源流
「ふぅ……」
立ち込める湯気の中で、私は大きく息を吐いた。
風呂は命の洗濯、という言葉がどこかの国にあるそうだが、確かにその通りだ。
「ふふっ……実は二十三億の信者の頂点に立つ法王こそが元祖グラン・ルーメの探究者だったとか、笑っちゃうわよね……」
呟きは、湯気に吸い込まれて消えた。
石造りの浴槽の縁に頭を預けて見上げた天井は、ぼんやりと薄明りに照らされている。
(でも……それだからこそ、カトリックが二千年もの長きにおいて全ての宗教の中で最大にして最強でいられたのも、また事実なんだ……)
宗教にとって最も大切なモノは、信仰心に決まっている。
だが、実はそれよりももっと大切なモノがある。
それは----資金力だ。
例えば十字軍を見てみればいい。
十字軍とは、1095年のローマ法王ウルバヌス2世の呼びかけにより始まった、西ヨーロッパのカトリック諸国が聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還するために派遣した対イスラム遠征軍を主に指す。
莫大な資金を必要としたために法王は徴税制度を発達させ、そのために西ヨーロッパの封建領主が衰退したとまで言われている。
しかしそこまでして行われた十字軍の遠征は、実は1096年から1099年にかけて行われた第一回十字軍以外は悉くエルサレム奪還に失敗しているのだ。
それどころか回を重ねるごとにその質は低下し、1212年のフランスの少年十字軍に代表されるように、少年少女が十字軍として聖地奪還に向かう途中で船を斡旋した商人の陰謀により奴隷として売り飛ばされるなどといった混乱が頻発した。
第4回十字軍に至っては、十字軍自体がキリスト教正教会国家である東ローマ帝国の首都コンスタンティノポリスを攻め落としてラテン帝国を築き、更には同じカトリック国のハンガリーまで攻撃し、ドン引きした法王に破門宣告されている。
イスラム教徒やユダヤ教徒などの異教徒への虐殺も多く、マアッラ攻囲戦では十字軍による食人までが行われたと記録にある。
壮大なバカ騒ぎ----それが私が抱いた十字軍に対する最初のイメージだった。
だが、今はもう一つの視点から考える必要がある。
何故代々の法王はそこまでして十字軍を執拗に派遣したのか?
そして、その莫大な資金はどのようにして賄われていたのか?
(全ては魔女を探すためだったんだ……)
ぴちゃ……ん。
天井から落ちて来た雫が、私の目の前に波紋を広げる。
(そして……トゥーレ協会の源も、恐らくはその頃には既に……)




