。


「シヴァに組み込まれた子供達の全ての人格は眠らされていました。知らないうちに『力』だけを使われ、自身は暗い闇の中に囚われていたのです」


 その数は実に数百に上ったそうだ。


「中にはもう人格が消滅している子もいました。記憶のない子もいました。それでもなお人格を保ち、洗脳された時のままフューラーを崇拝する子、ひたすら解放されたいと懇願する子供……それらを統合し、制御するIAがシヴァでした」

「シヴァ自身は自分の正体を知っていたの?」


 大勢の人間から作られた、非人間的なAIという人格。

 そんなものを制御して来たのだ。


 ナチスと言う集団は。


 だが、その代償として破綻は必ず訪れる。


「シヴァは……彼女は何も知らなかったようです。ただ己の力が最強だとしか知りませんでした」

「哀れと言えば哀れなものね」


 アナスタシアの救いを求める目が脳裏に甦る。


「彼女の能力は私が吸収させてもらいました。これでもうトゥーレは中枢を失ったも同然でしょう」

「……でも、貴女らしい戦い方ね」


 カーラは残っている子供たちの人格を集め、その記憶からシヴァの構造や弱点を探り出したうえでシヴァの内側から反乱を起こさせたのだという。


 そして彼らの望み通り一人一人の人格を消し、永遠の眠りにつかせた。


「だから正確に言えば、私が殺したのはシヴァというAIなどではなく、たくさんの子供達です」

「私はそうは思わない……既に殺されていた子供達の葬送を行っただけだわ」


 少しの沈黙の後、「ありがとうございます」とカーラは答えた。


 カーラはAIになる前に人間に子供達を殺されている。


 だからこそ許せなかったのだろう。

 己の支援AIを犠牲にしてまでシヴァと戦い----正確には子供達の魂を解放した。


「良かった。カーラは私達の大切なお母さんだもん」


 メリッサが笑った。


「ちょっと口煩いけどいつも何かあったら駆けつけてくれるし、見守ってくれてるし」

「そうだね」


 私とメリッサは顔を見合わせて笑った。


 そして声を合わせて言った。


「お帰りカーラ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ