窮鳥と少女
「助けて」
白いカラスはそう言って、弱々しく私を見上げる。
ルビーのような紅い瞳に、私が映る。
「アネモネ、これは一体どういう事なの?」
「……詳しく説明している時間はないわ」
確かにそうだ。
こうしている間にもアンソニーが中庭に来てしまう。
アネモネはこのままだと、カラスの身体ごとラボに連れて行かれてしまう。
(それは絶対にダメだ……!)
メリッサはあそこでどんな実験を受けた?
メリッサの双子の姉妹は何をされた----?
(ラボに連れて行かれたら、私達魔女はもうただの被検体に過ぎない……ヒトとしては殺されるも同然だ)
このまま何もせずに、みすみすと渡していいはずがない。
アネモネは、この私に助けを求めて来たのだ。
よりにもよって、魔女殺しである魔女の私に----。
『アイリス! すぐにソイツを連れて温室まで上がって来い!』
「ほらさっそく法王様が来なすったわよ」
私は白いカラスをそっと抱きかかえた。
「どうすればいい?」
「……そうね、まずそこの大魔女様を……黙らせて」
アネモネの言葉に振り向いたのと、メリッサが飛び付いて来たのがほぼ一緒だった。
かけていたバスタオルが、ばさりと床に落ちた。
「ねぇ! 貴女誰なの!? カーラじゃないわよね!? カーラはどうしたの!?」
『おいアイリス! 聞こえてんのか!? 早く上がって来いって言ってんだろうが!」
頭の中と外で同時に叫ばれて、私は軽いパニックになる。
念話ってこういう事があるから好きではないのだ。
『アンソニー! ちょっとでいいから待ってて!』
「メリッサ、いい子だから少しの間ここで待っててね」
まだ濡れたままの頭を撫でると、すっぽんぽんの少女は憮然とした表情になる。
「その子、誰なの?」
「え、誰って……私達の仲間……魔女よ、アネモネっていうの……」
そう言った途端、メリッサは私の手の中のカラスをキッと睨んだ。
「……貴女アネモネっていうの? 私はメリッサよ」
「……知ってるわ」
カラス(アネモネ)が身を起こす。
「貴女が、モルガナの器ね」
少女はその言葉に首を振る。
「ううん、違うわ……私はメリッサ」
そして私の左腕を掴んで、自分の胸元に持っていく。
そして、アネモネに向かって厳かに宣言した。
「私はメリッサ……アイリスの女主人で、その心臓の半分を永遠に分け合う者よ」




