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忌地、あるいは聖地

「カーラ! これまで観測されている全ての魔障級及び超常級の磁気異常のデータと、今発生しているソレのデータを照合しろ!」


  磁気異常は、魔女、あるいは魔女と関連のある生物もしくは地域の周辺で発生するものだ。

 『力』を発動する時の脳波は特に波が激しく、魔障級及び超常級のそれともなると周囲の磁気を狂わせ、そして時に人間の脳にも異常を引き起こす。


 いわば----魔女一人一人を識別できる声紋や指紋のようなものだ。


「……ジェヴォーダンの獣」


 ぼそりとそう言うと、メリッサが私の二の腕に縋り付く。


「アレ、怖かった……また出て来るの?」

「……じゃなきゃいいんだけど、でも、多分出て来るわね」


 私の嫌な予感は、良く当たる。

 今回もどうやらそうらしい。


「恐らく私達がストライガとして出動した最初の事案の背後にいた魔女ね……最後まで姿は見せなかったけど、廃教会の付近で磁気異常が確認されていたはず……」


 名前は、ええと----何だったっけ?


「……どうやらお前の言う通りだな」


 カーラの出した答えを聞くなり、法王は小さく舌打ちした。


「とうとうヤツとご対面する時が来たか」


 心底嫌そうに呟くが、すぐさまインカムのマイクで指示を出す。

 

『部隊全員に告ぐ! 現時刻より作戦終了時までゴーグルを防護モードにして、決して外すな!』


 正しい判断だ。


『現状はどうなってる?』

『所属不明の機体より敵兵の降下始まりました!』


 援護か?

 いや----違う。


 魔女としての勘(そんなものが私にあるならだが)が、相手の魔女の意図を速やかに汲む。


 あの廃教会に現れたジェヴォーダンの獣は、ローマ市内で行方不明になっていた一般人だ。

 魔女により怪物にされただけで、普通の人間だったはずだ。


 だが今回は----。


「……まさか、自分達の部隊を丸ごとジェヴォーダンのアレにする気なの?」


 自分の言葉に吐き気を催しながら、それでもそれが正解だと直感が伝えて来る。


「な? Tの連中に比べたら我々バチカンがいかに良心的か分かるだろ?」


 アンソニーの言葉を皮肉る気にもなれない。


 ゾッとしながら私は背中の大剣に触れた。

 前回の戦いの数十倍、いや、数百倍は難易度が上がる。


(コンディションは問題なし……あとはどれだけ援護をしてもらえるかだわね……)


 ゴンドラは降下しながら第四層に近付く。

 壁にはただの手掘りのトンネルのような物や、簡素な梯子のような物が目立つようになってきたが、とうの昔に打ち捨てられた遺跡のような雰囲気を醸し出している。


 ここまで降りても、下を見れば、深い暗闇がどこまでも続いている。

 上を見上げても、もうどこから降りて来たのか分からない。


「しかし、こんな大きな穴、今まで誰も見付けられなかったの?」


 今ツングースカの大爆発跡と言われている人造のクレーターでも相当大きかったが、この巨大さは比べ物にならない。

 衛星から見れば一目瞭然だろう。


「大爆発が起こったのが1908年で、ソ連科学アカデミー調査団が最初の調査団として現地に入ったのが13年後の1921年だ……その時にはもうTによる偽装と隠蔽は終わってたようだ」

「というと?」


 Tことトゥーレ協会は、1918年にミュンヘンで結成されている。


「奴らは独自のルートでこの地点を割り出し、すぐにこのスースロフの漏斗の上部に蓋をして、周囲と同じような植生のモミやトウヒを移植した」

「でもそんなに早く周囲と同じ高さになるかしら? 三年じゃ寒冷地じゃほとんど育たないんじゃないの? 掘っても永久凍土だし」


 私の疑問に、アンソニーは「まぁ、普通はそうだな」と頷く。


「だが、昔からこの周辺は住民の間である種の忌地として伝わっている……生き物や植物の生育が異様に早かったり、巨大になったり……一番興味深いのは、マンモスの目撃談だろう」

「え、マンモスって……少なくとも三千年前にはもう絶滅したって図鑑で読んだけど!?」


 冗談にもほどがある。


 だが、アンソニーは真顔のままだ。

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