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浴槽と王冠

「アイリス……ッ!」


 浴室の扉がいきなり開いたかと思うと、メリッサがものすごい勢いで飛び込んで来た。

 もちろん、すっぽんぽんだ。


「私も一緒に入る……!」

「うわ!?」


 仰け反った私の真ん前に、少女は一直線に飛び込んで来た。

 

「んびゃ……ッ!?」


 天井まで届くのかと思うほどに綺麗に垂直に飛んだ水飛沫は全部私の顔に掛かり、私は潰された使い魔みたいな声を出して少女の重みを受け止めた。


「へへ、びっくりした?」

「……まあね」


 少女は嬉しそうにニマニマしたまま、私の上から動いてくれない。

 ただし水の中だから、いつもより軽い。


 浴槽から溢れたお湯が排水溝に吸い込まれて行く音を聞きながら、私はしばらくそのまま少女をだっこしてやる。


「……重くないの?」


 少女はアテが外れたような顔でそう尋ねてくる。

 悪戯が不発に終わった(訳ではないけど)のが不思議なようだ。


「そうねぇ……今のメリッサはいつもの10パーセントくらいの重さしかないかな……?」

「えッ、何それ? なんでそんな事分かるの!?」


 前髪から雫を滴らせて、少女は私の顔を覗き込む。


「えーと、それはね……浮力が関係してるからよ」

「ふ……りょく……?」


 きょとんとして、少女は鸚鵡返しに聞き返す。


「そ、アルキメデスの原理ね……何かを水の中に入れると、その入れた物と同じ体積の分の水の重さが引かれて軽くなるのよ」

「ほえー」


 少女はバチャバチャとお湯を手で掻いた。


「言われてみれば、お風呂に入ったら身体がフワフワするね」

「そう、それは、この浴槽の中入った時に貴女の身体が押し退けたお湯の分、貴女が軽くなったって事なのよ」


 少女を見ると、真剣な顔をして聞いている。

 私は言葉を続ける。


「アルキメデスっていうのは今から二千年前のギリシアの数学者でね、この原理を使って王様の冠が本物かどうか調べたの」

「どうやって?」


 いつもは飽きっぽいメリッサだが、今日は食い付きがいい。

 私はニンマリする。


「じゃ、一緒に考えてみようか?」


 まだ乗っかったままの少女をそっと膝の上から降ろし、私は人差し指を立てて見せる。


「……当てたら、ご褒美ね」

「やった!」


 私は御伽噺を思い出そうとするかのように、息を吸い込む。


「昔々……ギリシアの国に、アルキメデスという学者がおりました」


 ある日アルキメデスはお城に呼ばれます。

 王様はアルキメデスに、自分の王冠が純金でできているかどうかを調べるように命じました。


「……溶かせば分かるんじゃないの?」

「それじゃ話が終わっちゃうし、アルキメデスは首を斬られちゃうわよ」


 少しも傷を付けずに王冠を調べるという難題に、アルキメデスは困ってしまいます。

 方法が思い付かないままお風呂に入る事にしました。


「その時に、さっきの原理を思い付いたのよ」

「さっきの原理……?」


 メリッサはうーんと唸って考え込んだ。

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