表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
294/381

永遠の都市、あるいは虚無。

 そこには、目が痛くなる程の清浄な光に満たされた白亜の都市が広がっていた。


『……これが、ミレニアムの中枢?』

『そうですね、実際に祭壇があり聖母がいるのはメインストリートの突き当りのあのドームですが』


 カーラの言うドームは、遠目にもすぐに分かった。

 なぜなら、あまりにも特徴的で、そしてあまりにも巨大だったからだ。


 いや、ドームだけではない。

 この都市全体が、あまりにも巨大で威容を誇っていた。


 そして、人間の気配がそこには全く感じられなかった。


 例えるならそう、古代ローマの遺跡を復元したかのような----。


『この街って、もしかしてあのゲルマニア計画の……?』

『ええ、その通りです』


 ゲルマニア計画とは、小規模で設計・建造を進めながらも後に1933年に建築家アルベルト・シュペーアが総合建設計画「ゲルマニア」(Germania) 計画として本格的に具体化設計・建設総指揮を担ったベルリン改造計画の名称である。


 ベルリンを世界の首都にふさわしい外観と規模のものにしようとした大計画であり、計画初年である1939年より完成予定年である1950年までの11年間で総額55億マルクを拠出・資金投入する見積もりが立てられていたとされている。


『という事は、あれがフォルクス・ハレって訳ね……』


 随分と見慣れた姿だと思うが、それも無理はない。


 フォルクス・ハレとは、その世界首都を貫く二本の大通りの交差地点に建つ集会ホールだ。

 サン・ピエトロ大聖堂の大ドームに基づく巨大ドーム建築であったが、高さ 200m 以上、直径 300m と、その大きさはサン・ピエトロ大聖堂の17倍である。


 ただ、ヒトラーは別名の『聖杯神殿』という呼び方を気に入っていたらしい。


(聖杯……か、ちょっと気になる名前だわね……)


 ナチスと聖杯といえば、有名なのは親衛隊のトップであるハインリヒ・ヒムラーだろう。


 ヒムラーは、ドイツの古代史研究機関としてアーネンエルベを創設した。

 アーネンエルベの探検隊は各地を探検し、チベットやシュヴァルツヴァルトなど神秘的な場所で先史時代のアーリア人古代文明の存在を探そうとした。


 そして、最も熱心に行っていた活動の一つが聖杯の探索である。


 ヒムラーは、聖杯とはキリスト教がキリスト教より古い歴史を持つ『古代アーリア宗教』から強奪された物であると信じていた。

 そのため必ずドイツ人が見つけ出して取り戻さねばならないと主張し、そのための秘密チームも存在していたという。


(聖杯というと、アンソニーのノートにも書いてあったな……キリストの血を受けた器そのものではなく、古の血脈を受け継いだ人間の暗喩ではないかって説が……)


 21世紀にもなってサン・ピエトロ大聖堂を模したその白き聖杯に祭壇を設え、聖母を崇めさせているのは、果たして単なる偶然なのだろうか?


 ナチスとバチカン。


 ここでもまた競い合って狼の乳に縋る双子のように、その思想は時に対立し、時に融合しながら複雑に交錯している。


(とにかく、あの中に聖母が……アネモネのコピーがいるのね……)


 巨大な新古典主義建築の集大成とも言うべきその白亜のドームへ、無人のメインストリートの上を通りながら私達は真っ直ぐに誘導されている。


(もしナチスのこの街が現実に作られていたとしたら、今頃はどんな世界になっていたんだろうか?)


 白い百合を胸に抱えながら、私は考える。

 分かる訳がない。


 永遠に分からない。


 何故なら、私達バチカンの魔女がヒトラーを自害に追い込んだのだから。

 そして、その仲間の一人を、コピーとはいえ私はこれから殺しに行くのだ。


 白く白く、無垢な光の中で、私は唇を引き結んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ