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報いの時

(え……私、まだ魔法陣の中にいる……!?)


 こんな事は初めてだった。


 いつもなら、メリッサの元素拘束解放の瞬間から私は速やかに魔法陣から排除されていたのだが----。


(……私、排除されてない!?)


 それはまたとないチャンスだった。


 今私が手を伸ばせば、すぐに炎に届く。


 これなら、やがて炎から出現するモルガナに触れる事ができる。

 そして私は、魔女殺しのフルンティングを手にしている----。


 炎を纏った真っ白な爪先が、宙に姿を現した。


 私は息を呑んだ。


(今なら、そう……今ならモルガナを……)


 いつも思っていたではないか。


 メリッサと共に魔女達と戦うたびに。


 メリッサがモルガナに戻った時に殺そうと。

 二度と蘇らないようにこの手で葬ろうと。


 元素拘束から解放されたメリッサは、ただの脆弱な肉の器に過ぎない。

 その少女の心臓を貫くだけでいい。


 それは善だ。

 それは正義だ。

 それは私の運命だ。


 マヌエルの仇を取るために。


 私の長すぎる生命いのちに終止符を打つために。


(今なら……今なら……ッ!)


 なのに、私はフルンティングを持つ手に力を込める事すらできないでいた。


(だって……モルガナを殺すという事は……私がこの手でメリッサを…殺すという事……)


 以前ならできたかもしれない。

 いや、きっとできていた。


 でも、もう私は前の私ではなくなってしまった。


「うふふ、今となっては貴女には絶対に無理ね……でもその心の強さ、好きよ私のアイリス」


(……!?)


 身動きできないでいた私の身体に変化が起きていた。


 獣と自分の血で赤黒く固まった毛並みが、みるみる浄化され、銀色の毛並みとなっていく。

 まるで白貂のような滑らかさな手触りと輝きは、別の生き物のようだ。


「そう……貴女の今の魂は、その姿なのね……ふむ、随分と興味深いわ」

「そ、それはどういう……!?」


 あ、声がちゃんと出てる。


 身体はまだ人の形じゃないけれど、頭の中の赤い気味の悪い靄のようなものはいつの間にか消えていた。


(フルンティングは!?)


 血塗れだった大剣は鏡のように輝いている。


「それにしても、まさかそんな血に汚れた手で大事なメリッサに触れる気だったの?」

「そ、それは……」


 魔女が死ななければ、その使い魔も死なない。

 だが、自分以外の使い魔を自由に操り、姿さえ変化させられる魔女は一人だけいる。


 はじまりの魔女モルガナだ----。


 全ての魔女の母であり、全ての魔女の娘でもある。

 円環の理を統べる、唯一にして絶対の存在。


 モルガナだけが全ての魔女の『術』を使う事も無効にする事も出来るといわれている。


「だから今回だけは特別よ」

「あ、ありがとうございます」


 これが大魔女の余裕というものなのだろうか。


「今日は特等席で見物させてあげる。邪眼を使うという事の恐ろしさと、その成れの果ての姿をよく心に刻みなさい」 


その言葉と同時に、私は魔法陣の外にはじき出されていた。


「う、いたた……」


(あちゃー、結局はこうなるのね……っていうか、元の姿に戻してくれても良かったんですけど……)


 魔女なんて、多かれ少なかれ何かの対価を払って『術』を使うものだと思っていたけど。

 今になってモルガナは私に何を見せようというのだろうか?


「でも、成れの果てって……どういう……?」


 今までだって魔女達はロクな最後を遂げたイメージはない。


 首をひねっているその間にも大魔女は姿を現し始める。


 最初に、発光する魔法陣の上に、真っ白な爪先が触れる。

 その爪は砂糖菓子のような色をした桜貝。

 

 爪先に続いて、足首が、そしてなだらかな曲線を描く脹脛が現れ、太腿が続き----。


 私は顔を伏せる。

 本能的に女主人マスターに向かって身体全体で恭順の意を表していた。


「では、始めましょうか?」


 女主人マスターは高らかに宣言し、蒼白の顔をしたまま声も出せないでいる皇女アナスタシアを指で招いた。

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